第14話 わらしべ長者

 北門へ戻ってきたタイミングで四つ目の鐘が鳴った。この感じならなんとか午後からは森に入れそうだ。


 とりあえず一番近くの商店に入る。カウンター前まで進み店員に話し掛けた。


「すみません。ちょっと伺いたいことがあるんですが? 」


「いらっしゃいませ。どういったことでございますか? 」


 30歳くらいの男性で物腰が柔らかい人だ。


「実は魔道具の部分を持ってるんですが、それを使って魔道具を作りたいんですが工房をご紹介頂けないでしょうか? 」


 魔法銃のことはとりあえずぼかして聞いてみる。


「申し訳ございません。当店は工房と専属契約しておりますので、お客様個人での製作のご依頼ではご紹介出来かねてしまいます」


 なるほど、自分の商店以外の依頼は受けさせないようにしてるのか。それなら仕方ない。


「そうなのですね。ありがとうございました」


 店員に例を言ってすぐに店を出る。



 数軒回ってみたが同じようなことを言われて断られた。あまり時間もないし次で最後にしよう。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか? 」


 最後に入ったのは中規模商会が運営している店舗だった。対応してくれたのは口髭を整えたロマンスグレーだった。セバスチャンとお呼びしたい!


 ここでもやはり魔道具の部品が手に入ったので魔道具の製作を依頼出来る工房を紹介してもらえないかと聞いてみる。


「かしこまりました。当店では複数の工房契約しておりまして、工房によって得意な魔道具が異なるのですがどういったものの製作をご希望なのでしょうか? 」


 おや?今までにないパターンだ。ここは魔法銃のことを話してみるか。


「魔法銃の製作をお願いしたいんです」


「魔法銃ですか? 」


 魔法銃の製作依頼が意外だったのか、少し驚いたような反応が返ってきた。


「申し遅れました。私はこのトロイヤ商会の代表をしておりますロックス・トロイヤと申します。失礼ですがお持ちの部品を確認させて頂いても宜しいですか? 」


 なんとこのロマンスグレー改めてロックスさんは商会の代表だった。渋い外見の上、なんかかっこいい名前だな。


「俺は冒険者のノブヒト・ニシダと申します。こちらはお世話になってる同じ冒険者のイリス・シャルールさんです」


 自己紹介と合わせてイリスを紹介する。


「イリス・シャルールです」


 イリスも改めて自己紹介して軽く頭を下げる。


「こちらが俺が手に入れた部品になります」


 カバンから先程手に入れた魔力集積回路を取り出してロックスさんに渡す。


「お預かりします。ふむふむ。

 ………

 ………

 ………

 なるほど。結論から申しますとこちらの魔力集積回路では魔法銃は作れません」


 えっ………


「でも、これって魔力を集める回路ですよね? 」


 諦め切れずに食い下がる。


「はい、確かに魔力を集める回路ではあるんですが容量が大き過ぎますね。こちらの回路を魔法銃に組み込んだ場合、恐らく暴発します。もし、疑われるようでしたら何軒か魔法銃の工房をご紹介しますので鑑定して頂いても構いません」


 マジか……ロックスは誠実そうな人だし疑うつもりは全くないけどちょっとこれはショック過ぎて立ち直れないかも……


「ですが、これだけ容量の大きな回路でしたら他の魔道具に使えます。良ければ買取もしくは当店の魔法銃と交換させて頂けませんか? 」


 思ってもみない提案だ。


「ちなみに買取だとおいくらくらいで? 」


 恐る恐る聞いてみる。


「そうですねぇ、金額3枚くらいでしょうか」


「き、き、き、き、金額ですかっ!? これってただの部品ですよねっ?! 」


 驚き過ぎて声が大きくなってしまった。


「はい、確かに部品ですが、これだけの回路ですと恐らく今の農業区画を全て補えるくらいの水の魔道具が作れます。他の魔道具も作れるでしょうから、たぶん出来た物は領主様が買い取られると思いますので私共と致しましても充分利益を得られる取引になります」


 なるほど……そんなすごい回路だったのか。茶髪兄さんに悪いことしたなぁ。イリスも驚き過ぎて目を丸くしている。


「えっと、とりあえず魔法銃を拝見してもいいですか? 」


「構いませんよ。金額3枚までの価格帯ですとあちらの棚になります」


 ロックスさんに案内されて魔法銃の棚を見る。金額3枚なら属性付与したものが買える。ただ、それだと金貨を使い切ってしまうことになるので、後々拡張出来る金貨1枚の物と予備で無属性の銀貨8枚の物を選び、残りは現金で受け取ることにした。


「本日は結構な品をお持ち込みいただきましてありがとうございました」


「いえ、こちらこそありがとうございました。あとこの辺りでマントが買えるお店をご存知ありませんか? 」


 ついでなので購入していなかったマントが買える店を聞いてみる。


「それでしたら当店から北門側の2軒お隣にございますコムザ商会が宜しいかと存じます」


「ありがとうございます! 」


「いえいえ、今後とも宜しいお願いいたします」


「こちらこそ! 」


 ロックスさんにお礼を告げて店を出ると商会された店に向かった。そこで丈夫なマントを大銅貨4枚で購入し、イリスに立て替えてもらった大銅貨3枚を返した。


 さて、少し時間が掛かったけど、ギルドに行って森へ行こう!

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