第5章 共存共栄のために

第24話 三人の悪だくみ

 その日の『何でも屋』はパンの配達を引き受け、午前中で仕事は片づいた。


「暇になったわね。お昼までちょっと時間があるけど、どうしようか?」


 パン屋を出てカリーナが僕に聞く。


「うーん」


 良い思いつきもなく、手持ち無沙汰のまま僕らがスカイウォーカーに乗っていると、街中で悪人三兄弟を見つけた。


「うわ、バッカー達だわ。縁起でもない」


 三人を毛嫌いしているカリーナが、もはや黒猫のジンクスのように言う。


「あれは、何をしてるんだろう?」


 僕は疑問に思ったが、家の前で一人の中年男性の周りを取り囲んでいる三人組がいる。


「きっとよくないことでしょ。バッカー、あなた、まーた街の人を困らせてるでしょう」


 カリーナが話しかけると、バッカーは彼自身も縁起でもないと思ったのか、顔をしかめて悪態をついた。


「クソッ、カリーナか。馬鹿を言うな、オレ様は真面目に仕事をしてるだけだ、そうだな?」


「まあ、そうなんだがね」


 話しかけられた相手の中年男性は同意こそしたが腕組みして難しい顔だ。


「事情があるなら、アタシが聞くわよ?」


「おお、そりゃ助かるよ、カリーナ。家の修理をするのに木材が必要だから、誰かに運んできてもらおうと思ってたんだが、バッカーが三百ゴルドを寄越せって言うからね」


 木材の運搬の仕事か。


「三百? ぼったくりじゃない」


 カリーナが一言で断じると、バッカーが血相を変えてまくし立てた。


「何おう!? 木材一本につき三十ゴルダの手間賃だ。重いしかさばるし、オレ様は力持ちだから一人でも運べるが、普通は二人じゃ無いと運べねえ。二人で割って一往復十五ゴルダの手間賃、それくらいはもらって当然だ」


「イエス、兄貴の言うとおりです」


「ヤー! 当然だべ」


 バッカーの言葉に手下の凸凹コンビもすぐに同意する。

 それでも少し高いと僕は思ったが、この世界の物価は一ゴルドが百円程度なので、木材一本の配達料千五百円と考えれば、そこまでぼったくりでは無いのかも。


「じゃ、アタシ達がその仕事、半値で引き受けてあげるわ」


 カリーナが提案すると、依頼主がパッと明るい顔になってその話に飛びついた。


「おお、よし、決まりだ! カリーナに任せるよ」


「なにぃ!?」


「じゃ、長さを聞くわね」


 仕事を引き受け、木こりのヨサックから木材を買い付けたが、長さがあるのでスカイウォーカーでは上手く運べず、結局歩きで僕らは運ぶ羽目になった。


「ふう、これで十本、完了ね」


 木材を置いて、カリーナが額の汗を拭う。僕もその場にへたり込んだ。


「助かったよ、カリーナ、ありがとう。マモルもな。お茶を出すから、飲んで行ってくれ。疲れただろう」


「ええ、まあね」


 カリーナが肩を回しながら答えるが、僕もかなりへばった。


「バッカー達はどうしたの?」


 家の居間でお茶をご馳走になりつつカリーナが聞くと、依頼主が肩をすくめた。


「先に話を引き受けたのはオレ様達だとずっと愚痴っていたがね、こっちも金額に同意してたわけじゃないし、あいつらも最後は諦めて帰ったよ」


「ならいいんだけど。あいつらがおかしな事をしてくるようなら、アタシに言ってね」


「なあに、あんな奴ら、カリーナの手を借りるまでもないよ。じゃ、これが約束の百五十ゴルドだ。受け取ってくれ」


「毎度あり! よーし、今日は思いっきり肉食うぞぉ! 奮発してご馳走よ!」


「おー!」


 へそが背中とくっつきそうなほど腹が減ったのでそのまま酒場に直行する。夕食は自炊することが多いカリーナも今日は自分で作る気にはなれないようだ。


「うえ、奥にバッカーがいるわ」


「ありゃ」


 今は顔会わせしたくないなと僕は思ったのだが、カリーナは臆すること無く酒場に入った。


「いらっしゃい、ご注文は?」


 酒場のグラマーなお姉さんがテーブル席に座った僕らに聞いてくる。


「がっつりした肉料理大盛り三人前で。あと、あの三馬鹿トリオとは話したくないから、静かにこっそりね」


「ふふ、了解。任せておいて」


 奥のテーブルを盗み見たが、バッカー達は酒を呷っていて、こちらにはまだ気づいていないようだ。


「ふん、カリーナの奴め、人の仕事を横取りするたあ、たちの悪い女だぜ」


 バッカーが、やはり今回のことが気に入らなかったようでカリーナの悪口を言っていた。


「まったくです、兄貴」


「ヤー、たちの悪い女だ」


 地声が大きいせいか、三人とも話している声が丸聞こえだ。


「この礼はきっちりしてやらないとな」


「イエス、兄貴」「ヤー、兄貴」


「どうしてくれよう。おいアッホー、何かいい手はないか?」


「そうですね、こちらの仕事を邪魔されたわけですから、目には目を、カリーナ達の仕事を邪魔してやれば、あの性悪女も少しは懲りて反省することでしょう」


「おお、さすがアッホー、良い考えだ! 天才だな!」


「ヤー、天才だ!」


「いやはや、それほどでも、フフフ。もっと褒めてください。ワタクシ、褒められないと伸びない子ですので」


「まったく、誰が性悪女よ」


 カリーナが小声で文句を言うが、今回は食事優先で行くらしく、そのまま大人しくしていた。

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