第54話 魔神の復活

「ここだな? この先に、王を待ちわびる玉座があるか」


「おめでとうございます、男爵閣下」


「ワルダーよ。言い間違えるな。余はすでに王であるぞ?」


 不快そうに振り向いた男爵に、ワルダーは悪びれもせずに言い返した。


「いいえ、男爵のままですよ」


 パン!と乾いた音がして、次の瞬間、理解できぬという顔をしたフォリエ男爵がその場に倒れる。


「ワ、ワルダー……お、王に手を掛けるなど……かはっ、この不埒者めが……」


「フッフッフッ、何とでもお言いなさい偽の王よ。この鍵さえあれば、誰でも王になれるのでしょう?」


 ワルダーがフォリエ男爵の手から、簡単に鍵を拾った。男爵は必死に放すまいとしたようだが、すでに指の力は残っていなかったようだ。


「なんて奴なの。仲間というか、男爵の部下だったんじゃないの?」


 カリーナが信じられないというふうに言うが。


「下克上のお手本を示されたら、ああなるよねえ……」


 僕にはワルダーの行動が極めて合理的に見えた。モーリス=ルブランが記した大悪党『常に争い闘い、何物をも支配しようとする巨人』のように、か。


「き、貴様ぁ!」


 ようやく本来の部下である騎士がワルダーに向かって駆け込むが、それに対してワルダーは銃を二発撃ち込むと、さっさと鍵を持ったままでエキドナの腹の奥へと消えた。


「くそっ!」


 騎士が腹の入り口に辿り着いたが、入り口はもう閉じており、進めない。

 剣で斬りつけたが、かすり傷一つ付けられない様子だ。


「いけない、動いている」


 僕はワルダーが動かせないのではと思っていたが、エキドナの体に機械独特の音がし始め、起動に成功したのが分かった。


「おお、これは凄いですねえ……私でも分かりますよ。これは旧世界の物の中でも実に優れた代物だ。この棒をこう動かすと……?」


 ワルダーの声が、スピーカーでエキドナの中から聞こえて来た。その彼が何か操縦桿のような物をつついたようで、エキドナの六本の腕の一つが、猛烈な勢いで腹を斬ろうとして苦戦していた騎士を跳ね飛ばした。


「おお。動かせる! 動かせますよぉ。思い通りに、魔神の腕が!」


 最悪だ。


「ワルダー! それは下手をすると世界を滅ぼすぞ! アンタだって一人じゃ生きていけないだろう」


 僕は警告する。


「そうよ。人間は一人じゃ生きていけない。どこかで誰かの世話になってる。赤ん坊として生まれた時からずっとね!」


 カリーナも言った。


「まあ、そうでしょうけどね、でも、人間はたくさんいるんですよ? この国の人間くらいは滅ぼしたって、別に構いやしないでしょう」


「滅茶苦茶ね。なんなのコイツ」


 カリーナが嫌悪感をあらわにあきれ返ったが、残念ながら力を持っているのは今のワルダーだ。

 対する僕たちは無力。


「さあ、次はこれを試してみましょうか」


「くそ、逃げるぞ」


 このままここにいては何が起こるか分からない。幸い、僕らを監視していた騎士達は、魔神に気を取られていてもう僕らに構っている余裕は無さそうだ。


「そうね」


「ん、退避が正解」


 カリーナとマリンも立ち上がり、僕らは入り口へと向かう。


「おっと、逃がしませんよ?」


 ワルダーがぞっとする声で言い、魔神の口が開いた。


「あ、あれはっ!」


 魔神の口が青白く光るのを見た僕は、次に何が来るか予想が付いて思わず叫ぶ。

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