第3話 壊された平穏
バタバタバタッ……ガラッ
「黎明!!」
真っ白な病室に駆け込むと、そこにはたくさんの管に繋がれ、包帯を巻かれた黎明が虚ろな目をしてベッドに横たわっていた。
崩れ落ちそうになる体を何とか支えながら、僕は黎明のそばによった。
「黎明、黎明!聞こえる?見える?ねぇ、僕がわかる?僕だよ!露華だよ!……ねぇ、返事、してよ。僕を、見てよ」
黎明は露華の声に一切反応を示さなかった。目は虚空を見つめ、露華を一切視界にすら入れなかった。
今夜、黎明は暴走アンドロイドを止めるために、向かう途中で、別のアンドロイドに襲われたらしい。
普通、暴走したアンドロイドを止めるには、最低でも3人は必要だ。しかも、その人数でさえギリギリだ。しかし、今回は黎明とアンドロイド、1対1だった。人間の平均値より少し高いかな程度の黎明と、プロのスポーツ選手をも凌駕する圧倒的運動能力を持つアンドロイド。分が悪いのはどちらかは一目瞭然だろう。黎明ができることは、報告して、そのアンドロイドを引き付けておくことだけだった。
応援に駆けつけたときには、もう黎明は全身から血を流し、気絶していたそうだ。彼を襲ったアンドロイドは、彼が善戦をした結果運動能力を司るコードのいくつかを引きちぎられていた。急いで病院に運んだものの、元の彼に戻るかは難しいという。何か障害を残してしまったかもしれない。あるいはもう目を覚まさないということも十分に考えられた。
「ねぇ、れい…れい、僕のレイ…起きてよ。僕をみてよ。なんで……なんで。君は、僕から離れないって、そう、約束してくれたじゃんか」
目からとめどなく大粒の雫が流れている。
痛ましくも美しい光景だったが、医者は重々しく口を開いた。
「……露華様。黎明様はもうこのままかもしれません」
「どういうこと?このままって」
瞳に涙を浮かべたまま、呆然とした様子で尋ねた。
「ねぇ、治るでしょ?……治るって言ってよ。治せるって。治すって、言ってよ、ねぇ」
「っ申し訳ございません!我々は、我々の最前を尽くしました。誓って言えます。しかし……っ黎明様は、このまま……この植物状態のまま、露華様のことを認識することも無く、言葉を発することも、体を動かすことも、何もかも、回復が見込まれないということです」
露華にとってこれほど辛い宣告はあっただろうか。
「かれが、ぼくをめにうつすことも?」
「残念ながら」
「かれと、かいわすることも?」
「残念ながら」
「かれと、しょくじにでかけることも?」
「難しいかと……」
「そう」
何となく、病室に入って彼を見た時から気づいてはいた。彼の状態が芳しくないってこと。彼がもう僕の知ってる彼ではないということ。もう彼が、僕に笑いかけてくれることは無いと、そう気づいていた。それでも、そんな事実を否定して欲しくて、認めたくなくて、何度も聞いた。一縷の望みにかけるおもいで。ただ、質問を繰り返してわかったことは一つだけ。もう僕の"いつも"は二度とやってこないんだということ。その一つだけ。
「そっか、そうなんだね。もう、ダメなんだね。君は、僕の大好きな君は、もう、居ないんだね。そうなんだね」
僕はベッドに突っ伏して嗚咽を零しながら涙を流した。
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