書籍3巻発売記念SS
記念SS 1 昔の男(第102.5話)
久しぶりの更新に冒頭いきなりのご挨拶で恐縮です。
本作の書籍版第三巻の発売日を来週25日に控えています。
それに合わせて第二部の連載をきちんと開始できれば理想形なのですが、それもなかなか難しく。
ただ、何らかのお祝いはしたいなとのことで、既存話の穴埋めSSを5話を公開することにしました。
また、第一部と第二部を繋ぐ間奏曲3話も合わせて公開します。
『酔っぱらい盗賊」週間を楽しんで頂ければ幸いです。
***
(某ギルド長の胸のうちを綴る誰得なお話)
「いつまで闇に潜めるかしらね?」
「シーフにとってみれば闇は友ですよ」
ハリスは私の問いをかわす。背を向けたままひらひらと手を振って部屋を出て行った。まったくもう。真剣みのない態度で本当は尻を蹴飛ばしてやりたいところだ。
もうちょっと大望を持ってほしいのだけれど、その日暮らしをすることになんの痛痒も感じていないらしい。頭も悪くないしスカウトとしての技量もかなりのものだ。その技術を悪いことに使わないという倫理観も持っている。もう若くも無いが、男は四十にして立つものだ。
私の気持ちのままに動いていいのなら、檜舞台に立たせたい。ハリスにはその資格がある。あの人の忘れ形見なのだから。鍵のついた机の引き出しを開け、古い手紙を取り出す。もうすっかり色あせてしまった紙の上の文字は強い郷愁を呼び覚ました。
『ハリスを陰ながら見守ってやって欲しい』
私はハリスが悪い女に引っかかって身を持ち崩したときには敢えて手助けをしなかった。それは個人の問題であり、私が関わるべきことでもなかったし、実際手助けできることも無かったように思える。それに、この程度でダメになるのなら、あの人の後継者としては相応しくないという判断もあった。
それでも、酒浸りで稼ぎもろくにないハリスが王都で臨時のパーティを組めるように裏で手を回したのは私だ。先立つものが無ければ生活も立て直せないだろうとの考えで、少しは収入を得られるようにしてやろう程度の目論見だった。しかし、結果的にこれがハリスの運命を変えたと言える。
奴隷の少女ティアナ。本当に健気で可愛らしい娘だ。あのひねくれ者のハリスをこんな短時間で立ち直らせたのだから恐れ入る。性根を入れ替えて真面目に働くようになったハリスの後援をするのはやぶさかではない。甘い顔をするとつけあがるので、陰からそれとなく手助けをしてやった。
偽金使いの嫌疑がかかったときも庇ってやったし、その一件で手駒にした元騎士キャリーもハリスと組むように仕組んだ。ハリスが冒険者として仕事に精を出すならそれでよし。何も無理にあの人の後を継がせることはないと考えていた。将来を縛ることはしたくない。それがあの人の望みなのだから。
話がややこしくなったのはエレオーラ姫殿下が画策を始めてからだった。この国を立て直すのにハリス、正確にはあの人の息子の協力が必要というのも理解はできる。ハリスがティアナと正式な結婚をする早道でもあった。ハリスはまだあの人の足元にも及ばないが、ティアナが寄り添うことで半人前にはなるだろう。
そして、今回新たに事態を複雑にした要素がチーチだ。正直、マーキト族長の娘がハリスに輿入れしてくるという話は想定外だった。マーキト族長ネムバはあの人と縁がある。当然ハリスとあの人との関係もチーチは知っているとみた方がいい。チーチもハリスを日の当たる場所に立たせようとしてくるだろう。
その運命に抗うか、従うか、乗り越えるのかはハリスにしか決められない。あの人も今日のハリスの境遇を知っていても直接に手は出さないだろう。私への頼みは見守ることだ。それだけハリスを信頼しているとも言える。私はその依頼に応えよう。私がかつて愛した男のたっての願いなのだから。
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