幕間(レン視点)、クローディア登場
◇ ◇ ◇
「いいなあ」
あたしは朝日が昇る方向へ歩いていくラッドとイリスちゃん、二人の背中を見送りながら思わず呟いていた。
少し心細くなり、手に持った短槍をぎゅっと握る。
部族のしきたりに縛られるのが嫌で五年前に故郷を飛び出してから、大所帯の
今いる
しかし、自由気ままな旅への憧れはいつもあたしの心の中で膨らんでいく。あの二人に付いていけばよかったかなと、少しだけ後悔を感じた。
「ラッド、かっこよかったな」
あたしが
半泣きになりながら
本当はもう少し話したかった。本当はもう少し感謝を伝えたかった。
だけど、ラッドはイリスちゃんの後を追いかけたくてうずうずしている様子だったから、つい背中を叩いてしまった。すぐにラッドは走り出してしまったから、やっぱりイリスちゃんのことが気になっていたのだろう。
二人の旅路に幸多かれと、心から祈りたい。
だけどなんだろう。胸がそわそわして落ち着かない。
今まで感じたことのない不思議な感覚に首を傾げていると、あたしの名前を呼ぶ声があった。
「レン」
凛とした女性の声だ。
顔を上げると、そこには予想通りの人がいた。
「クローディアさん!」
クローディア=レヴァナント。
あたしたちの
溢れるような金色の髪に、見ていると吸い込まれそうな青の瞳を持つ。特別な力が秘められた盾と長剣を扱い、誰もその鉄壁の防御を破ることができない。
クローディアさんは今回の緊急
「こっちに
クローディアさんの問いかけに、あたしは力なく首を振る。
「……あたしは力至らず、ただ蹂躙されるだけでした。あたしを助けてくれたのはラッドです」
「ラッドが? まさか、
あたしの答えに、クローディアさんの目が驚きで見開かれた。無理もない。以前の臆病な彼を知る者ならば信じがたい話だろう。
「……怪物を殺したのは、死神ですぜ。クローディアの姉御」
それまで黙ったままだったゴートンが小さな声で言った。
顔はすっかり青ざめ、体は小刻みに震えている。普段の豪胆な彼からは想像できない状態だ。
「見た目は貧相な小娘なんですが、身の丈よりもでかい鎌を振り回すんです。顔色一つ変えずに淡々と
あたしはゴートンの言うことに反論しようかと思ったけど、彼があまりに怯えていたので口をつぐんだ。
それに、あたしもイリスちゃんから何も感じないわけではなかった。なるべく態度に出さないようにしていたが、あの子は常人ではない雰囲気を纏っている。そう……みんなが語るように死をもたらす神を連想させるような雰囲気を。
「大鎌を持った死神の少女……もしかすると、彼女は灰色の髪をしていなかったか?」
「え? あ、はい! イリスちゃんは確かに灰色の髪をしていました」
あたしが答えると、クローディアさんは神妙な顔つきになり何かを考え始めた。
「あの……クローディアさんはイリスちゃんのことを知っているんですか?」
恐る恐る尋ねると、クローディアさんは表情を変えないまま答える。
「いや、私の知っている名前ではない。だが、話に聞く〈黄昏ノ魔女〉と特徴が一致している……今、イリスと言う少女はどこにいるんだ?」
「イリスちゃんはあっちの方向……東の方角に向けて歩いて行きました。ラッドと一緒に」
あたしは二人が去って行った太陽が昇る方向を指差した。
「……ふむ、ラッドと一緒か」
クローディアさんは手を顎に当てて再び考え始める。
なぜ、クローディアさんはこれほどイリスちゃんを気にかけているのだろうか。あたしの知らない大きな理由があるような気がする。
それに先ほど呟いた〈黄昏ノ魔女〉という言葉。あれは一体何を意味するのだろうか。
「レン、君は確かラッドと仲が良かったね」
「え、えぇ!? まぁ、それは……
突然の問いかけに、あたしは顔が熱くなるのを感じた。
ラッドとは年が近いこともあってよく話をした。だけど、彼は失敗をして自信をなくすたびに縮こまっていって、
なので、昨日は久しぶりに対等の関係で会話ができて嬉しかった。
「そうか。では、すまないが頼みごとがあるんだ。長く
「頼みごとですか? もちろんです! 何なりと申しつけてください」
あたしは姿勢を正してクローディアさんに答える。
クローディアさんから伝えられた「頼みごと」は、あたしの想像もつかないような内容だった——
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