第140話 八方塞がり

「チカさん。もちろんこの先の探索にもついて来てくれるんですよね?」


 マリーちゃんが持ってきた食事を終えて一息ついた頃。唐突にマサキさんがそんなことを言いだした。


(……なに言ってんだろこの勇者。真っ直ぐ帰るに決まってんじゃん)


 そもそも私は一度クリアーした大迷宮の探索に興味もなければ、聖剣なんかもっと興味がない。手伝うメリット皆無だ。ここは丁重にお断りをしよう。


「それはニートの私にはちょっと荷が重いかな」

 

「気軽に『勇者』を量産できる人のどこがニートなんですか!? 俺なんかよりよっぽど召喚された勇者っぽいじゃないですか!」


「そんなこと言われても。だって本当のことだし……」


 ん? でも一応冒険者ギルドに登録してるから職業が空欄なだけでニートではないのか?


「そんなの加護の力で変えればいいだけの話じゃないですか!」


 あっ、やっぱりマサキさんもそう思うよね。そりゃできるならそうしたいところなんだけどね私も。だけど……。


んだよ」


「え……? できなかった? しないとかじゃなくてですか?」


 マサキさんが驚くのも無理はない。私だって天職を変えることができると分かった時に一番に考えたことだ。『これでやっとまともな魔法が使えるようになるぞぉー!』 ってね。


 でも駄目だった。空欄に文字を入れることもできなかったし、職業を天職に変えることもできなかった。



「へぇー。チカさんにも出来ないことってあったんですね。まぁ。それでも十分チートですけどね」


「ん〜? じゃあチカさんは『勇者』みたいに強力な魔法とかは使えないってことですかぁ〜?」


「使えないね。私が使えるのは青のスクロールで覚えられる簡単な魔法ぐらいかな」


 イザベラさんに言ったことは嘘じゃない。私が使えるは火魔法、水魔法、洗浄の3つだけ。ただ攻撃手段がこれしかないのかと言われるとそういうわけじゃない。ブリュナークだってあるし、やろうと思えばバックに大きな岩でも収納しておいて空から落とすだけでも十分な威力になると思う。


 まっ、この場でそんな余計なことを言うつもりは全くないんだけどねっ!!


 話したら最後。マサキさんの天職を遊者にしちゃった件があるせいで、なんだかんだ探索に同行するハメになるのは目に見えている。


 私だって馬鹿じゃないんだよ! 馬鹿じゃ!!



「ん〜。それじゃあ最下層に同行してもらおうなんて、いくらなんでも無理があるんじゃないですかぁ〜?」


「いやいやっ!! チカさんには──」


(おっと、そこまでだ。それ以上は言わせないよ? マサキさん!)


「そうなんだよイザベラさん!! 悔しいけど魔法が使えないEランク冒険者に私じゃ、役に立つどころか足手まといになるだけなんだよ!」


「Eランクですかぁ〜? んー、チカさんには申し訳ないですけど、私も同意見ですぅ」


「ちょっ!? チカさんの場合ランク関係ないじゃないですかっ!!」


「えっ?」


 後方から聞こえたマサキさんの話しに疑問を感じたのか、イザベラさんの顔と身体が振り返ろうと僅かに左へ──いく前に私はイザベラさんの肩を両手でガシッと掴んだ。


(ふぅー! あぶないあぶない。マサキさんめ。余計なことを……)


 突然肩を掴まれて驚いた顔をしているイザベラさんの目を見つめながら私は言葉を続けた。


「もちろん力になりたい気持ちはあるんだよ? だけどみんなを危険に晒したくない。……だからごめんね?」


「チカさん……。そんなに気にしないでください。その気持ちだけで十分ですぅ」

 


 ふふふ! どうやら私の外堀を埋める作戦は上手くいったみたいだ。マサキさんが唖然とした表情でこっちを見ているけどそんなの知ったこっちゃない! 私は早く帰りたいんだよっ!!


 それにしてもマリーちゃんが何も言ってこないのは少しだけ気になるなぁ。てっきりマサキさんの意見に賛同するかと思ったんだけど……。んー。帰るのに賛成なのかな?


「なんだお前弱いのかぁー?」


 私が食事の後片付けをしているマリーちゃんの方を見ていると、耳元で小馬鹿にするような口調のウィル君の声がした。


「やっぱりセレンのが数倍凄いんだぜぇ!」


「はああああ──ッ!? 確かに魔法は使えないけどチカには最強の槍とティターニア様から貰った空飛ぶ靴があるのっ!! それにミーアが出てくればブルードラゴンを一撃で消滅させる魔法だって使えるんだからね!! チカの言ってることを鵜呑みにして勘違いしてんじゃねえの!!」


 (………………えっ?)


 シィーの怒声が洞窟内に木霊した。

 

 反響する声が小さくなり彼方へ消え去ると、シーンとした静寂が周囲を包み込んだ。


 色々暴露されて放心状態の私にみんなの視線が集中していく。



 数秒ほどして周囲の反応に気づいたのか、シィーが「あっ……」と小さく声を漏らすと、あざとい笑顔を浮かべながら私の方へ振り返った。


「エヘっ♪ やらかしちゃったの♪」


「やらかしちゃったの♪ じゃないよっ!! どうするのこの状況!? ……あっ、ちょっと! 都合が悪いからってフードの中に逃げるなあああ──ッ!!」


「シィーさん。貴重な証言をありがとうございます。ということでチカさん? この先の探索にもついて来てくれるってことでいいですよね?」 


「…………」


「あれ? さっき力になりたいって言ってくれてましたよね?」


「……でもマサキさん達の鎧ボロボロだし」


「ん。それなら大丈夫」


 そう言うとマリーちゃんは猫耳パーカーのポケットからネコのワンポイントのついたポーチを取り出すと、ポーチの中から鎧や武器を取り出して地面に並べだした。


「たくさん持ってきた。セレンさんとイザベラさんのもあるから安心して?」


「……ポーションとか食料の問題だって」


「大丈夫。それもたくさん持ってきた。他には何かある? あったら言って?」


「もう何もないよっ!! うわああああん!! シィーとマリーちゃんのばかあああああ──ッ!!」


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