第21話 遭遇

 森の中で出会った黒髪の少年。


 彼が手を上げると周りにクリーチャーが集まってきた。彼を護るように囲むクリーチャーを挟んで少年と向かいあう。


「君は勇者候――」


 俺が言いかけると同時に少年が手を振り下ろした。すると彼の周りに集まっていたクリーチャーが一斉にこちらに向かってくる。


 俺は慌てて剣を抜いて正面から突っ込んできた一角兎ホーンラビットの突進を受け止める。


「待ってくれ! 俺の話を……くっ! 」


 更に左右からは大鼠ジャイアントラットという鼠のクリーチャーと鎧甲蟲アーマーカナブンが突っ込んできた。一角兎ホーンラビットを押し返した勢いで距離を作って腰の後ろの魔法銃を引き抜いてそれぞれに撃ち込む。


 すると今度は木の上から森山猫フォレストリンクスが飛び掛ってくると同時に吹き飛ばしたクリーチャーと入れ替わるように蛇尾狼スネークテイルウルフが襲いかかってくる。


 それをギリギリまで引き付けてから横に転がり同士討ちさせるが、横から突っ込んできた別の蛇尾狼スネークテイルウルフの体当たりを受けて反対側へ弾き飛ばされる。


 更に追撃で噛み付いてきた蛇頭の尾を斬り飛ばし胴体を蹴り上げた。1匹1匹は大したことはないがこう絶え間なく攻撃をされるとジリ貧だ。


「おいっ! 話を聞いてくれ! 俺は勇者候補同士で戦う気は無い! 」


 次々と来る攻撃を捌きながらクリーチャーを操っているであろう少年に話し掛けるが、少年は相変わらずニヤニヤと笑うだけで攻撃を止めるよう指示する気配はない。




 戦闘が始まりどのくらい経っただろうか?


 絶え間ない攻撃を捌きつつ何匹かのクリーチャーは仕留めたが、まだ十数匹のクリーチャーが残っている。攻撃を躱してはいるが疲労もあり躱し切れずに傷を追うことも増えてきた。ポーションの残りも心許ない。


 そのポーションを飲もうとしたところ横合いから一角兎ホーンラビットの突進を受ける。なんとか後ろに飛び退くが角が右手を掠めて持っていたポーションの瓶を落としてしまった。


(拙いな。集中力が切れてきてる)


 相手の慣れもあるのだろう。こちらが回復しようとするとそうはさせまいと攻撃を仕掛けてくる。


 腰のポーチに手を突っ込み確認するが回復のポーションはあと一本しかない。

取り出して一気に煽ると空になった瓶を正面から突進してきた蛇尾狼スネークテイルウルフへ投げ付けて怯んだところを斬り捨てる。


 これだけ敵を斬っても切れ味の落ちない赤棘刀せききょくとうの凄さに改めて感心する。


(オグズ親方には本当に感謝だな。いつか酒でも持って改めてお礼に行かないと)


 今はウィーレストに戻る気がしないがいつか親方にはお礼をしないといけないと思う。


 そんなことを思いながら横から来た蛇尾狼スネークテイルウルフを飛び退いて躱そうとしたのだが奴は急に速度を上げ右足に食い付いた。


「くっ! 」


 痛みに顔を顰めながら左手の魔法銃を奴の頭部へ放つ。

 収束が甘く仕留めることは出来なかったが衝撃で食い付いていた口が離れる。


「痛ってぇ……」


 クリーチャーたちからは目を離さずにしゃがんで足の状況を確認する。

蜥蜴亀リザードタートルの革で出来たすね当てのおかげでそれ程深い傷ではない様だが右足を軸にしての素早い動きは難しそうだ。


 足の状況を気付かれないように立ち上がりながらクリーチャーの数を確認する。

あまり連携の取れていなかった一角兎ホーンラビット森山猫フォレストリンクスは粗方片付けた様であちこちに死骸が転がっている。


 それでもまだ蛇尾狼スネークテイルウルフが7匹に岩頭鹿ロックヘッドディアという硬い頭で突進してくる鹿と、大鼠ジャイアントラットがそれぞれ2匹ずつ残っている。


(詰んだかもな)


 右足はじくじくと痛み、やはり動くのは難しそうだ。奥にいる少年の顔もニヤニヤとしたいやらしい笑顔のままである。


 最小限の動きで何匹かは仕留められるだろうが、一気に飛び掛って来られると厳しい。それが分かっているのか、クリーチャーたちもいたぶるかの様にゆっくりと距離を詰めてくる。


 とその時、少年が何かに気付いたように表情を驚愕に染めた。


 何事かと思った瞬間、横から黒い影が飛び出し俺の右斜め前にいた蛇尾狼スネークテイルウルフを2匹まとめて斬り捨てるとそのままの勢いで少年に迫る。


 それは黒い全身鎧フルプレートを纏った人物だった。


 その人物は全身鎧フルプレートとは思えない速度で少年に迫る。少年は僅かに後退り、入れ替わる様に横に控えていた岩頭鹿ロックヘッドディアが少年の前に出た。


 俺の前に迫っていたクリーチャーたちも一斉に少年の元へと動き出す。


岩頭鹿ロックヘッドディアを切り伏せた全身鎧フルプレートが少年に迫る直前、蛇尾狼スネークテイルウルフが少年を咥え上げると背中に乗せて一気に走り去っていった。


 俺はそのあっという間の光景を呆気に取られて見ていた。

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