第34話 食事会
そこから更に2日後、漸く少し状況が落ち着いたとのことで都市長からお礼を兼ねた食事会のお誘いが来た。
訪れたのはエーシア湖や森の食材、乳製品などの加工食材を使ったアルガイア料理のレストランだった。
「今日はよく来てくれた。今回の件では君たちには本当に世話になった。都市長として改めてお礼を言いたい。ありがとう。そして、1人の父親としても娘を救ってもらい心から感謝していらる。本当にありがとう。今日はゆっくり楽しんでくれ」
ブルノ都市長のそんな言葉で食事会は始まった。
参加者は俺たち3人の他に主催のブルノ都市長とその家族、商人ギルドの会長と衛兵長といった面々だ。
テーブルマナーを気にしなくてもいいように気を使ってくれたのか、それぞれが話しやすいようにという配慮なのか、レストランの個室を借りてのバイキング形式の立食パーティーといった感じの場を用意してくれていた。
食事会が始まると俺たちのところへ都市長がやってきた。後ろにはレティシア嬢と恐らくは奥さんであろうレティシア嬢とよく似た女性が付いてきていた。
「ニシダ殿、スギミヤ殿、楽しんでくれているかな? 」
「はい。堪能させていただいてます」
都市長の言葉にそんな風に返す。
「それは良かった。そうだ! 紹介しよう。これが妻のオフェリアだ」
都市長はそう言うと後ろにいた奥さんの腰に手を回し前へと促す。
「ブルノの妻でレティシアの母のオフェリアと申します。この度は娘を助けていただいて本当にありがとうございました」
言うとオフェリアさんは丁寧に頭を下げた。
オフェリアさんはレティシア嬢と同じ茶色の髪にくりくりした目をした20代後半くらいの上品な雰囲気の女性だった。
正確な歳は知らないが40代半ばくらいに見える都市長とは少なくとも一回りは歳が離れていそうだ。レティシア嬢には3歳上で今は別の都市に留学中の兄がいるそうなのだが、とても2人も子供がいるようには見えなかった。
「いえ、こちらも連れを助けるため偶然そうなっただけですのでどうぞお気になさらず」
俺は気にしないで欲しいと言って頭を下げる。
実際、失礼な言い方ではあるがレティシア嬢を助けたのはエリーゼちゃんを助けたついでと言うか、レティシア嬢が攫われたのか確信がないところもあったので偶然と言っていい状況だったのだ。
「そんなことありません! ノブヒト様はとても素敵でした! 」
レティシア嬢が熱弁してくる。その様子を都市長は少し複雑そうに、オフェリアさんはニコニコと見ている。
「さて、この食事会はあくまでも私たちが礼を伝えるために用意した場だ。君たちへのお礼は別に用意するつもりだが何か希望はあるだろうか? 」
レティシア嬢が落ち着いたところで、都市長からそんな事を聞かれた。
「いえ、先程も言いましたとおりこちらも仲間の救出が目的でしたので、この食事会だけで十分です。それに宿代も出していただいてますしこれ以上は頂き過ぎです」
そう、事件以来、俺たちのバルビエーリの滞在費は都市政府が出してくれていた。俺たちとしてはそれ以上は貰い過ぎに思えてしまう。
「いやいや、それだって君たちを引き止めてしまっていることへのお詫びなのだからこちらのお礼としては足りないよ。そうだな……例えば時間がなくてギルドの昇級試験を受けられないと言っていたがこちらでランクアップの推薦をしてもいい」
都市長はそう提案してくれる。
「いえ、そこはきちんと自分たちで昇級試験を受けますので。お気遣いには感謝します」
スギミヤさんが断る。
そのまま「希望を教えてくれ」という都市長と「十分だ」と断るスギミヤさんのやり取りが何度か続いたが、スギミヤさんが折れて「フリードアンの首都まで送ってもらう」という話で落ち着いた。
「ニシダ殿は何か希望はないのかね? 」
スギミヤさんへのお礼が決まったところで都市長が今度は俺に希望を聞いてくる。
俺も十分お礼はしてもらったと思うのだが、それを言うとスギミヤさんと同じことになってしまう。
「それでは後で少しお話を伺ってもいいでしょうか? 」
悩んだ俺はそう聞いてみる。
「何か内密な話なのかね? 」
都市長が不思議そうな顔をする。
「そういった訳ではなく、ただ俺の旅の目的についても関係することですので落ち着いたところで伺いたいと思いまして」
「そういう事なら。私で答えられることならばいいのだが……」
それの要望に都市長は快く頷いてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます