第134話 精霊力回復ポーション

 頭の中に響いた声に従って加護の力を使った私はゆっくりと目を開いた。


 はい。みんなこれでもかってぐらい私をジーッと凝視してますね。もう私がなにをしたのか分かってるみたい。まぁ、それもそうか。私が加護を使うと光るもんね。


「ねぇ、チカちゃん。 今の光って......。というかその手に持ってる物のってまさか......? ちょっと見せてもらってもいいかしら?」

「もちろん! っというかティターニア様のために創ったんだからそのまま受けとちゃってよ!」

「ふふっ、チカちゃんありがとう」


 私は笑顔で頷くと、ティターニア様に出来立てホヤホヤの精霊力回復ポーションを手渡した。


 片手で持てる手頃な大きさ。そして蓋に妖精の彫刻までつけた私の自信作だ!


「......信じられないわ。どうやって精霊力を? いえ、そもそもどこで精霊結晶のことを......?」


 ティターニア様はブツブツと独り言を呟きながら、精霊力回復ポーションを揺らしたり、向きを変えたりして興味深そうに見入っている。


「ねえねえ。チカ」

「ん? どうしたのシィー?」

「......あの彫刻。あれどう見ても私に見えるんだけど......?」

「気のせいじゃない? 確かにちょこっとだけ似てるような気もしなくもないけど」


 私がそう答えると、シィーが私の顔の目の前まで迫ってきた。


「ちょこっとどころじゃないから言ってるのっ!! 誰がどう見ても私なのっ!! 一体どういうつもりで創ったの!?」


 シィーが大変ご立腹だ。でも彫刻がシィーにそっくりな理由なんて一つしかないじゃんね?


「......だって一番想像しやすかったんだもん」

「はあああああ──ッ!? ふざけんじゃねえのっ!! あんな物私がすぐに処分してやるの!!」


 怒り気味にそう言うと、シィーはティターニア様のもとへ飛んでいった。


 あんなに怒らなくてもいいのに。結構よく出来てると思うんだけどなぁー。


 でもちょっと意外かも。シィーって他の妖精さんから褒められたり敬われるたりするの好きそうなのに。


「ティターニア様っ!! それを私に渡して欲しいの!!」

「はいはい。シィーちゃん、ちょっと待ててね」


 ティターニア様はシィーにそう言うと私の作ったポーションを2つに増やし、片方をシィーに手渡した。


「はい。お待たせシィーちゃん♪」


 ニコニコして大事そうに私の創ったポーションを抱えてるところを見ると、どうやらティターニア様はポーションを壊す気は一切ないらしい。


 一方、ポーションを手渡されたシィーはポカーンとした様子でポーションとティターニア様を交互に見ている。状況が呑み込めてないのかな?


「えっ? いや......そうじゃなくて...... 」

「だーめ。壊すなんてとんでもないわ。いくらシィーちゃんの頼みでも許容できません!」

「そんなぁーッ!?」


 頬をプクッと膨らませてNOを突きつけるティターニア様。


 その様子を見てシィーは木の葉みたいにヒラヒラと床に落ちていくと、着地と同時にその場にぺたんと座りこんだ。


 そんなに嫌がらなくてもよくない? これじゃあニャンコ通信を発行されたり、さっきまでサインを書いてた私はどうなるんだ! 


 それもサインに関してはシィーも積極的に協力してたし、ギルドで看板を見たときなんか大爆笑してたよね?


「うぅ......。じゃあせめて彫刻だけでも外してほしいの」

「だーめ♪ せっかくチカちゃんが私のために作ってくれたんだもの! そんなことできないわ。それに見て? この彫刻。自慢するときのシィーちゃんにそっくり」


 ティターニアはシィーの彫刻を優しく指先で撫でると、さらにポーションを2つに増やし、片方を一気に飲み干した。


「......決めました! このポーションを城内に展示して大々的に公表しましょう!」

「ほぇ?」


 ティターニアの突然の宣言に、シィーは間の抜けた声を漏らし、周囲に控えていた妖精達も驚きの声を上げた。


 それも当然の反応だった。なぜなら妖精城で何かを展示して公表したことなど今までなかったからだ。勇者カエデの遺物ですらそんなことはしていない。


 まぁ当時のティターニアの心情的にそんなことができる状態ではなかったのが理由なのだが。そんなことシィーや周囲の妖精達は知る由もない。



 周囲がざわめく中、チカは頭に浮かんだ疑問をティターニアに聞いてみることにした。


「お城で展覧会を開くってこと?」

「ふふっ、その通りです!」

「でもポーションだけじゃ、せっかくの展覧会なのになんだか寂しくない?」

「それもそうねぇ」

「よかったらこれも展示する?」


 私はスマホをバックからだしてティターニア様に見せた。


 どうせあとでティターニア様に撮ったムービーを見せようと思ってたからちょうどよかった。


「それはなんですか?」

「私達の世界ではスマホって言うんだけど。なんて言えばいいのかなー。......色んなことができる道具?」

「色んなことができる? 具体的にはどういったことができるのかしら?」

「ムービーや写真を撮ったり、メモを残せたり、あとゲームをしたりとかかな? 私がいた世界ならもっと色んなことができるんだけど。この世界だとそれぐらいだと思う」


 そもそも通信環境がないしね。まぁそれでも十分便利だけど。


「写真? ムービー?」

「あっ、ちょっと待ってね。いま見せるから。......えっ?」


 スマホを操作しようと視線を下げると、シィーが両手を広げてスマホに抱きついていた。


「......シィー。何してるの?」

「......わた............ゆるさ......いの」

「えっ? ごめん。聞き取れなかったからもう一度言って?」

「私にこれをくれないと許さないのっ!!」


 ──あー、なるほどね。そうきたか。


 シィーはもうティターニア様を止めることはできないと判断して、スマホを入手するほうへ目標を切り替えたんだ。


「あっ! あと他にも面白そうなものがあったら創って!!」

「えー? そんなこと急に言われても......。すぐには思いつかないよ?」

「じゃあ考えといて!!」

「はぁ......。分かったよ」

「本当に? あんな彫刻を創ったんだから嘘ついたら一生許さないの!!」

「あんな彫刻って......。よくできてると思うんだけどなぁー。そんなに彫刻を創られたのが嫌だったの?」

「え? 彫刻は自体は別に問題ないの。......むしろみんなに自慢できるからお礼を言いたいぐらいなの」

「へ? じゃあなんでそんなに怒ってるの?」

「この顔なのっ!! もっとこーっ。優しく微笑んでる感じにして欲しかったのにぃ!! 創るなら創るで事前に希望は聞いて欲しかったの!」

「えぇー......。そこなんだ......」

「そこなんだ......。じゃねぇのっ!! だいたいチカはいつもいつもそうやって無計画に行動して────」



 その後シィーの怒りのお説教は30分ほど続いた。要約すると気品が漂うような感じにして欲しかったらしい。


 確かによく考えたらティターニア様が複製することは想像できたし、もうちょっとよく考えてから創ればよかった。ちょっと反省。


 ちなみにスマホで撮ったムービーをティターニア様に見せてあげたら凄く喜んでくれた。


 展示会でこのムービーも見せるんだって張り切ってた。


 まぁ、神々しい雰囲気でティターニア様の女王としての威厳もたっぷりなムービーだったから気持ちは分からなくもないけどね。


 今も繰り返しムービーを見返してるから相当気に入ってくれたみたい。



「キャーッ!! 私カッコ良すぎじゃない? ほら! シィーちゃんも見てみて?」

「......ちょっと待って。私はいま凄く忙しいの」

「あら、そうなの? 残念だわ」


 ......うん。シィーはスマホのゲームアプリで遊んでるだけだよね? なんかスマホゲームにどハマりした彼氏、彼女さんみたいな返答をしてるけど、相手女王陛下なのにそれで大丈夫なの?

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