第6章 王の墓

第26話 ダンジョン

「野郎共ッ! 新ダンジョンだッ!」


 冒険者ギルドの掲示板を見に行くと、職員用のカウンターの上に立った一人の男が叫んでいた。

 その場にいた冒険者達はピタリと止まり、惚けたようにそちらを見る。


「新ダンジョンが見つかったぞぉ!」


 男がもう一度言う。


「「「うぉおおおおお!」」」


 一斉に雄叫びを上げる荒くれ者の群れ。


「なんてこと。マモル、今日の仕事は全部キャンセルよ!」


 カリーナも興奮気味に話す。


「いったい、何なんだ?」


「だから、今、聞いたでしょ? この近くで新しいダンジョンが見つかったのよ。場所はッ!?」


「東の森のほこらがあるだろう。あそこが崩れた。そこに入り口があったんだ!」


「行くわよ、マモル!」


「ええ?」


「よし、急げ!」「行くぞ!」


 冒険者達も我先にと走り出し、どうやら急がねばならないらしい。


「乗って!」


「ああ」


 スカイウォーカーに先に乗ったカリーナが手を差し伸べる。僕はその手を掴んで飛び乗った。


「よーし、これであいつらよりは先に行けるわよ」


「カリーナ、どうして先を急ぐのか、その理由を教えてくれないか」


「決まってるでしょ。ダンジョンのお宝は早い者勝ちってね!」


「なるほどね」


 坑道で見つかったような旧世界の遺物がそこにもあるのだろう。

 あの時みたいに埋まるのは嫌だなあと思いつつも、僕は黙ってカリーナの腰に抱きついていた。


「到ちゃーく!」


 空中で横に半回転させてスカイウォーカーを止めた僕らは、降りて祠の跡に近づく。そこには河原でよく見かけるような白い丸い石がいくつか規則的に、ストーンヘンジのように置かれ祀られていた。その中央、二メートル近い大岩がズレたところに地下へ続く階段が見えている。


「あれね。行きましょう」


「ああ」


 僕とカリーナはその階段を降りていく。内部は二メートル程度の横幅がある通路となっており、壁は石ブロックを組み上げた造りだ。壁には備え付けのランタンがあり、ぼうっと青白く辺りを照らしている。


「ここは、いったい、何のために……」


 僕は疑問に思って言う。


「さあ? ダンジョンは細かいところを考えたら切りが無いわよ。大事なのはお宝があるかどうか、でしょ?」


 ニヤリと笑ってウインクしてくるカリーナだが、まあ、それでいいか。明かりがあるなら問題無いと思って先へ進む。通路はすぐに直角に折れ曲がり、その先でも道が分かれたり折れ曲がったりと、どうやら迷路のような造りになっているようだ。まるでゲームのダンジョンだなと僕は思ったが、そうなるとこの先に何があるのかちょっとワクワクしてしまう。


「SHIII――!」


「マモル、下がって!」


「え?」


 自転車の空気入れを押したような、そんな空気の抜ける音がしたかと思うと、僕の足下に五十センチくらいの塊が飛ぶような速さでぶつかってきた。


「いった!」


 足に鋭い痛みを感じたが、どうやらそいつが噛んで来たらしい。


「このっ!」


 カリーナがナイフを振るってそいつに突き立てようとしたが、先に逃げられて空振りした。


「グレイラットだわ! マモル、大丈夫?」


 カリーナが聞いてくるので僕はうなずく。


「ああ、僕の方は大丈夫だけど、まずいな、カリーナはコイツに噛まれないようにしてくれ。出血したから、吸血鬼病に感染するかもしれない」


「分かった。ネズミの分際でッ!」


 再びカリーナがナイフを振るう。ネズミが後ろに下がって避けたところを、僕は思いきり蹴飛ばしてやった。


「SHIッ!」


 ネズミが壁にぶつかり、跳ね返ってきたところにカリーナのナイフが正確に振り下ろされる。それで息絶えたようで、ネズミが動かなくなった。


「ふう、やったわね」


「何なの、コイツは……デカいな……」


 僕は改めて横たわっている大きなネズミを見る。どう見てもサイズがおかしい。大型犬くらいの大きさはあるだろう。


「何って、見た事ないの? グレイラット」


「無いよ。また変な動物が出てきちゃったなぁ」


 僕は病院で見た黒光りする空気虫を思い出して身震いする。長い年月を経て生態系が変わっているのだろうが、それにしたって異常だ。


「ま、この程度のモンスターなら余裕よ。麦袋や畑を荒らしたりするから、よく退治を頼まれるんだけどね」


「そう。こんなのがたくさんいるなら、何か武器がいるな。一度、街へ引き返さないか?」

 僕は冒険者達が剣で武装していたのを思い出して、カリーナに提案してみた。


「冗談、今から街へ往復してたら、みんなに先を越されちゃうじゃない」


「それはそうかもしれないけど……」


「大丈夫よ。マモルが噛まれた後で、アタシが噛まれなきゃいいんでしょ? 余裕余裕」


「ええ……?」


 カリーナは笑っているものの、さっきのネズミの動きを見る限りは結構素早いし、不意打ちで複数匹が出てきたりしたら、ちょっとヤバイと思う。


「さ、行くわよ。もたもたしない」


「ま、待ってくれ、カリーナ」


 僕は周囲に警戒しつつ、彼女を追った。


「ああもう、ここも行き止まりだわ」


 通路は複雑に折れ曲がっているため、先に進まないとどこへ通じているかが分からない。


「カリーナ、それなら、左手戦法で行こう。闇雲に進んでもお宝を見逃したり、迷うだけだ」


 僕は提案した。


「それってどんなやり方なの?」


「壁に沿って、常に左に曲がって歩くだけだよ」


「ああ、しらみつぶしに行くわけか……まあいいわ、その方法で行きましょう」


 カリーナがナイフで削って壁に目印を付け、そこからスタートすることにする。二人とも声を潜め、グレイラットが発している鳴き声を聞き逃さないようにしながら慎重に進む。すると今度はカチャカチャと金属の当たる音が聞こえてきた。


「これは何の音だ……?」

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