第44話 マインとの邂逅
「人の死体があるわ。ガルムにここで襲われたみたい」
「ええ?」
行きたくなくなったが、先にカリーナが進んでいくので仕方なく僕もついていく。そこには二人の騎士が血を流して無残に倒れていた。血の臭いに僕は気持ちが悪くなった。グロいの無理。
「あちゃー、まさか先客がいらっしゃるなんてね。これは急がないと、依頼の品も横取りされちゃうかも」
「んん? 他にもこの騎士の仲間がいると?」
「いるわ。ここには兜が三つ落ちてるけど、死体は二つだけよ?」
「なるほど。でも、僕らと同じ目的なのかな?」
「こんな場所にわざわざ来るなんて、他に目的があるとも思えないわ。あんの眼鏡親父、掛け持ちで依頼するなんてアタシを全然信用してないってことじゃない。あったま来た!」
カリーナが憤慨するが、可能性を高めようと思ったら、複数の請負人に依頼するのも間違いでは無いだろう。金が有り余っていれば、だけど。
通路をさらに進んでいくと、分かれ道にさしかかった。
「右から行きましょ」
カリーナは迷いもせずに言う。僕もどちらが正解かは分からないので何も言わずについて行く。
途中、ドアが広間に通じていた。
「この部屋は何かしら? ここにクリスタルチップがあるかも」
カリーナは期待したようだったが、中を見て僕はすぐに否定する。
「いいや、ここは食堂だな」
「どうして分かるのよ」
「だって、そういう造りだから。机の並びとか」
大勢の人間がここで食事できるように長机が規則正しく並べられている。高校の学食もこんな感じだったな。ちょっと懐かしい。
「ええ? まあいいわ、それなら何か食料がないか、見てみましょう」
「いやー、食えないと思うけど」
この施設がいつからこうなったのかは知らないが、かなり長い年月の間、放置されていたはずだ。だが、その割に埃も落ちておらず、よく分からない。
「良いから良いから。見て! この大きな箱が怪しい」
「ふふ、食券の自販機だね。それは違うよ」
そう言って僕が近づこうとしたとき――
「マモル、危ない!」
急にカリーナがこちらを見て叫んだ。何かと思ったが、僕の頭のすぐ近くまで火の玉が迫っていた。直径一メートルはあろうかという迫力の大きさ。その紅蓮に燃えさかる火の玉がゴウッと音を立ててこちらに真っ直ぐ向かって飛んでくる。
「くっ!」
とっさに身をかがめたが、僕の肩にぶつかり、熱気で皮膚が焼ける。
「マモル!」
「平気だ。それより、あの子」
火の玉が飛んできた方向に、群青色のとんがり帽子を被った少女がいた。彼女は木の杖を持ち、目を閉じて何かをブツブツとつぶやいている。
「術使い!」
カリーナは驚きの声を上げつつも、腰のナイフを抜いて走り込んで距離を詰めた。
「そこまでよ! それ以上術を使えば、お前の首を切る」
とんがり帽子の少女の喉元にナイフを突きつけ、カリーナが怖い目つきで言った。
目を開けた少女はしばし考え込んだ後、降参の意を示して杖をそのまま捨てた。銀髪に銀の瞳か。
「いい子ね」
「……好きにすれば良い。恥辱の拷問でも何でも」
「ええ? アタシ達はそっちが襲ってこなけりゃ何もしないんだけど」
「あなたたちはクリムゾンスカルじゃないの?」
彼女が聞いてきた。
「違うわよ。見たら分かるでしょう。アタシ達がそんな冷酷無比な暗殺集団に見える?」
「見えない。少なくともそっちの男はカモネギ顔」
カモがネギを背負ってくるって顔? 僕はそんなに騙されやすそうな顔なのか。なんか嫌だ。
「そのクリムゾンスカルってのは何なんだ? 彼らと間違えて僕らを襲ったのか?」
名前だけは聞いたことがあるが、詳しく知らないので僕は確認してみた。
「クリムゾンスカルってのはね、殺しに強盗、ドラッグに詐欺、悪いことなら何でもやる悪党の集まりよ」
カリーナが嫌悪の表情で吐き捨てるように言う。
「ん。私は彼らから逃げてここまでやってきた。この不毛の地へ」
「それは変ね。言っちゃなんだけど、見た感じは連中に追いかけられるほど上玉ってわけでもなし、君は何か金目の物でも持ってたの?」
カリーナが少女に問う。
「金は持ってない。けど、魔術がある。私もつい最近まで彼らの一員だった」
魔術――?
「なっ! アンタがメンバーの一員だって!?」
カリーナは血相を変えて声を荒げたが、少女は落ち着いたまま続けて言う。
「でも村を焼き払えと命じられて、そこで思い出した。私も同じように村を焼かれて家族を失ったことを。だから、隙を見て逃げ出した」
焼き払った村の子供を育てて仲間に仕立て上げるとは、なんとも凄惨な組織だ。
「それは……なんだか気の毒な話ね」
「ちょ、ちょっといいかな」
同感だが、僕はもう一つどうしても確認しておかなければならないことがあった。
「何?」
「その魔術って……さっきの火の玉もそうなのか?」
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