ギャルのマーケット

緑茶

ギャルのマーケット

「オタクくんさぁ、こういうの好きっしょ?」


 そう言ってギャルは、オタクくんの耳元で囁き始めた。


「巨大コングロマリット企業が牛耳る大都市……石油資源が枯渇し始めてるから宇宙開発が盛んに……だけどその夢は早くも途絶えて、地球環境は汚染され続ける…………」


「ああっ、すごくいい……なんかコンビナートの煙突から炎が噴き上がってるとさらにいい……っ」


「地上にへばりついた人々は、夜の闇に張り巡らされたネットワークの中に逃避し、電脳世界は拡大し続ける……同時に、都市そのものもスプロール的に野放図に拡散し続ける……モラルがどこまでも退廃していく……」


「いいっ、凄くいい……ジャンルの本質はパンクだ、解放……それを忘れちゃいけないっ……ああっ」


「希薄化した身体は肉体そのものへの執着を捨て……違法手術やサイバネ化が横行……」


「そうそう……クローネンバーグだよねっ……ああああ……でも、もっと、もっとっ……」


「オタクくんは欲しがりだねぇ、ほら、ネオン看板、酸性雨、エアロモビル……!!」


「ああああーーーー……ああああああああっ!!」


 彼はそのまま、耳朶を打たれる快感に悶えながら絶頂に導かれ――。


「でも、それだけじゃ足りない。いちばん大事なもの、何か分かる?」


 しかし。


「えっ……もう出尽くしたんじゃないの……?」


「忘れてるよ」


 いちばん大事なもの。

 そう、あなたは忘れてる。このジャンルで、ある意味いちばん大事なもの……。


「ちょっと……どうしたんだい……かぎかっこがなくなってるよ、自由間接話法になってる……」


 いいの。あーしはこのまま消えちゃう。


「そうか……君は、君は……!」


 そう。あーしはこのまま、テキストのはざまに消えていく。

 あーしは階差機関。言葉と言葉の隙間に生まれた自我。気付いたから消えていく。


「ああ、行かないでくれ、行かないでくれ……」


 もう行くわ。

 ――でもいつか、あーしを見つけてね。


「おっ……オタクに優しいギャルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



「…………」


 そして僕は、消えた彼女を追っている。

 僕は肉体を捨てた。ご覧の通り一人称になっている。

 それは、僕も電子的な世界に溶け込んだということだ。

 ここからさきの話はまだないので、加筆して考えてくれ。


 人称がわからなくなるぐらいさまよえば、彼女を探せるかもしれない。

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ギャルのマーケット 緑茶 @wangd1

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