⑪氷地獄(カイーナ)
――――その触手は、全長にして15メートル以上、高さ5階のビルを超えていた。
太さも2メートル前後。
さらにその表面に密集して生える羽枝は、一本一本が人間の背丈ほどもある。
羽枝は発光器官を備え、暗い枯葉色から鮮やかなレモンイエローまで様々に変色し、明滅する。
しかもその明滅には一定のパターン周期があった。
呼吸のように。
妖しく不安な黄金の光が、宵闇に濡れるセントローレンス湾をねぶり溶かす。
「……なんだ、おい、そいつは」
アリアナが巨大触手を見上げて、拳を震わす。
イヴにはその震えが、戦慄によるものだと理解できた。
何が起きているのか理解できない。
ロバートが虚空に裂け目を入れ、そこから見たこともない大触手が侵入している。
まるで精密な壁画を破壊し、その向こうから全く別の風景と生き物がやってきたかのよう。
そして何よりイヴを震え上がらせたのは、その触手の造形が、一族のものと酷似していたことだった。
「キギ、あれはなに……?」
イヴは後ずさりながら、つる草に尋ねる。
つる草は袖口から顔を出し、わなわなと微振動。イヴの呼びかけに応えない。
「キギ?」
イヴが怪訝の声を上げたのと同時。
巨大触手が、伸びる。うねりながら。
アリアナへ。
「!!」
アリアナは後方へ素早く大きく飛び退く。
中空の割れ目から伸ばされた魔手が、アリアナのいた場所を撫でた。
人間大の羽枝が土草をすくい取り、地面を金色に汚染する。
濁った黄金色に染まった草は一瞬で形を失い、土も明らかに別の物質へ変貌していた。
「イヴ! もっと下がれ! こいつは――」
アリアナが後ろのイヴへ叫ぶが、巨大触手は反射的に加速。横薙ぎの形でアリアナを捉える。
巨壁が恐ろしい速さで迫った。
後ろのイヴさえ巻き込む大振りで。
「―――――なめんじゃねえぞクソがっ!」
アリアナ、全身を強烈に励起させ発光。エネルギーの開放値を上げる。
青白いスパークが散る。
眩しいほど帯電した4つの触手全てをひとまとめにし、極太の触腕で自ら巨大触手に飛びかかった。
信じがたい速度で迫りくる金の巨壁。
アリアナは猛獣の形相で渾身の一撃を叩き込む。
衝撃。
迸る熱と光。破裂する大気。
イヴの服と髪を横殴りにする。
青い熱量の打撃がアリアナの背よりも大きな羽枝を押し潰し、黄色い粘液を周囲に撒き散らす。
青い火花をばら撒きながら、アリアナの触手は猛烈な膂力で巨大触手を押し返した。
核分裂反応で獲得したエネルギーが、アリアナに人外の馬力を授けていた。
「なああああぁめえええんんんなああああああぁっ!!」
クジラのように巨大な触手を前に、アリアナが吠える。
帯電する触手が、さらに激しく電光を膨らませた。
羽枝に蓄えた熱量を触手の先端から一気に放出。閃光が炸裂。
高エネルギーの衝撃波が金色の触手を焼き貫く。
焦げつく悪臭が海辺を汚し、巨大触手が震えた。
殴り潰され、焼き焦げた大型の羽枝。
それが瞬く間に修復される。ビデオの逆再生のように。
巨大触手はくねりながら大きく振り上げられる。
紺と薄紅に染まる夕空に、異形の触手が佇立した。
そして悠然と、アリアナめがけて振り下ろされる。
「私を! 誰だと思ってやがるッ!」
アリアナは気焔をあげ、首元から新たな触手を2つ追加する。
新しい触手は胸の前で組まれ、そこから青く輝きを放つ。
瑠璃色の光輝の中から、鉄の杭が生えてくる。
ぐんぐんと伸びていき、全長は6メートルにもなる。
直径約15cm。
アリアナが捕食した大量の物質から、金属類を抽出して形成させた鉄杭だ。
先端を鋭く尖らせた巨大な鉄杭を、4本の触手が巻き付き包む。
そして青白く激烈に発光。
思わずイヴが目を覆ってしまうほどの光量。
「ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉッッ!!!」
雄叫びを上げるアリアナ。
光そのもののような触手の塊が、上へ向けられる。
巨大触手の迫る上空へ。
そして前触れもなく、光の塊が爆裂。
膨大な閃光と轟音が天と地と海を炙って貫く。
炸裂した煌めきは、余剰エネルギーで励起した空気のプラズマだ。急激に膨張された大気は衝撃波となって爆音を轟かせ、周囲の全てを閃きとともに吹き飛ばす。
その膨大な閃耀の爆心地から、1トンの鉄塊が尋常ならざる速度で放たれる。
初速は音速の2倍を超過。
ほとんど減速しないまま鮮やかな黄橙色のビームを描き、巨大触手へ突き刺さる。
弾体となった鉄杭の運動エネルギーは30万キロジュール。戦艦の主砲に匹敵した。
先ほどの殴打で焼け焦げ損壊する巨大触手が、この激甚そのものの砲撃に耐えられるはずがない。
そう確信したアリアナ。
「………なん、だと?」
その表情が、凍りつく。
――――鉄杭は、静止していた。巨大触手の表面で。
撃ち上げられた鉄杭は白熱化したまま、その先端を何も貫けず静止している。
先端は羽枝に接触していた。
正確には、羽枝を覆うように広がる、半透明の被膜にだ。
そこに先端が触れ、それ以上先に進めないでいた。
ロバートと同じ、エネルギー吸収皮膜。
それがいつの間にか、あの巨大な触手の表面全てを一分の隙もなく覆っている。
ロバートのそれとは桁違いの展開面積。
鉄杭は白熱するエネルギーを一瞬で奪われ、元の黒色へ戻った。
それどころか表面の温度が急激に低下し、凍結を開始。空気中の水分は凍り、鉄杭に霜が降りる。
冷気が止まらない。巨大触手の被膜に触れた空気が熱を奪われ、猛スピードで低温化。
海から運ばれる蒸気が凝華し、氷の結晶を撒き散らす。ダイヤモンドダスト。
降り注ぐ細氷の乱舞の中、落下を続ける触手の表面が金色に輝く。
巨大触手が侵入した、空間の割れ目。
黄色い光が漏れ出すそこから、何かが伸びてくる。
木だ。
葡萄の木に似たつる性の枝を持つ。それがいくつも枝分かれし、巨大触手の表面を這いながらこの世界に顕現した。
葡萄めいた木に、実がなる。
黄色く輝く実。
実は、Y字状の物体だ。
葡萄の房のように連なり、それが枝のあちこちで実っている。
アリアナの顔色が変わる。
「やべ―――――」
唸ってその場から飛び退こうとしたが、一瞬遅い。
葡萄のように配列した集合体が、散華。
海岸一帯に、大量のY字物体がスコールのように降り注ぐ。
当然イヴにも。
「!!」
キギが残った力を振り絞って黒剣をかざし、防御。Y字物体が付着する。
黄色い果実の豪雨はありとあらゆる場所に着弾。
草も土も低木も岩も、何もかもが黄色に占領される。
薄く発光するY字物体により、海岸が淡く浮かび上がった。
その中で、6本の触手で全身を守ったアリアナ。
触手を再展開して防御したものの、その触手群のあちこちに隈無くY字物体が取り付いている。
「くそが………動けねえ」
アリアナは冷や汗を流す。
謎の物体が纏わり付いた触手は、やはり極端なほど動きが鈍かった。
しかも単に動かせないのではない。
まるで空間に縫い付けられたように、触手そのものをその場から動かすことが出来なかった。
いつもなら任意で消滅できるはずの触手が、消滅命令に反応しない。
Y字の物体がアリアナの触手を何らかの力で妨害しているのは明らかだった。
苦々しく歯軋りしながら、アリアナは上へ顔を向ける。
そして、目を見開く。
「……おいおい、冗談だろ?」
鉄杭が、落下。
まっすぐ。アリアナへ。
貫通。
「!!」
大触手が解放した鉄杭は、空間に固定された触手のせいで動けないアリアナの腹部に命中。
本来なら主を防御しきるはずの触手がなんの力も発揮できない。
体を防御していた触手は薄紙のようにあっさり貫かれ、1トンの鉄杭がアリアナを串刺しにする。
「っ! ガ!ァぁっ!!」
呻き、仰け反るアリアナ。
恐ろしいほどの低温状態だった鉄杭が、接触するアリアナの傷口とその周辺を凍結させる。杭と肉体が凍って癒着し、体の転倒を許さない。
幸運にも背骨や骨盤には刺さらなかったが、自身で生成した鉄杭は強烈な作用でアリアナの体温を強奪していく。
「っァざ、あぁ、けんん、なコラぁ……ッ!」
アリアナは腹部から、消化吸収用の触腕を顕現させる。内臓と木の根が合わさったような触腕たちで、鉄杭を分解しようとした。
――――巨大な羽枝が、それを阻む。
巨大触手から一部、伸長してやってきた羽枝の群れだ。
いつの間にか本体よりも早くアリアナに襲来。表面でアリアナの触腕を絡め取る。
羽枝の表面にはノコギリの刃のような刻み目が細かく付いている。
アリアナの触腕が放つ消化粘液をものともせず、巨大羽枝は触腕を抉って刮いで削って散らす。
触腕だけではない。
Y字物体が付着する触手にも、巨大な羽枝が絡みつく。
アリアナの羽枝つき触手を、巨大触手の羽枝が無理矢理引き千切る。
抵抗らしい抵抗も見せず、あっさりと八つ裂きにされるアリアナの触手。
アリアナの体ががら空きになる。
そこに、新たなY字物体が飛来する。
あの葡萄めいた木の枝から。
アリアナめがけて。
「ぐォっ!」
アリアナの体が跳ねる。
黄色いY字物体は串刺しにされたアリアナにいくつも突き刺さり、肉に食い込む。
その物体から、濁った黄土色の液体が霧状に噴射する。
まるでアリアナの血の代わりのよう。
「なああああめえええるうううううなああああああ!!」
アリアナは歯を食いしばりながら、全身を励起。
体内から大量のエネルギーを解放し、力のボルテージを上げる。
アリアナが青白く輝き始めた。
………が、その光に呼応してY字の物体も金色に輝く。
青い光を浴びた金の輝きが、緑へ変化。
噴き上がる黄色い霧も濃淡が刻々と変化する緑色に。
緑の霧が輝きながら上空へ立ち上る。
そして霧は引火したかのように、突如としても燃え上がった。
緑の火柱となって天空へそそり立つ。
上空には巨大な触手。
触手の表面を覆う半透明の皮膜に火柱が触れ、吸収され、地と繋がる。
緑の炎はアリアナに付着したY字物体の全てから伸びていた。
緑の火柱が郡立する。
何本も何本も。
ダイヤモンドダストの舞う中を。
全て巨大触手に向かって。
巨大な触手が震える。
歓喜のように。
「あ、が、ぁ、ぁ、ぁ……!」
アリアナはエネルギーの解放を続けたが、それが状況の打開へ繋がらずにいた。
莫大な熱量を投入しているというのに、その力はアリアナの体や触手たちには向けられず、Y字物体を通して外部へ漏出している。そのせいで体内でさえ鉄杭の除去に成功していない。
緑の火柱となって放出されたエネルギーを、巨大触手が吸い上げていた。
うまそうに。
その巨大触手が、悠然とアリアナへ迫る。細氷と氷霧を撒き散らしながら。
なんの手立ても残っていないアリアナへ。
「………アリアナ」
その光景を、イヴは見ていた。
イヴを襲ったY字物体は、全てキギの黒剣が防いだ。
黒い剣状の突起は大量の物体を叩き落とすことに成功。不思議なことにアリアナの触手と違って表面に付着することもなかった。
当然イヴは全くの無傷である。
しかしその完璧な防御のために、キギに与えられたエネルギーは全て使い切ってしまった。
海岸の気温は下がる一方だった。イヴの息が白い。
足に力が入らず、その場から動けなかった。全身がガクガクと震える。
キギは突起を備えた先端部分を動かせず、枝分かれしたつる草を弱々しく揺らすだけだ。エネルギーが足りない。
低温化し続ける空気が、イヴからさらに熱量を奪っていく。
冷却された空気は地表に沈降し、海岸を強風で舐める。
黄色いY字物体で汚染された海岸が霜で覆われていく。
海岸全体が冷やされていき、下降気流の範囲が増大。
さらに上空の空気が引きずり下ろされ、小規模なダウンバーストとなって辺り一帯に猛烈な冷風を放出する。
破損した衣服しかないイヴは、もはや立っていることも出来なくなった。
その場にうずくまり、痛いほど冷たい暴風に苛まれ続けるしかない。
荒れ狂う冷気の領域で、緑の火柱達が輝く。
「アリアナ………」
猛風に耐えながら、イヴはその火柱を浴びてゆっくり降下していく巨大な触手を眇めた。
あれが落ちる先にアリアナがいる。青白く輝き続けているが、その熱量を歯牙にも掛けられていないアリアナが。
「ロビン……」
イヴはこの惨状の発生源を探す。
ロバートは巨大触手の根元の真下にいた。
つまり空間の割れ目の下。
暴風の爆心地で全身を氷と霜で覆われるが、一顧だにせず佇む。
ロバートは頭から生やしたアンテナ状の突起を、変わらずゆるやかに明滅させている。
その明滅に合わせ、空間の裂け目が拡大と収縮を小刻みに繰り返していた。
「ロビン」
イヴは気付く。
ロバートは巨大触手を呼び出してから、何もしていない。
否、したくでも出来ない。
空間の割れ目はイヴの理解できない原理で壊され、元の状態に戻りたがっている。
その閉じたがっている空間を、ロバートが無理矢理に抑制していた。
あの巨大な触手がこの世界で猛威を振るえているのは、ロバートが空間の割れ目を維持しているからだ。
「ロビン……」
イヴは気付く。
この惨状の終わらせ方を。
「ロビン……ッ!」
叫び、泣く。涙が飛んで凍る。
もう時間がなかった。
青白く輝いていたアリアナの励起状態が、見る見るうちに弱くなっていく。
緑の炎はどんどん黄色に近付き、元の霧状に戻っていった。
現段階で使用可能なエネルギーが、底を尽きかけている。
アリアナが強奪した核燃料自体は、まだまだ大量のエネルギーを内包していた。
が、アリアナが得たのは制御された核分裂から得た1週間分のエネルギーだけだ。
時間を掛ければ掛けるほど、取り込める核エネルギーは増大する。
しかし、この巨大触手によって無意味に漏出するエネルギーの放出量が、その取り込み量を超えてしまった。
そして目の前の巨大触手は、アリアナが再度エネルギーを取り込む猶予など与えてはくれない。
アリアナの反応が悪くなったのを悟った巨大触手が、根本から何か新しいものを呼び出す。
空間の割れ目から、巨大触手と葡萄めいた木に続き、3種類目のそれがやってくる。
これも木だった。
葡萄めいたものより太い樹木。
しかし奇妙なことに、それは幹が完全にへし折れた無残な姿だった。
割られた繊維質の断面から、小さな枝や葉が新たに何本か伸びていた。
イヴは瞠る。
その樹木に見覚えがあった。
「…………キギ?」
つる草状のキギではなく、夢で見た、あの荒涼世界の樹木と非常によく似ていた。
イヴの袖口から伸びるキギの茎が震えている。
泣いているのだと、イヴには分かった。
身に宿る友からの、悲哀の放射が飛び交う。
「……あ」
イヴは見る。
巨大触手が呼んだ、へし折れた樹木から、赤い光が煌めく。
発生源は、新しい枝にできた赤い実だ。
「―――……」
アリアナは何も出来ない。
抗う熱量が弱まり、凍結の勢いの方が勝り始めている。
「キギ、助けて」
イヴは訴えるが、キギは何も応えない。
初めてだった。
キギがイヴの呼びかけを完全に無視している。
キギはあのへし折れた樹木しか見ていない。
イヴを無視して。
「キギ……」
イヴは俯く。
「―――……」
イヴは想う。
あれがキギの求めていたもの。
あれがキギの目指すもの。
それが、今、そこにいる。
それが、キギの願い。
「―――……」
イヴは想う。
キギを。
ロバートを。
……アリアナを。
「――――ごめんね、キギ」
イヴは痛みと苦みに塗れながら呟く。
地面に転がる黒剣状の突起を掴む。
「ロビンの願いを、叶えてあげて」
明星が輝く。
「必ず、あとで会わせてあげるから。天の国で」
アリアナ、短剣のようなその突起を強く握りしめる。
そして、一拍の呼吸を整え、一気に刺した。
自分の左胸を。
「もしアリアナを助けないなら、私はここで死ぬ」
鋭い激痛。
冷たい感触。
炯々と輝くイヴの瞳。
「もう全部おしまい。みんな、誰も彼も。ここで。キギが助けなかったら」
黒剣を押し込んでいく。
全身が悲鳴を上げた。
やめろ、と腕と手首と手と指が抗う。神経が焼けそうになる。
「おねがい」
イヴは燃える心髄でそれらをねじ伏せた。
「――――アリアナを助けて」
****
荒涼とした世界で、その樹が輝く。
****
葉が、拡がる。
イヴが胸に突き立てた突起がその硬度を急激に失い、葉状の集合体に変化。
容易にひしゃげ、それ以上押し込んでも何も損なわない状態になる。
「キギ……」
変化はそれだけに留まらない。
突起だった部分から枝が伸びる。無数の葉を備えた大振りの枝が、イヴの胸元から一気に伸びる。
大量の葉はさらにさらに大きくなる。1枚1枚が人間の頭ほどに生長。微細に蠢く。
その巨大な枝葉が、輝き出す。
黄金色に。
同時、イヴの周囲の大気が一気に熱せられる。
氷や霜が溶け、水蒸気となって吹き散り、また凍り付く。
漏れ出した金の光が物質を温める。
………正確には、光が温めているのではない。
光に含まれる粒子。
それはマイナスの電荷を持っており、物質の原子核に接近すると、その原子核の周囲を独自の軌道で回り始める。
ただしその粒子の軌道半径は、電子の軌道より遙かに短い。
原子核に非常に近い位置にあるマイナス電荷の粒子は、プラスの電荷を持つ陽子に捕獲されて結合。中性子に変化する。
空気中の窒素は陽子を1つ無くして炭素14へ、酸素は窒素16へ変化。
そしてこの不可思議な粒子と結合して出来た中性子は、同時に陽電子とニュートリノを放出する。
放出された陽電子が空気中の電子と対消滅を起こし、光子へ変換。ガンマ線となって周囲に高エネルギーをばらまく。
氷と霜を溶かしたのはこのガンマ線だった。
****
その樹は枝に茂った葉という葉を全て天上へ向け、その光を受け止めていた。
唯一の星からの光を。
****
キギの葉は何処かからもたらされる光を、人間世界に放ち続けていた。
周囲に無指向で放射していた光は葉の角度を緻密に操作され、指向性を与えられる。
全ての光が一直線に同じ目標へ向けられる。
―――――ロバートへ。
詳細不明の魔光レーザーは空気にβ崩壊と同様の現象を強制。
光軸を中心にガンマ線によるエネルギーフィールドを形成する。
酷寒の大気は励起。
光線の周囲を熱と光がさらに覆う。
荷電粒子を含むそのレーザービームを、ロバートは回避できなかった。
幻怪なる黄金の光芒が彼の心臓を焦点として集束する。
肉体を形成するあらゆる元素が変異を起こす。
炭素はホウ素に。
窒素は炭素に。
酸素は窒素に。
そして水素は中性子に。
物質特性は完全に喪失。
ただの元素の集合体へ変化。
そこへ発生したガンマ線の高エネルギーバーストが肉体を物理的に破壊。
光がロバートの体を貫き、心臓を消滅させる。
刹那の後。
ロバートの体が、爆裂した。
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