第149話 大迷宮攻略⑨
あれから神霊結晶は私が全て回収した。
イザベラさんが終始恨めしそうな目で私を睨みつけてたような気がするけど、きっと気のせいだろう。
……神霊結晶は絶対渡さないよ?
まぁ、そんなわけで。黒い扉までの障害がなくなった。みんなと相談した結果。とりあえず開けて中を確認することになった。
「なにこれ? 真っ黒な……壁?」
扉の前に全員が集まってから、マサキさんが緊張した面持ちで恐る恐る扉を開けてみると、中には一寸先も見えない真っ黒な暗闇だけが広がっていた。
扉の色とも違う。漆黒の闇……。
ずっと見ていると吸い込まれてしまいそうで、なんだか凄く怖くなってくる。
「ねぇ……。シィルフィリアちゃん。この扉ってもしかして……?」
ふとフィーちゃんが意味深なことを呟きながら、シィーの方へと顔を向けた。
フィーちゃんの視線を受けてシィーは真剣な表情でコクリと頷く。
「間違いねえの……。私達の扉と同じ類のものなの」
「えっ!? それってどういうこと!?」
──
─
シィー達の話によると、この扉は妖精達が使う扉やもうひとりの私が使った扉と同じ類のものらしい。シィー曰く、「どちらかといえば、ミーアが使った扉に近いものなの!」とのことだった。
……ん? どうして皆また私を見てるの? 私は関係ないでしょ? ほら。どうするかみんなで考えよ?
──
─
みんなとの話し合いで問題点としてあがったのは、この扉が一体どこに繋がってるのか皆目見当がつかないという点だ。
まぁ、当たり前だよね。何処に繋がってるのか分からないなんて危険すぎるもん。
話し合いは帰るべき派と進むべき派に分かれて荒れに荒れた。
もちろん私は帰るべき派です!
だって大迷宮の100階層まできてデュランダルが出てこなかったんだよ? きっとこの大迷宮にデュランダルなんてないんだよ! マサキさんもさっさと諦めればいいのに……。
あっ。ちなみのシィーとマロンちゃん。それにフィーちゃんも帰るべき派です。マリーちゃんは唯一のどっちつかず派って感じかな?
アージェさんは私が帰るべき派だったからかなり迷ってたけど、マサキさんの「もしかしたらこの奥には絵本にでてくるような伝説の魔物とかがいるかもしれませんよ?」という馬鹿げた発言にまんまと乗せられて、私に対して申し訳なさそうにしながらも進むべき派にまわった。
アージェさんの裏切り者めぇ〜……。
さて。問題なのは残りのメンバーだ。マサキさん。イザベラさん。セレンさん。
この3人は進むべき派で、断固として意見を譲ろうとはしなかった。何を言っても進むべきだの一点張りで正直すごくめんどくさい。そんなに進みたいならもう4人で行けばいいのに……。私は止めはしないよ?
ん? なにマサキさん。……えっ? 提案があるって? えぇー……。どんな提案か知らないけど、私の意見がそう簡単に変わるとは思わないでね?
──
─
1時間にも及ぶ話し合いの末。
「……みなさん。準備はいいですか?」
扉の先へ進むことになりました。
ほら。困ってるときはお互い様って言うでしょ? それに少しは魔王と戦う勇者様のお役に立っておくのもいいかなーって思ってね!
……おっと。そうだそうだ。行く前にもう一度マサキさんに確認しとかないと。
「マサキさん。例の件忘れないでね? もし破ったら……」
「分かってますよ。チカさんの指定するケーキの開発。それと俺もちで1年間ケーキ食べ放題。……それでいいんですよね?」
「うむ! よろしいっ!! まぁ、別に私はケーキのために行くわけじゃないんだけどね? でもほら。約束は約束だからさ!」
「あはは……。そうですよね。分かってますって……」
絶対に嘘だ! 口には出さなかったが、内心そう思わずにはいられないマサキなのであった。
──余談ではあるが、この世界にケーキの食べ放題はまだ存在していない。理由としては材料である砂糖や卵の価格とこの世界の運送手段にあった。
運送手段が馬車や荷車しかないこの世界では、そもそもの流通数が少ないため、砂糖や卵に限らず、突然〇〇の値段が高騰してしまった! なんてことは決して珍しいことではなかった。
マサキ自身、自分でケーキを買いに行くほどケーキが好きって訳ではなかったため知らずにいることだが、この世界のケーキはとても高額だ。
いまのマサキの所持金では200個買ったら財布の中はスッカラカンになってしまうだろう。
さらにマサキにとって絶望的な思い違いがもうひとつ。それはチカが食べるであろうケーキの数をマサキが大きく誤解しているところだ。
──毎日食べるものでもないし、せいぜい食べても数個ぐらいだろう。
マサキはそう考えて今回の提案をチカに持ちかけたわけだが……。
これは大きな間違いだ。
まず、チカが元の世界で1日に食べたケーキの最大完食数は25個である。
それもケーキバイキングの時間制限がある中で、一緒に訪れた友人の視線に耐えかねて、途中で食べるペースを落としてその数である。
そう遠くない未来。ケーキ屋からの請求書を見たマサキの顔色が、真っ青に青褪めたのは言うまでもない。
◆◇◆◇
「じゃ、じゃあ行きますよ? みなさん本当に準備はいいですか!?」
「いや。何回聞くのそれ……」
ちなみにマサキさんがこの質問をするのはもう3度目である。1回目でみんなの準備が整っているのはもう確認済みなのに何やってんだか……。そんなに怖いならもうやめて帰ればいいのに。
あっ。でもそうなるとケーキの約束がなくなっちゃうのか。……うん。それだけは絶対避けなくちゃ。
だってこっちの世界のケーキって高いんだもん。元の世界の感覚だとだいたい10倍ぐらい違うかな? そんなケーキが食べ放題だよ? それも一年間もっ!! こんなチャンス絶対に逃すわけにはいかないよ!!
よしっ!! 前言撤回っ!! なんとしてもマサキさんには先に進んでもらおう! 帰るなら扉の先へ進んだ後だ。
私がそんなこと考えているとマサキさんが私の方へ顔を向けた。
若干顔が引きつってる気がする。
まさか帰るとか言わないよね? そんなこと今更許されないよ!?
「よ、よく考えたら誰かが先に入って中の状況を確認したほうがよくないですか?」
「おーっ! さすがマサキさん! それはナイスアイディアだよ!」
「で、ですよね! じゃあ申し訳ないんですけど、ここはチカさんに──」
「いや。それは約束にないから無理」
「えっ。いや。でもさっき」
「ああ〜っ!! もういいから早く行きなよ! ……ホント面倒くさいなぁー」
「いま面倒くさいって言いませんでした!?」
「言ってない言ってない。もうそんなことどうでもいいから早く行きなよ。絶対生きて戻ってきて〜……ねっ!!」
「ちょっ!? それ死亡フラグってや──」
約束を反故にさせるわけにはいかないので、私はマサキさんを無理やり扉の中に押し込んだ。
マサキさんがなんか言ってた気がするけどきっと気のせいだろう。
だいたいマサキさんはビビリすぎなんだよ! ちょっと扉の向こう側に様子を見に行って、戻ってくるだけじゃん!
──数分後。
「…………戻ってきませんね」
扉の先に広がる真っ黒な空間を見つめながらセレンさんがポツリと呟いた。
「あ、あれ〜?」
なんで戻ってこないんだ……? さっきのマサキさんの様子ならすぐ戻ってきてもおかしくないはずなのに。まさか……?
…………。
いやいやいやいや! ないない! まさかそんな簡単に死ぬかわけが──。
……あっ。そういえば大迷宮じゃなかったけど、フィリア・クロニクル・オンラインにも装備が整ってないと入った瞬間即死するダンジョンとかあったなぁ……。
いやいや。まさか……。ねぇ〜?
──さらに数分後。
「惜しい奴を亡くしたの……」
「…………」
「シィルフィリアちゃん! それはいくらなんでも不謹慎なのです。きっとあの人間さんなら無事に帰ってくるのです!」
フィーちゃん……。フォローしてるつもりなんだろうけど、それも死亡フラグなんだよ……?
「どうしましょうか? このまま進むのも危険だけど、マサキをこのまま置いて帰るわけにもいかないし……」
セレンさんの言う通りだ。さて。どうしたものか……。まだマサキさんが死んだとは言い切れない。でも扉の先が安全とも言い切れないこの状況。魔法を使わずに空を飛べる私が一番生存率は高いけど……。正直。そんな危険なところに行きたくない。
でもでもマサキさんに死なれると私のケーキが……。私のケーキ食べ放題がああああ──ッ!!
あ゛あ゛あ゛あ゛──ッ!! 一体私はどうしたらいいんだああああ──ッ!!
『ちょっと!! みんな何してるんですか!? 早くこっちに着てくださいよ!! 凄いですよ!!』
私が頭を抱えて悩んでいると、扉の向こう側からマサキさんがひょっこりと顔を出した。
「マサキ!? あんた無事だったの!? 怪我は!?」
「えっ? 無事って? あっ!! そんなことより聞いてくださいよ! この先なんですけど、凄いですよッ!!」
こっちの気も知らないで……。ホントこの男は……。
「って。チカさんどうかしたんですか? 地面なんか見ちゃって……。あっ! もしかして俺のこと心配してくれてたんですか?」
この男はあああああ〜……ッ!!
「あ、あれ? チカさん……? どうしてそんな怖い顔をしてるんですか……?」
「ふざけんなああああ──ッ!! 無事だったんならさっさと戻ってきなよっ!! ホントバカなの!?」
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