第97話 お茶会
♡♡♡
「いいからティアナも座って。ハリスも居ないんだしさ。あ、自分のカップ持っておいで」
お代わりのお茶を運んでいったらお姉ちゃんに引き留められた。今日もキャリーさんがシルヴィアさんとエイリア様を連れて遊びに来ている。言われるままに一番台所よりの私の席に座った。お姉ちゃんがポットから私の分のお茶を注いでくれる。
「やはり誠実な方が一番ですね」
「私もそう思う。浮気男は最低だね」
エイリア様の言葉を受けてお姉ちゃんが深く頷いていた。何の話だろう?
「でも、誠実かどうかなんてお付き合いしてみるまで分かんないですよね」
「そりゃそうだけどさ。なんとなく分かるでしょ」
「私は結婚するならやっぱりカッコイイ人がいいです。ねえキャリーさん?」
シルヴィアさんに問われキャリーさんは齧ったリンゴを飲み込む。
「働きだすとそれだけじゃ、ちょっとね」
「どういうことですか?」
「私が前に所属していた騎士団に見た目だけは役者並みの美男子が居たんだけどさ。剣の腕前も微妙だったし失敗が多くてね。周囲から厳しい評価だったわよ」
「それってモテない男の僻みじゃ?」
キャリーさんは肩をすくめる。
「歓楽街の女性たちも顔だけ良くてもねえ、って感じだったから。やっぱり将来性がないと思われると結婚相手としては二の足を踏むんじゃないかしら。いい顔だって3日も見てれば飽きるし」
「でも誠実なだけってのも無理じゃないですか。コンバさんって一途そうなタイプですけどちょっと……」
「仲間をそのように言うのはどうでしょうか?」
「そういうエイリアさんはコンバさんとお付き合いできます?」
エイリアさんはふんわりと笑う。
「私はまだ修行中の身ですから、恋愛にうつつを抜かすわけにはいかないのです」
「ずるーい。そうやって逃げる。キャリーさんは聞くまでもないので、ジーナさんはどうです?」
「可愛いとは思うわよ。私好みに育てる楽しみもありそうだし無くはないわね」
「……ふ、深いです。でも、無くはない程度ですよね。というか、ひょっとして、ここにいる人たちって恋愛とか結婚にあまり興味なかったりします?」
「そんなことは無いですよ。人並みには願望があります。別にエピオーン様も誰かを好きになるのは否定されてませんから」
「いい人がいればね」
「私は正直あまり興味がないな。修行の邪魔だし親の意見も聞かねばならないから」
「あ、やっぱり騎士階級って自由じゃないんですね」
「しかも、お育ちがいいはずの男も我がままだったり俺様だったりして、本音を言えば勘弁して欲しいのが多いわね」
「キャリーさんに釣り合う男性ってそうそう居ないですよ。そうですねえ、ゼークトさんぐらいじゃないと」
シルヴィアさんはきょろきょろとする。
「あれ? 反応薄くないですか? いい男だし聖騎士ですよ。婚約しちゃいましたけど、ほぼ理想形じゃないです?」
「私はパス」
気のないようにお姉ちゃんが言った。
「ええ? どうしてですか?」
「横に立つのに背伸びしなきゃならないでしょ。完璧すぎて気疲れしちゃう。それに、なんか実はどこかに隠してることがあるんじゃって疑っちゃうのよね。人ってそんなに完璧じゃないから」
「そうですかねえ。ほら、でも欠点というわけじゃないですけど、ハリスさんと異常に仲がいいじゃないですか?」
これってご主人様をけなしてるんじゃ? 私は顔が強張るのを感じた。お姉ちゃんが手を伸ばしてきて頭をポンポンする。
異議を唱えたのはエイリア様だった。
「別に不思議でもないでしょう? まあ、私の目も曇っていたことがありますから他人のことは言えませんけど、ハリスさんほど誠実な方はそうそう居ないと思いますよ。ね、ティアナさん?」
「はい。そう思います」
やっぱりエイリア様は分かっている。
「私もハリスとゼークトさんが親しいのは自然だと思うわ。ハリスもいつもあんな不機嫌な顔してるから、とっつきにくいのは分かるわよ」
お姉ちゃんはカップを手でもてあそぶ。
「まあ、ゼークトさんは悪事には絶対に手を染めない感じはするわね。その点、ハリスは誰かが手を汚さなきゃいけないとなったら、悪いことでもできる気がする。そういう覚悟はできてる。そこが魅力……かな」
「私だってリーダーとしては優れてるとは思いますけど、ジーナさんがいうほどとは思えないです。さらに好きかと言われると……うーんって感じじゃないですか? あれ? 私ってまた少数派です? まさかキャリーさんは違いますよね?」
「私もハリスさんは恋愛対象としては見れないわね」
「ですよね。ああ、良かった」
やっぱりシルヴィアさんてちょっと失礼かも。
「ティアナ。そんな顔しないの。いいじゃない。ハリスは万人受けするタイプじゃないのは確かなんだから」
「でも。ご主人様の悪口を言われてるような気がして嫌なんです」
「えええ。嘘でしょ。ティアナちゃん。絶対他にもいい男いるって。あんなおじさんがいいの?」
「ご主人様ほどの方はいません」
「立派な人かどうかじゃなくて、好きとか愛してるって話だよ?」
よく分からないけど、ご主人様が大切な方なのは間違いない。
「シルヴィアさん。それぐらいにしておきなさい」
「あ。は、はい。そうですね」
キャリーさんに注意されてシルヴィアさんは慌てていた。
「そういえば……」
エイリアさんが目を細める。
「先日ゼークトさんとレッケンバーグに行った時の話ですけれど、ハリスさんのことを好きなんじゃないかって噂が流れてる方がいましたわね」
私は思わず声が出てしまった。
「え? 誰ですか?」
お姉ちゃんを見ると変な笑みを浮かべる。どういうことかしら?
「ちょっと。私は同行できてないんだから、二人だけで分かってる顔しないで教えなさいよ」
「意外ですけど、私も知りたいです」
「あくまで噂ですよ」
一呼吸を置いてエイリアさんが注目を集める。
「レッケンバッハ伯爵とハリスさんの関係が怪しいって伯爵の侍女の間で話題になっていたそうです」
「うそぉ。本当ですか?」
シルヴィアさんが素っ頓狂な声を上げ、私は首を傾げる。お姉ちゃんにどういうことか聞こうと思ってそちらを見ると首を横に振っていた。仕方ない。帰ってきたらご主人様に直接聞いてみようっと。
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