第133話 邂逅

「やっと終わったぁー......」


 かれこれ何時間サインを書き続けたんだろ私......。っていうか。しばらくペンなんて使ってなかったから手が疲れちゃったよ。


「ふふっ、チカちゃんお疲れ様♪」


 優しく労いの言葉をかけてくれたのは、大きめの色紙を手に持ったティターニア様だ。


 えぇ。もちろん私のサイン入りです。


 というか、そもそも今回のサイン会の発端はティターニア様の「サイン書いてもらえるかしら?」の一言から始まったんだよね。


 まあ、初めから色紙を持ってきてた妖精の子供達が言いづらそうにモジモジしてたし、ティターニア様もその子達のことを想ってのことだろうから強くは言えないけどさ。それに......。


 私は嬉しそうにはしゃいでいる妖精の子供達の方へ視線を送った。


「わーい!! ネコさん! ネコさん!」

「サイン♪ サイン♪」

「どこに飾ろうー?」


 ──うん。ちょっと恥ずかしいけど、凄く喜んでくれてるし頑張ってよかったかも。でもできれば飾るのはやめてくれないかな......。



 自分の書いたサインが居間に飾られる光景を想像して、嬉しいような恥ずかしいような、なんとも複雑な心境のチカなのであった。



 ◆◇◆◇



 さてと。サイン会も終わったし、そろそろティターニア様へのお礼を考えないと。さすがにサインだけってわけにはいかないしね。


 でも何がいいかなー? ゲームのソフトとか? んー。喜んではくれるだろうけどなんか違う気がする。


 そもそも今回は貴重な宝玉まで使わせてしまってるし、やっぱりそれに見合ったものがいいよね? んー......宝玉に見合ったもの......見合ったもの......。


「チカちゃん。考え込んでるところ悪いんだけど、そろそろお城にもどらない?」


 ティターニア様は同意を求めるような口調でそう言うと、私の肩をポンと叩いた。


 そういえばティターニア様の顔色が数時間前と比べてだいぶ良くなっているような気がする。精霊力の枯渇って回復が速いのかな?


「そうだね......?」


 ん? 精霊力の枯渇? 


「えっ? どうして疑問系?」


 不思議そうに首を傾げるティターニア様。シィーとマロンさんも不思議そうな目で私を見ている。


「チカどうしたの?」

「いや。精霊力が回復するポーションとか作れないかなーって......」

「はぁー? さっきティターニア様も言ってたけど、精霊力を回復するには休むか、翠緑の宝玉を使うしかないの!」

「もちろんそれは分かってるんだけど......。ねえねえ。さっきの緑色にキラキラ光ってたのが精霊力ってことでいいんだよね?」

「そうなの! でもだからってそれがどうしたっていうの?」

「私さっきよね?」


 今までの経験上触れてさえいれば精霊力が理解できてなくても何とかなるような気がするんだよねー。


 精霊力と精霊力回復ポーションが同一のものって認識も私の中にないしね。リンゴとリンゴジュースみたいなもんだ。


 私の言いたいことが伝わったのか、シィーが目を大きく見開いた。


「あっー!! 確かに触ってたのっ!! えっ? いやでもいくらチカが非常識だっていっても本当にそんなこと可能なの......?」

「なっ!? 失礼なっ!! 私はいつだって良識を心得てますぅーっ!!」

「............」


 私の返答を聞いてなんとも言えないような顔をするシィー。 


「そんな顔してないでなんか反応してよ!? 私までなんて言えばいいか分からなくなるじゃん!」

「じゃあノーコメントなの」

「はぁーっ!? それじゃあ言葉にだしてる意味ないでしょ!?」


 シィーは私を見てやれやれっといった様子で首を振った。


 私はただ良識があるって言っただけなのになんてひどい反応だ。これは断固抗議しないといけないね!!


 そう思って私がシィーに詰め寄ろうとした瞬間、その様子を見てたティターニア様がゆっくりと口を開いた。


「......たしかにチカちゃんの言う通りあの光が精霊力であることは間違いありません。ですがそれは不可能なのです」


 私の疑問に答えるように首を横に振るティターニア様。


「どうして?」

「精霊力を翠緑の宝玉以外の物に移す方法がないからです。もちろん複製することもできません。もし翠緑の宝玉に触れた状態で私が

 精霊魔法を使えば、あっという間に私の全精霊力は翠緑の宝玉に封印されてしまうことでしょう」

「ん? 封印......? 精霊魔法が使えなくなっちゃうってこと!?」

「......この世界での役目を終えるということです」

「えっ? それって......」


 精霊力を全て失うと死んじゃうってことだよね......? えっ。じゃあさっきの宝玉は形見的な役割もあったってこと!? 


 チカの様子を見て心情を察したティターニアはわずかに言葉を詰まらせると、チカに向かってニッコリと微笑みながら穏やかな口調で言葉を続けた。


「......と言っても翠緑の宝玉に意思があるわけではありません。ずっと宝物庫にしまったままになるくらいならチカちゃんの役に立ったほうがよっぽど有意義だわ」

「そう言ってもらえるのはありがたいけど、でもあとは──」


ゲームくらいしか。そう言おうとした手前でティターニア様が私の言葉を遮った。


「あっ、お礼なんて考えなくていいのですよ? 私がしたくてしただけなんですから」

「うーん......」


 ティターニア様はこー言ってくれてるけど、意思があろうがなかろうが、私のために貴重な宝玉を使ってくれたんだからお礼は絶対したいんだよなぁ。うーん......。


 ......よし。決めた! ティターニア様には無理って言われたけやっぱりやるだけやってみよう! だいたい失敗したところでデメリットなんてないしね!


 そうと決まれば集中集中っ!!



 私は目を瞑り、頭の中で先ほど触れた緑色の光を思い浮かべた。


 さて問題は何にいれるかだ。さっきの緑色の光は私の手をすり抜けてた。すり抜けてしまうようじゃポーションとして成立しないから創りだすことができない。


 まぁー、でもかといって対策も思い浮かばないんだよなぁ。......うん。もう手当たり次第試してみるしかないかな?



 ガラス......ペットボトル......鉄......アダマンタイト......。んー、どれもダメかぁ。


あとは何かあったかなぁー......。




 ──『


 ん? 精霊結晶? 


 ──『そっ。精霊結晶』


 えっ!? 誰!? 


 ── 『そんなの後でいいから早く思い浮かべて? 創れなくなるわよ? いいの?」


 よくないっ!! 色んな意味でっ!!


 ── 『ふふふっ、いいから早く思い浮かべて? 私も手伝ってあげるから。ほーら。はやくはやくー』


 あっー!! もう分かったよ!! でも絶対あとで教えてよ!?

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