第146話 大迷宮攻略⑥ーマサキ視点2
さらに攻略を続けること数時間後。俺達は100階層へと続く階段まで無事辿り着くことができた。
長時間に及ぶ攻略でみんなの表情にも疲れが見える。
もちろんそれは俺も例外じゃない。ぶっちゃけ連戦続きでめっちゃ疲れた……。本音を言えば今すぐにでも帰りたい!
帰ってメイドさん付きの広々としたお風呂に浸かり、王宮に仕える料理人が腕によりをかけて作った豪華な料理をお腹が張るくらい食いまくって、俺の部屋に置かれているあのフカフカのベットで惰眠をひらすら貪りたいッ!!
……でもこんなこと口に出したら最後。チカさんは喜んで帰ると言いだすだろうなぁー。はぁ……。それはそれで滅茶苦茶困るんだよなぁ……。
今回の攻略で分かったことだけど、俺達だけじゃ大迷宮を攻略するのは不可能だ。
っというか戦力が圧倒的に足りない。もうひとりのS級冒険者。ガノンさんが一緒にきたとしてもジャイガンティック大森林で戦い抜けるかどうかさえ微妙なところだ。
かといって、聖剣デュランダルを手に入れらないままにしておくわけにもいかない。だっていまや『勇者』はいくらでも代わりがいるんだから……。
幸運にもチカさんは普段は考えなしなのに、加護に関することだけは極力周囲に隠そうとするところがある。そんなチカさんが積極的に勇者を量産するとは思えない。
でもそれもチカさん基準で極力なだけであって、ひょんなことからバレることも多々ある。ハート様や今回のことがいい例だ。……それにアージェさんの例もある。同じような状況。もしくはチカさんが非常に不利な状況に陥れば、チカさんは間違いなく加護の力を使うだろう。だからこれ以上『勇者』が増える前に、聖剣デュランダルだけは絶対に手に入れておきたい。俺の今の生活を守るために。
はぁー……。ダメだなぁー。思考がネガティブになってる。ポーションや回復魔法があるから体力的には問題ないけど、やっぱり精神的な疲労はどうしようもないからなぁ……。このコンディションで100階層に挑むのは無謀かもしれないな。
……大迷宮の最終階層である100階層は、階段を降りるとBOSSの部屋に直通する特殊な階層だ。
それも召喚される魔剣リベリオンは、最大三体までって制限があるけど無限に自分のコピーを召喚してくる。それもそのコピーも若干脆い程度で本体と区別がつかないという鬼畜仕様だ。
みんなと相談した結果。念のため休憩をとって、準備をしっかり整えてから万全の態勢で挑むことになった。
まぁ、またBOSSをすっ飛ばして宝箱がでてくるって可能性も十分ありえるけど。
ん〜、でも最終階層だからなぁー……。どうなんだ? 魔剣リベリオンってクソ強いらしいから、出てこないほうが有難いちゃ有難いんだけど……。
「……そうだ。とりあえずチカさん。次もBOSSが召喚されないように設定してもらってもいいですかね?」
「どうやってやるのそれ!?」
「えっ。あっ、いや、なんかチカさんならできそうじゃないですか? 加護の力とかでこ〜ちょいちょいって……」
「出来ないよ!? っていうか何度も言ってるじゃん! 私の加護はなんでも出来る便利能力じゃないんだってば!! それにBOSSの件だって私は無関係だよ!? ホント何度言えば分かってくれるの!?」
「うぇっ!? い、いや……その……つい軽い気持ちで言ってみただけと言いますか……」
「はぁ〜!? じゃあなに? わざとってこと? 馬鹿なの!?」
めっちゃキレられた。何もそこまで言わなくてもいいのに……。
「あははっ……。まぁまぁ。チカさん落ち着いて。きっとマサキも悪気があったわけじゃないと思いますよぉ〜? それにしても、やっとここまで来たぁって感じですよねぇ〜! なんだか疲れてお腹空いてきちゃいましたぁ〜」
「ん! たくさん持ってきた。いま出すからたくさん食べて?」
マリーさんはそう言うと、みんなにパンを配り始めた。俺達の食料は救助を待ってる間に食べ尽くしてしまっていたので凄く助かる。さすがマリーさんだ。
「あっ。じゃあ私は飲み物を用意しますね」
配られたパンを見てみると、お肉と野菜がこれでもかってぐらい挟みこまれていて、とても美味しそうだ。アージェさんがカップに注いでいるのは紅茶だろうか……?
「わーっ! ありがとうございますぅー!」
イザベラさんはマリーさんにお礼を言うと、相当お腹が減っていたのか、マリーさんからパンを受け取った瞬間、大きく口を開けて手に持ったパンにかぶりついた。
直後、「んぐっ!?」っと呻き声を漏らしながらイザベラさんは胸を叩く。
「はぁ〜……。何やってんのよあんたは。そんな食べ方したらそうなるに決まってるじゃない」
喉をつまらせて苦しそうにしているイザベラさんを呆れた様子で見つめながら、セレンさんはそっとイザベラさんに飲み物が入ったカップを差し出した。
「まったく……。いまのあんたの姿を教会の人達が見たら腰抜かしちゃうわね」
「んぐんぐっ。ぷっはぁ〜っ! そんなの知ったこっちゃないですよぉ〜っ!」
「教会が認めた聖女様とは思えない発言ね」
セレンさんはやれやれといった様子で両手を軽くあげた後、アージェさんが用意してくれた飲み物が入ったカップを手に取り口元に運ぶ。
「
イザベラさんの反論をセレンさんは澄まし顔で躱し、紅茶の香りと味を堪能した後、カップから唇を離し「ふぅ……」と満足げに溜息をついた。
「そういえばマサキ。心の整理はもうついたの?」
ふと何かを思い出したかのように、セレンさんは眉をピクリっと動かした後、唐突にそう問いかけてきた。
「えっ? どうしてそんなこと聞くんですか?」
「ん〜。なんていうか。空回りしてたのが途中からなくなったからそう思っただけなんだけど。違った?」
「あ〜っ! それ私も思いましたぁ〜! なんかぁ〜、無駄に声だしてましたもんねぇ〜!」
俺空回りしてたのか。心配をかけまいと、戦闘中はいつも通り動いてたつもりだったのに……。やばっ。なんかそれすっげぇー恥ずかしいんだけど!?
……戦闘時の自分の行動を思い返して、ひとしきり悶えた後。俺はみんなに今の心境と考えを正直に全て伝えた。
これ以上みんなに心配をかけるわけにはいかないからね。
「いいんじゃない? とりあえずはそれで。魔族達も積極的にこちらへ攻め込んできてるわけでもないしね」
「も〜っ! セレンさんはまたそうやってぇ〜。素直にがんばれ〜とか、偉いねぇ〜とか言えないんですかぁ? あっ、もちろん私はマサキがそう決めたなら応援しますよぉ〜!」
「──ッ!! 素直じゃなくて悪かったわね! 別に私の勝手でしょ!?」
よかった。ふたりとも分かってくれて。本当に俺は仲間に恵まれたなぁー。
自分の考えをふたりに受け入れてもらえてホッと胸を撫で下ろしていると、不意に突き刺さるような刺々しい視線を感じて、俺はおもわずその方向に振り向いた。
……チカさんだ。
ど、どうしてチカさんはジト目で俺を睨みつけてるんだ? なんか俺気に触るようなこと言ったっけ?
「ふ〜ん。加護さえあれば魔王もドラゴンもマサキさんは怖くないんだ。へぇ〜……。そういうこと言っちゃうんだ」
おふっ。ちょっと余計なことまで話すぎたっぽい。嫌味に捉えられたか? こりゃすぐに謝らないと後々めんどくさいことになりそうだぞ。
謝罪しようとした矢先、チカさんの口から思いもよらぬ言葉が飛びだした。
「そこまで言うなら今度ミリアーヌさんに会ったら聞いてみてあげるよ。今からマサキさんに加護を与えられないかーって。その代わり加護を貰えたらもうぜ〜ったい私を頼ったり、巻き込んだりしないでね?」
(うわっ。すっげぇー刺々しい言い方……。相当怒ってるなこりゃ……)
でもチカさんには悪いけど、この展開は俺にとっては良かったのかもしれない。正直、加護はずっと羨ましいと思ってたんだよなぁー! チカさんからの怒りひとつで加護が貰えるなら安いもんだ!
「あっ、ちなみに加護があっても私はこの世界に来て2回も死にかけたし、カエデさん。……絵本とかになってる勇者も殺されたみたいだから、加護を貰ってもマサキさんが考えてるような生活にはならないと思うよ?」
「うえっ!? なんですかその物騒な話は!? 勇者が殺されたとか初耳なんですけど!?」
──
─
マジか……。マジかあ──ッ!! 数百年前にいた勇者って王族に殺されてたのか!! てっきり魔王を倒した後はこの世界で平和に過ごしたとばかり思ってたのに……。
そりゃ女神様も加護を与えなくなるはずだよ! っていうか人類ほぼ見放されてるんじゃね!?
チカさんから聞いた話は衝撃的なものだった。
セレンさんやイザベラさんは目を大きく見開き、マリーさんも初耳だったのか、この世の終わりのような顔をして固まっている。
マリーさん。勇者を題材にした絵本を大事そうにしてたもんなぁ……。
てかチカさん2回も死にかけてるんだ。今まで加護を貰ったチカさんに嫉妬してたけど、チカさんはチカさんで大変だったんだなぁ……。
その後。休憩を終えて万全の状態で100階層に到着した俺達の前に現れたのは……。90階層の時より一回りほど大きい豪華な宝箱だった。
……うん。なんとなくそんな気はしてたけどね? っていうかさー。やっぱりチカさんズルくね?
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