第143話 大迷宮攻略③
あれからフェンリルとなんとか意思疎通を図ろうと色々試してみたけど全部ダメだった。
しまいにはマサキさんが「ほんやく○○ニャクみたいなものを創ればいいんじゃないですか?」とか真顔で言ってきたから鼻で笑ってやった。
だってさぁ〜? そんな某猫型ロボットの便利道具なんて創れるわけないじゃん!! 仕組みが分からないし、そもそもあの猫型ロボットもデパートで買ってきてるだけだよね!?
……まったく。マサキさんは私の加護をなんでも出来る便利能力かなんかと勘違いしてるんじゃないの!? ちゃんと説明したはずなのに一体何を聞いてたんだか。
あっ、ちなみに本来であればBOSS討伐後に出現するクリアボーナス的な宝箱はフェンリルを倒さなくても問題なくでてきた。中身はデュランダルじゃなかったけどフェンリルを倒さずに済んで正直ホッとしたよ……。
あんな犬のような目をした無抵抗のフェンリルを倒せだなんてハードルが高すぎるでしょ。罪悪感で押しつぶされちゃうよ!
っとまぁーそんな感じでフェンリルがなぜ私に頭を下げたのかっていう疑問は残ったけど、考えても答えはでなかったので私達は81階層へ向かうことにした。
階段を降りて81階層に着くと周囲の風景はガラリと変わり、木々が生い茂る薄暗い森が辺り一面に広がっていた。
81階層〜99階層は広い森林MAPと大型モンスターの遭遇率が非常に高くなるのが特徴だ。
「うわぁー! ここがジャイガンティック大森林かぁ〜……。俺ここに来るの目標にしてたんですよね」
周囲を見渡しながら感慨深い様子でそう話すマサキさん。
確かにフェンリルを倒せなくて大迷宮の攻略を断念したプレイヤーは多かった気がする。
「ねぇ、マサキ。ここはどんな魔物が出るの? できれば私達にも情報を共有してほしいんだけど」
「あっ、すいません! そうですよね。えーと、確か……。ジャイアントスネーク、ジャイアントスパイダー、キングマンキーとかだったかな? とにかく大型の魔物が多かったと思います」
マサキさんの話を聞いてセレンさんは顔をしかめる。
「厄介なやつが多いわね……。どれもAランク相当の魔物のだわ。やっぱり盾職も連れてくるべきだったかしら?」
「んー。でも王都に今いる盾職じゃAランクの魔物の攻撃なんて受けきれないと思いますよぉ〜? ガノンさんが帰ってきてれば喜んで来てくれたと思いますけど……」
「ガノンの馬鹿。あれだけ王都を離れるなって言ったのに……」
「シュタイン連合国にドラゴンがでたってギルドから共有を受けた翌日にはいなくなってましたもんねぇ〜」
「「ハァ〜……」」
アージェさんとイザベラさんは呆れた顔をして大きな溜息をついた。
私は話に出てきたガノンさんのことが少し気になったのでマサキさんに聞いてみることにした。
「マサキさん。ガノンさんって?」
「セレンさん達と同じSランクで、聖騎士の天職をもつ盾持ちの冒険者ですよ。どうやらハート様がアーサーさんに正式な依頼をする間際に王都を出てしまったみたいなんですよね。事前に大迷宮に行く話はしてたようなんですが……」
「ドラゴンを見に?」
「いやおそらく戦いに……じゃないですかね? なんというか。強い魔物と戦うのが好きな人なので」
考える前に即行動するタイプってことか。どう考えても大迷宮のが強そうな魔物がたくさんいそうだもんね。
「そんなことよりチカさん。あれ。大丈夫なんですか?」
「ん?」
マサキさんが指差した方向を見ると──。
「大型の魔物……。はぁはぁ……これだけ広ければ私も魔法を……うひひ……」
アージェさんがニンマリとした笑みを浮かべながら不気味な笑声を漏らしていた。
(こわっ!! これじゃまるでマッドサイエンティストだよ!)
「ねぇ〜、チカぁー。またうちの牛がおかしくなってるの」
「ぷっ! うちの牛って……ふふっ……ッ!」
(笑っちゃダメだ。笑っちゃ……ぷぷっ……でもうちの牛なんてよくポーンとでてきたなぁ……ふふ…ッ!)
「牛!? シィーさん! まさかそれって私のことですか!?」
「お前以外におかしな牛なんていねぇの」
「そんなぁ〜……。いくらなんでも牛はあんまりですよ……」
牛と呼ばれたのが余程ショックだったのか、アージェさんはガックリと肩を落とした。
ま、まぁ。ちょっと可哀想だけどアージェさんも冷静になったみたいだしこれはこれでヨシっとしよう。また近距離で広範囲魔法なんかぶっ放されたらたまったもんじゃないもんね! ……でも今度食事でもご馳走してあげようかな?
◆◇◆◇
あれから探索も順調に進みあっという間に90階層! アージェさんのメンタル面が少し心配だったけど、気持ちよさそうに魔法をぶっ放してたしどうやら問題なさそうだ。
けどね。アージェさん。魔力の枯渇を起こすほどぶっ放すのはやめてもらえないですかね? え? 魔力回復ポーションがあるから大丈夫? いやそれはそうなんだけどさ……。
「マサキ。90階層は何がでてくるの?」
BOSSの部屋に続く扉の前で休憩をとってると、セレンさんが剣についた魔物の血液を拭き取りながらマサキさんに問いかけた。
「確かブラックドラゴンですね」
「ブラックドラゴン。やっぱり伝説級の魔物が出てくるのね……。ちなみに100階層は何がでてくるの?」
「えーと。……あれ? チカさん100階層ってなんでしたっけ?」
「魔剣リベリオンだよ」
セレンさんは首を傾げる。
「魔剣リベリオン? 初めて聞く魔物だわ。どんな魔物なの?」
「見た目はひとつ目のついた禍々しい感じの真っ黒い剣かなぁー。ただ、最大三体までって制限があるけど無限に自分のコピーを召喚してくるし、そのコピーも若干脆い程度で本体と区別がつかないから私が戦った時も倒すのに3時間以上かかったかな……。しばらく剣を見るのも嫌になったよ」
(まぁ、彼女は終始楽しそうに笑ってたけど……)
私の苦労が伝わったのか、セレンさんは目を大きく見開いて息を呑んだ。
「……そんな化け物。よくふたりだけで倒せたわね。通りで同行を嫌がるわけだわ……」
「んー、でもさっきのフェンリルのことを考えると、ブラックドラゴンも戦わなくても済みそうじゃないですか? まっ! もし戦ったとしてもチカさんがいれば大丈夫でしょ!」
マサキの緊張感の欠片もない発言にチカはおもわず顔を顰めた。
他力本願で思慮に欠ける言動に純粋に腹が立ったのはもちろんだが、それより気になるのは『なぜマサキさんがこんな楽観的な思考でいられるのか?』という疑問だ。
正直なところ思慮の足りない軽率な行動でマサキ自身が悲惨な状況に陥るのは自己責任なので一向に構わないと考えているチカではあったが、大迷宮で一緒に探索する以上そういうわけにもいかない。周りにも被害が及ぶのは明らかだ。
チカはさらに思考を巡らせる。
やっぱり私の加護のことをちゃんと理解できてないのかな? それともこの期に及んでまだゲーム感覚とか? ……いや。ゲーム感覚なら最下層で私と会った時にあんな怒ったりはしないか。
……うん。やっぱり可能性があるとしたらこれしかないかも。
私はマサキさんの目をジッと見つめながら、少しでも真剣さが伝わるようにゆっくりとした口調を意識しながら口を開いた。
「……マサキさんがどう思おうがマサキさんの勝手だけど、一応言っとくね? 私の加護で死んだ人を生き返らせることは絶対にできないから期待しないでね? っていうか、生き返る方法自体ないと思う。ミリアーヌさんでも多分無理だよ?」
(それができるならカエデさんを生き返らせてるはずだからね……。さてと。私の杞憂ならいいけど。マサキさんの反応はいかに!)
マサキさんはキョトンとした表情で「えっ」と間の抜けた声を漏らすと、みるみるうちに顔を青ざめさせて、ゴクリと唾を飲んだ。
「それマジですか……? いやでも……ゲームだと復活できるアイテムが……。もしくは最後に訪れた街の教会とかで復帰……とか。普通なにか方法ありますよね?」
(それのどこが普通なの!? っていうか、私の加護を過信してるだけじゃなくて、未だにゲーム感覚だったの!?)
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