第10章 不老不死の果てに
第46話 研究所の目的
マインがこの施設を見つけて入ったのは一週間ほど前だと言う。
彼女が食料を探しながらあちこち歩き回っているときに、地下で厳重に閉ざされた扉を見た事があるそうだ。
「きっとそこにアタシ達が探してるお宝があるわ!」
カリーナがそう言うので、マインにその扉の場所まで通路を案内してもらうことにした。
「それにしても、この施設は何のために作ったのかしら? マモルは知ってる?」
カリーナに聞かれたが、僕が知るはずも無い。この大規模な研究所の目的は見当も付かなかった。
「知らないよ。さっきの食堂の設備だって、僕の時代より進んでたからね」
「へえ、やっぱり旧世界はいろんな物があったんだね。納豆は要らないけど」
「フッ」
納豆と聞いてマインが鼻で軽く笑った。
「あれはあれで、ご飯と一緒に食べると美味しいんだけどね」
「ええ?」
カリーナはすっかり納豆嫌いになってしまったようで、ま、今はそれは良い。
「ここを降りる」
マインが通路脇の階段を指さした。この建物にはエレベーターもどこかにあるはずだが、まあいいか。階段で行こう。少し狭い階段を降りていき、B3と大きく描かれたプレートの脇を通る。この辺りはまだ木の根っこに浸食されていないようで、普通の通路だ。明かりもちゃんと生きている。
「この先」
通路を進むとそこに鋼鉄製――またはそれに類する頑丈な金属の大きな両扉があった。左右からスライドして開閉するものだが、手動で開けるのはちょっと無理そうだ。
「そこじゃない。こっち」
マインはその扉を無視してさらに通路を進んだ。角を曲がると驚いたことに木の根がここまで入り込んでいて、壁を突き破っていた。
「この研究所、かなり昔に造られたものなのね」
「ん、間違いなく旧世界の時代。テクノロジーも今とは段違い。神々の時代と言って良い」
そんなにか。僕にはマインの使った魔法も結構凄い事に思えたのだが。
「神々の時代ねえ? ま、発掘品はたまに凄いのもあるから、それも分かるけど。でもその割に、マモルは大したことないわね」
「ほっといてくれ。僕はただの一般人だよ。知識や技術的にはね」
病気としてはかなり面倒くさい立場にいたのだが、それを言っても自虐になるだけだ。
「はいはい。ちょっと狭いけど、この木の隙間から入れそう」
カリーナが床ギリギリ辺りの壁を突き破った木の根の側を這って先に進む。僕もその後に続いたが、前を見るとカリーナのミニスカートから覗く健康的な太ももが目に入ってしまい、目のやり場に困ってしまう。失敗した。先頭を行くか、最後に待ってから入れば良かった。後ろからはマインが続いていて、手遅れの感じなので床だけを見て進む。
「もういいわよ、マモル。なんで君はずっと這いつくばって進もうとしてるのよ」
「ああ、いや、何でも無い」
「フッ」
マインは僕が這った理由に気づいて笑ったようだが、そのまま黙っていてくれるようだ。助かった。
「ねえ、マイン、この先に何があるの?」
「よく分からない何か。かなり古い紋章や石版の破片があったけど、詳しくは見てない。食料を探してたから」
「そう。じゃ、クリスタルチップもあるかもね」
「ん」
研究室とおぼしき部屋の一つに入ってみたが、ガラスケースの中に二十センチほどの割れた石版の破片が収められている。レーザー光線でも発射するような銃型の装置が近くに置いてあり、これを解析しようとしていたらしい。
「なんだってこんな割れたガラクタを調べてるのかしら」
「さあ?」「……」
カリーナの問いに僕もマインも答えられない。考古学の研究にしては、施設の規模が大きすぎる。だいたい、鋼鉄のドアなんて必要だろうか? 大事な石版を盗まれたりしないようにというセキュリティのためなのかもしれないが。
「ここにはクリスタルチップはなさそうね。次、行きましょ」
隣の研究室に入ってみる。そこは石膏か何かで造られた石版のレプリカが飾られていた。割れたものをつなぎ合わせているが、破片はすべてそろっているわけでは無く、ところどころ欠けている。石版の大きさはすべて組み合わせると一メートルほどになるようだ。
その表面には三センチ程度の大きさの文字がびっしりと刻まれているが、日本語でも英語でも無いので翻訳は無理そうだ。
「医学の祖にして、錬金術の師、化学、生理学、鉱物学、占星術、神学、大魔道師にしてあらゆる学問の天才、パラケルススがここに記す。ノストラダムスの予言に記された世界の滅びの災厄により、紙の書はいずれ塵となることが分かっているので、ありがたくも私は石版によってウタナピシュティムの秘法を、これを記した」
「えっ!?」
「マイン! これが読めるの!?」
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