第130話 大迷宮に行く前に準備をしよう!②

 妖精の里についた私達はティターニア様に会うために妖精城に向かった。


「ここが妖精の里ですか......。すごく綺麗なところですね。まるで絵本の中みたい......」


 私の裾をギュッと握りしめ、キョロキョロと周囲を見渡しながらマロンさんは感嘆のため息を漏らした。


 マリーちゃんとメリィちゃんもそうだったけど、カエデさんを題材にした絵本は私が思っていた以上にこの世界の人達にとって身近なものみたいだ。カエデさんもまさか死後に自分の冒険が絵本になって、数百年も語り継がれていくなんて夢にも思ってなかっただろうなぁー。


 この世界に死後の世界があるのかは分からないけど、もしあったら恥ずかしくて悶え死んでそうだ。かわいそうに......。あっ。


 ふと、ニャンコ通信のことが私の脳裏をよぎった。


 ──私は人のことは言えないか......。


 いやっ!! 私はカエデさんと違ってまだリカバーできるはずだ!! 


 だいたいニャンコ通信みたいな情報誌が絵本みたいにずーっと語り継がれていくとは思えないしね。


 とりあえずマサキさんの件が片付いたら、メリィちゃんとメアリーさんに釘を刺すのを忘れないようにしないと......。


「あっ! ご主人様! 見てください! お城が見えてきましたよー!!」


 そんなことを考えながら歩いていると、遠目に妖精城が見えてきた。




 謁見の間に入るとティターニア様が笑顔で私達を歓迎してくれた。


「ふふっ、よくきてくれましたね」

「こんな朝早くからごめんね?」

「ふふっ、チカちゃんならいつでも大歓迎よ。......それで? 今日はどうしたのかしら? あっ! もしかして以前約束したカエデのノートの件?」

「あっ......」


 ──やばっ! カエデさんのノートのことすっかり忘れてた!


「......その反応。どうやら違ったみたいですね」

「う、うん。ごめんね? いま立て込んでて......。ノートを一緒に見るのは落ち着いてからでもいいかな?」

「えぇ、かまいませんよ。楽しみにしてますね。......そうだ! チカちゃん達は朝食はもう食べたのかしら? もしまだなら食べながら話しましょ?」

「んー......」


 ──まぁ、S級冒険者が一緒みたいだし、そこまで急がなくても大丈夫か。食事をとらないで大迷宮に挑むのは危ないもんね。


「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「ふふっ、そうこなくっちゃ♪」


 ティターニア様は玉座から立ち上がると、私達に向かってニコッと微笑んだ。



 ◆◇◆◇


 私は食堂で朝食を食べながらティターニア様に今までの経緯を全て説明することにした。カエデさんのノートを後回にする理由はちゃんと説明しといたほうがいいだろうしね!


 私の話を聞いたティターニア様は、唖然とした様子で数秒ほど目をパチパチさせた後、真剣な表情でポツリと呟いた。


「まさか天職まで変えることができるなんて......」


 静寂が周囲を包み込む中、一通りの説明を終えて喉が渇いた私は、妖精さんがカップにいれてくれた果物ジュースを飲んで一息ついていると、カタカタと小刻みにナニカが揺れ動くような物音が聞こえてきた。


 気になって周囲を見渡してみると、私の真横に座っていたマロンさんが血の気の引いたような青白い顔で、口をパクパクさせて小刻みに震えながら、とんでもない事を聞いてしまった! とでも言いたげな表情で私を見つめていることに気がついた。


 マロンさんは私と目が合うと、ハッとしたような表情を一瞬みせた後、頬をピクピクさせて苦笑いを浮かべながら。


「さ、さすがご主人様です......。すでに勇者様もその手にかけていたなんて......」

「ぶっ!? ゴホッ!! ゴホッ!! いやかけてないからっ!!」

「ひっ......!」


 まったく何を勘違いしてるんだマロンさんはっ!! 私がマサキさんを殺そうとするわけないじゃん!! 


 まぁ、ワザとじゃないとはいえ結果的に見れば? そうなってしまうかもしれない状況なのは認めるけどさ......。



「チカちゃんの事情はわかりました。確かに大迷宮を攻略するならあの靴は必要になるかもしれませんね......」


 ──いや攻略をするわけじゃないけどね?


「......ってその言い方。やっぱり空飛ぶ靴って実在するの?」

「えぇ。もちろんです」

「おぉーっ!!」

「まぁー、正確には『実在した』が正しいかもしれませんが......」

「えっ? じゃあ今はないってこと?」

「えぇ......。セイグリードでカエデを見つけた時。カエデは武器や防具は何も身につけていなかったから......」

「そっか......」


 ── そうだよね......。よく考えれば分かることだった。捕らえて殺そうとしてる相手に武器や防具を持たせておくわけないよね。ティターニア様に悪いことしちゃったなぁ......。


「なんかごめんね。辛いことを思い出せちゃって......」

「いえ、気にしないでください」


 そう言ってティターニア様は軽く首を横に振ると、後方に控えていた妖精さんに向かって手招きをした。


 ティターニア様が妖精さんの耳元で何かを囁くと、妖精さんはコクリっと頷いてどこかに飛んでいってしまった。


「さてと......。チカちゃん。さっき話してた靴をちょっと借りてもいいかしら?」

「ん? これのこと?」


 私はガルフェザーシューズをバックから取り出してティターニア様に差し出した。


「ふふっ、可愛らしくてとてもいい靴ね。これなら問題なさそうだわ」


 ティターニア様はガルフェザーシューズをさすりながらニコッと微笑んだ。


「「......?」」


 私とマロンちゃんが首を傾げていると先程の妖精さんが翠色の透き通った宝石を両手で抱えながらティターニア様のもとへ戻ってきた。


「翠緑の宝玉なのっ!!」


 突然、シィーが驚きの声をあげた。


「シィー、翠緑の宝玉って?」

「妖精の女王様が代変わりするときに、前任者の力を込めて作られる特別な宝玉なのっ!! 私もこんな間近でみるのは初めてなのっ!!」

「うわー。すごく貴重なものなんだね。でもどうしてそんな貴重な宝玉を私に見せてくれたの?」

「別に見せたかったわけじゃないわよ?」

「えっ? じゃあなんのために?」

「ふふっ、それはねぇ~......。えいっ♪」


 ティターニア様はニッコリ笑顔でウィンクをしながら、翠緑の宝玉を指で弾いた。


次の瞬間。ガラスが割れるような破壊音が鳴り響き、翠緑の宝玉は私達の目の前で粉々に砕け散った。


「「「えええええええ──ッ!?」」」

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