第141話 大迷宮攻略①

 ということで不本意だけど、私の2度目の大迷宮攻略が始まった。目標は聖剣デュランダルの入手! と言ってもたぶん最下層の一番下。100階層とかにある気がするんだよねぇ……。


 確証はない。けどなんとなくそんな予感がする。こういう悪い予感って大抵当たるのはなんでだろね?


「はぁ……。もうそこら辺にデュランダル落ちてないかなぁ……」


「落ちてるわけないでしょ!? だいたい嫌ですよそんな聖剣!!」


 私の呟きに否定的なツッコミを入れてくるマサキさん。


「わがままだなぁ。マサキさんは。何処にあろうが聖剣は聖剣。重要なのは聖剣たり得る性能があるかどうかだよ?」


「うぐっ……! それはそうですけど……。さっきからなんで俺にだけそれらしい正論で返してくるんですか?」


「そんなの決まってんじゃん。せめてもの意趣返しだよ……」


「完全に逆恨みじゃないですか!?」


「ねぇ、マサキ。こんなこと本当は言いたくないんだけど。本当にこの人数で大丈夫なの?」


 心配そうな顔でそう問いかけたのはS級冒険者のセレンさんだ。


「大丈夫ですよ。セレンさん。こう見えてもチカさんは俺なんかより遥かにこのダンジョンに詳しい人なんですよ?」


「えっ、そうなの?」


「はい。俺の世界でこの大迷宮を完全踏破したプレイ……。いや。冒険者のひとりですからね」


「大迷宮の攻略者なの!?」


 ちっ。マサキさんめ。また余計なことを。これは過度に期待される前にちゃんと反論しとかないと……。


「セレンさん。攻略者って言っても全然大したことじゃないんだよ? 私以外にも大迷宮を完全踏破した人はたくさんいたからね」


「た、たくさん? そんなに……?」


「はぁ。誰よりも早く単独で完全踏破した人がなに言ってるんですか。大迷宮を一番初めに完全踏破した冒険者に送られる聖剣デュランダル。……あれ。持ってたのチカさんですよね?」


「単…独……踏破……? 大迷宮を……?」


「ちょっと!? 大迷宮は私ひとりで挑戦したんじゃなくて、ふたりで挑戦したんだって前マサキさんにも話したよね!?」


「あれ〜? そうでしたっけ?」


(コイツっ!! まさかワザとかッ!?)



 ふーん。そう……。そういうことするんだ。それなら私にだって考えがあるんだからね。


「……やっぱり勇者は世界にひとりいれば十分な気がするんだよねぇ。……ということでマサキさん? 今までお疲れ様でした」


「あはは……。い、嫌だなぁー。チカさん。冗談ですよね?」


 マサキさんは助けを求めるような目でマリーちゃんに視線を送る。──が、マリーちゃんは首を横に振った。


「城門でチカは確かにそう言ってた。いまのはマサキさんが悪い。私でも庇いきれない。……お疲れ様?」


「マリーさんまでそんなこと言わないでくださいよ!!」


「……さてと。今度は口に出すのも恥ずかしい天職に変えちゃおうかなぁ〜?」


 私の言葉を受けて。マサキさんは私の方に駆け寄りながら流れるような動きで膝を降り、身を滑らせながら地面に両手をついて頭を下げた。


「すいませんでしたああああ──ッ!!」



 ◆◇◆◇



 探索を始めて1時間。私達は80階層のBOSS部屋へと続く大きな扉の前まで無事辿り着くことができた。


 私としてはすぐボスに挑戦しても良かったんだけど、セレンさんとイザベラさんからの提案で休憩を取ってから挑むことになった。ふたりの顔が若干強張っているところをみると、前回の敗走を少し引きずっているのかもしれない。


 あっ、ちなみにマサキさんは見事なスライディング土下座に免じて、今回だけは許してあげることにした。スライディング土下座なんて生で初めて見たよ……。


 『スライディング土下座』ってスキルがあるって言われたら信じそうになるほど、流れるように綺麗な動きだった。あんな動き一体どこで覚えたんだろ……?


 そんなマサキさんは今。勇者の魔法についてアージェさんにアドバイスをしている。アージェさんは今まで見たことないくらいニコニコだ。


 驚いたことに勇者はスクロールで魔法を覚える必要がないんだって。だからアージェさんも私が天職を変えた時点で、ステータス画面に勇者の魔法が表示されたらしい。


 じゃあなんでアドバイスなんかしてるかって? ふふっ、それはね……。


 78階層の狭い通路でいきなり広範囲の魔法をぶっ放したからだよッ!! 


 勇者になれて嬉しいのは分かるよ? けどあれはない。ホントない!


 直撃こそしなかったけど爆風でみんな転がっちゃって服はドロドロ。吹き飛んだモンスターの血液が飛び散って髪はベトベト。はっきり言って最悪だった。洗浄の魔法があってホント良かったよ。なかったら間違いなく帰ってたね!


 まったく。アージェさんは……。マサキさんから自重というものを学んでほしいものだね!



「隣いいかしら?」


「ん? あぁ。どうぞどうぞ」


 私が道中の出来事を思い返していると、セレンさんがマリーちゃんが持ってきた椅子を持って私に声をかけてきた。


 ピンっとした長い耳に明るめのアッシュベージュの長い髪。エメラルドグリーンの瞳と細くてキリっとした眉。


 あまりに容姿が整いすぎていて同性の私でも面と向かって話すのはなんだか緊張する。マサキさんよく平気な顔してセレンさんと話せるなぁー。


「ねえ。さっきマサキが話してたことって本当なの? その。大迷宮を完全踏破したって」


「ふたりでね!! 私ひとりじゃ絶対無理だったよ」


「それでも十分凄いわよ! そもそもふたりだけで一体どうやって? BOSSは? BOSSはどうしたの!? 天職の構成は!?」


「わわっ! ちょっとセレンさん!? 少し落ち着いて!」


 掴みかかって来るんじゃないかってぐらい真剣な眼差しで私に詰め寄ってくるセレンさん。やっぱりS級冒険者ともなると強くなることに対して貪欲なのかもしれない。職構成まで聞かれるとは思ってもみなかった。


 でも「どうやって?」って言われてもなぁー。私と彼女で交互に槍で攻撃してただけなんだけど……。


 私も彼女もランサー槍使いで回復手段は回復剤のガブ飲み。職構成はアンバランスもいいところ。そんな私達が大迷宮を踏破できたのは彼女の火力とプレイヤースキルが異常に高かったからだ。


 私が遊んでたフィリア・クロニクル・オンラインは仮想空間でモンスターと現実さながらのリアルな戦闘を楽しめるってことで、幅広い年齢層から爆発的な人気を得ていた。以前からあった他律型AIのようにパターン化した動きをするわけではなく、自律的に動くAI技術を新たに開発、導入したことでそれが可能になったわけだ。


 そんな中、彼女は自律型AIのモンスターの動きを攻守関係なくほぼ全てと言っていいほど読み切っていた。アップデートされたばかりのモンスターだろうが、BOSSモンスターだろうが関係なく全て。


 当然周囲からはチート行為を疑われたり、他のプレイヤーから絡まれて対人戦を挑まれることもあったけど、対人戦でも彼女の動きが変わることはなかった。まぁー、そもそもひと昔前のMMO RPGならともかく、 VR MMO RPGで運営にバレることなくチート行為をすること自体不可能と言われてたから、難癖以外の何ものでもなかったんだけどね。


 ……でも周囲の人達がチート行為を疑いたくなるほど彼女の動きは神がかってた。



 とりあえずセレンさんには、一緒にいた友人が凄く強かったから大迷宮を踏破することができたって正直に話してみることにした。


 上手い言い訳も思いつかないしね。


 セレンさんは私の話を最後まで聞き終えると、なぜか驚愕と疑問が入り混じったような表情を浮かべた。


「攻撃職のペア……? か、回復……。回復はどうしたのよ!? 広範囲の攻撃がきたら避けきれないことだってあるでしょ!?」


「ポーションカブ飲み」


 私は親指を立ててグーポーズでセレンさんの疑問に答えた。


「……そう。分かったわ」


 そう言うとセレンさんは椅子からゆっくりと立ち上がった。どこか寂しげな雰囲気を感じるのは気のせいだろうか?


「私には教えられないってことね。出会ったばかりだもの。当然よね」


「えっ? いや、そうじゃなくて──」


「嘘で誤魔化したりしないでそれならそうと言ってくれたら良かったのに……」


「だからそうじゃないってば! なんで私が嘘をついてるなんて思ったの!?」


 私が声を上げると、シィーが私の目の前まで来て右手を私に見えるように広げた。


「シィー。それはどういうつもり? 私はセレンさんの誤解を解かないといけないんだけど」


「マリーにマサキの天職のことを隠す」


「へっ……?」


 小さな指を一本づつ曲げながらシィーは言葉を続ける。


「同行したくないからってイザベラって人間を利用しようとする」


「あっ……」


(なるほどね……。シィーが私に何を言いたいのかよく分かった。要するに……)


「ん〜。これは疑われても仕方がないような気がするの」


「…………だね」



 信用を失うから今回みたいなことはもうしないようにしよう。そう固く心に誓ったチカなのであった。

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