第135話 大迷宮に向かう前に

 妖精城をでて王都に戻ってきた私達は大迷宮に向かう前に王都の冒険者ギルドに立ち寄ることにした。


 もしかしたらマサキさん達も帰ってきてるかもしれない。そんな淡い期待を胸に抱いて......。



「マサキさんと同行したSランクの方々ですか? まだ帰ってきていませんよ?」


 はい。私の期待はあっさり砕かれました。はぁー。やっぱり行かないとダメかあ......。


「そういえばセレスさん達おかえりが遅いですね。80階層を踏破したら戻ってくると聞いていたのですが......」

「ソ、ソウナンダー」


 あまりに気まずくて視線を逸らすと、マロンさんが真っ青な顔をしてアワアワしてることに気がついた。


「マロンさん!?」

「はうっ! ごめんなさいご主人様......。でも勇者様が......。やっぱり天職が違──」

「ちょっ!?」


 私は慌ててマロンさんの口を塞いだ。


「んっー!? んーっ!!」


 ビクッ! と身体を震わせるマロンさん。だけどこっちはそれどころじゃない! 何を言いだすんだこの人はっ!! 今の聞かれてないよね!? 大丈夫だったよね!?


 恐る恐る受付の女性の方を見てみると、不思議そうに首を傾げていた。周囲の人達にも特に変わった様子は見られない。私はホッと胸を撫で下ろした。


「ど、どうかされましたか?」

「ううん! なんでもない!! こっちの話だから気にしないで?」

「はぁ......? 」


 まったく!! マロンさんはなにを考えてるんだ! こんなところでベラベラ話したら誰が聞いてるか分からないじゃないかっ!!


「チカ?」

「ホントだ! チカだニャ!」 


「ひゃっ!?」


 振り返るとメリィちゃんとフィーちゃんを肩に乗せたマリーちゃんがギルドの入り口に立っていた。


「こんなところで何してるのニャ?」

「べ、別に何も──」

「チカ様は勇者様に同行しているS級冒険者のセレンさんとイザベラさんに用事があったようです」

「ちょっと!?」


 受付のお姉さんまで何を言いだすんだ!! そんなことふたりに言ったら.......。


「ニャ? チカがS級冒険者に用事? 何かあったのニャ?」

「チカ。どうしたの?」


 ほらっ!! こうなった!!


「べ、別になんでもないよ!!」

「なんでもないのになんで探してるのニャ?」

「えっ?」

「だからなんでもないのに、なんでS級冒険者なんか探してるのニャ?」


 ──うぐっ。さすがメリィちゃん。鋭い。鋭すぎる! でも少しは追求されるこっちの身にもなってほしい。そうなんだーアハハとか言って適当に流してくれてもいいじゃん! ねえ、それじゃダメなの!?


「いや。えーと......。そうっ!! ちょっとマサキさんに聞きたいことがあってさ!」

「勇者様に? ......じゃあ王城に行ってみた方がいいんじゃないかニャ?」

「た、確かに! それもそうだよね!! 私としたことがうっかりしてたなぁー! あはははは!」


 私が笑って誤魔化していると、フィーちゃんが私の肩に座ってるシィーの隣まで飛んできて腰を下ろした。


「なんだかチィーの様子がおかしい気がするのです。シィルフィリアちゃん? 何か隠してないですかぁー?」

「別に何にも隠してないの!!」

「ふーん。チィーはどうなんです?」

「私も隠し事なんてしてないよ?」


 澄まし顔で私がそう答えると、フィーちゃんが突然目を大きく見開いた。


「えっ......? なんで? そんなはずは...... 」

「え?」


 なんだろう。この反応......? フィーちゃんはなんでこんなに驚いてるんだろう?


 私が首を傾げているとフィーちゃん凄い勢いで振り返り、シィーの両肩をガシッと掴んだ。


「シィルフィリアちゃんっ!!」

「わっ!?」

「今日は何をしてたのです!? 何を隠してるんです!?」

「驚かせるんじゃねえの!! フィルネシアには関係ないから教えてあげないの!!」


 相変わらずフィーちゃんに冷たいなぁシィーは。姉妹なんだから仲良くすればいいのに。......おっと。今はそんなことよりこのチャンスを生かさないと!


「ふたりこそ王都に戻ってきてたんだ。何かギルドに用事?」

「私はニャンコ通信の件で来たのニャ! 王都のギルドでも販売されてるみたいだからニャ!」

「あー、なるほど! メリィちゃん色々ありがとね」

「気にすることないニャ! マリーもギルドに用事があったみたいだし、ちょうどよかったニャ」

「マリーちゃんが?」

「ん。私は依頼を出しに来た」

「依頼?」

「そう。お店の開店準備の人手とニッケルの街から王都への荷馬車護衛の依頼」

「へぇー。本格的に王都で売り出していくんだ。頑張ってね?」

「ん! 頑張る!」


 マリーちゃんはコクリと頷くと両手を軽く上げてギュッと拳を握った。


「......さてと! じゃあ私達は王城に行ってくるからまた後でね!」

「ん。いってらっしゃい」

「ハート様によろしくニャー!」


 ──よし!! 上手く話を逸らせたあああー!! フィーちゃんありがと!!


 内心でガッツポーズをしながら私はギルドを後にした。


 一方、チカの後ろ姿を見送った後。フィルネシアはマリーの耳元にそっと顔を近づけた。


「......マリー。話したいことがあるのです」

「ん? どうしたの?」

「実は──」

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