第129話 大迷宮に行く前に準備をしよう!①

 翌朝。靴の受け取りと漆黒の大迷宮に向かうための準備をするために、私はマリーメリィ商会にきていた。


「ご主人様ーっ!! ポーションはこれくらいあれば足りますか?」


 そう言って、スーパーにある買い物カゴみたいなバスケットを持って私に駆け寄ってくる犬耳の女性。


 彼女の名前はマロンさん。以前もうひとりのミーアにペットになるように脅迫されてた可愛そうな犬の獣人さんだ。


 もうひとりのミーアがよっぽど怖かったのか、事情を説明した今でも私のことをご主人様と呼んでくる。周りからの視線が痛いからホントやめてほしい。


「マロンさん......。何度も言ってるけどご主人様じゃなくて普通にチカで大丈夫だからね?」

「とんでもないっ!! そんな危ないことできませんよっ!!」

「えっ? 危ないって──」

「......あっ。 ち、違うんですっ!! 別にご主人様のことを危ないって言ってるわけじゃなくてですね!! えーと......。その......。そうっ! 恐れ多くてできないって意味で......」

「いや絶対違うよね!?」

「はうっ......。ごめんなさいご主人様。悪気はなかったんです。だから怒らないで......」


 カワイイ犬耳と尻尾をシュンっとたらして、そんなことを言いだすマロンさん。


 遠巻きで様子を伺っていたお客さん達から「うわぁ......」という囁きと冷ややかな視線が私に向けられる。


 ──ちょっと!! これじゃまるで私がいじめてるみたいじゃん!!


「こちらにいらっしゃいましたか」


 私が周囲の反応にあたふたしていると背後からジョンさんの声が聞こえてきた。


 ジョンさんの手にはブラウンのショートブーツ。両側面に一枚づつ付けられている二対の羽がオシャレでとてもカワイイ。


「靴が出来上がったのでお持ちしたのですが。......お取り込み中でしたか?」

「あっ!!」


 ──そうでした! すぐに周りの人達の誤解を解かないとっ!!


 私が慌てて周囲に視線を戻すと、すでに先ほどいたお客さん達は何処かにいなくなっていた。


「遅かったああああ──ッ!!」

「ど、どうされたんですか?」

「はぁ......。ううん。気にしないで......。それで? それが頼んでおいた靴?」

「え? え、えぇ。その通りです。どうぞご確認ください」


 うん。サイズもピッタリだし、羽毛でモコモコしてて履き心地もとてもいい! これなら靴擦れの心配もなさそうだ。


「いかがですか?」

「うん! すごくいい感じ!」

「さようでございますか。それはよかった」

「あっ、これいくらぐらい払えばいい?」

「いえ、お代は結構です」

「えええええっ!? どうしてっ!?」

「その件に関してはメリィお嬢様から伝言を預かっております。『大迷宮から助けてくれたお礼ニャっ!! 遠慮しないで受け取ってくれたら嬉しいのニャ!』とのことです」

「そんなの気にしないでいいのに......。あれ? そういえばメリィちゃんは?」

「お嬢様はギルドマスターに用事があるようで、朝早くからお出かけになられてます」

「そっかー。うーん......。同じ屋敷に住んでるんだから言ってくれたらいいのになぁ......」

「ふふっ。おそらくお恥ずかしかったのでしょう」


 ジョンさんはそういうと、目を細め、手を口元にあてながら小刻みに肩を揺らした。



 ◆◇◆◇


 さてと! 新しい靴も手に入ったことだし、早速加護で改変できるか試してみようかな?


 私は靴に触れながら『鑑定』を使った。



 ガルフェザーシューズ

 効果:

 作成者:ゼぺット



「ゼぺット......?」


 なんだか動きだす人形を作っちゃいそうな名前の人だな......。ちょっと会ってみたいかも。


 まぁー、異世界だし自由に動く人形があってもおかしくないけどね。......おっと。いけないいけない。今はそんなことより改変を試すほうが先か。


 私は改変で効果の空欄に剛腕と俊敏がつくように強く念じてみた。──しかし靴にはなんの変化も起きなかった。


「やっぱりダメかぁ......」


 そんな気はしてたんだよねー。だって剛腕や俊敏って言われても具体的な付与効果が全くイメージできないんだもん。


 んー、これはもう諦めて腕のいい付与術師さんを探すしかないかなー。......できれば大迷宮に向かう前に付与を付けておきたいところだけど......。


 私が改変を試しながら思考を巡らせていると、ジョンさんが何かを思い出したかのような雰囲気でポツリと呟いた


「そういえば......」

「ん? どうしたのジョンさん」

「いえ。確証はないのですが......。シィー様は付与魔法を使うことができるのでは?」

「えっ?」


 ──あれ? シィーって精霊魔法以外に魔法って使えるんだっけ?


「ねえねえ。どうなのシィー?」

「付与魔法なんて使えねえの!!」

「......って言ってるけど?」

「ふむ......。やはりただの作り話でしたか」

「作り話?」

「えぇ。マリーお嬢様が大事にしている勇者様の絵本に妖精が付与した空飛ぶ魔法の靴が出てくるので、もしかしたらと思ったのですが......」

「んー? 空飛ぶ靴......? 私もその話をどこかで聞いたことがあるような気がするの。あれはたしかー......。」


 どうやらシィーも知ってるくらい有名な話らしい。確かに絵本とかでよくあるよね。魔法でカボチャが馬車になったり、ネズミが馬になったり......。でも空飛ぶ靴かぁー。もし本当にあったら剛腕や俊敏の付与なんかよりよっぽど欲しかったなー。


 飛べるってだけで戦術の幅が格段に広がるっていうのもあるけど、正直、私もマリーちゃんみたいに空を飛び回ってみたかったなあー。


 ......ちょっと改変で私の職業の欄を変えられないか試してみようかな? 飛んでみたいし。



 私がそんなこと考えながら自分のステータス画面を開けようとした瞬間、シィーが両手をパンッと叩いた音が鳴り響いた。


「そうだっ!! 思い出したのっ!! ティターニア様が昔話してくれた勇者様の話に出てきたのっ!!」

「えっ!? じゃあ空飛ぶ靴って実在するってこと?」

「そうかもしれないのっ!! ティターニア様が勇者様の話で嘘をつくとは思えないの!」


 ティターニア様にとってカエデさんが特別な存在なのは間違いない。


 カエデさんの話を涙ながらに話してくれた時なんか、聞いてるこっちまで胸がキュッと締め付けられておもわず泣いてしまった。


 シィーの言う通り、ティターニア様がカエデさんのことで嘘をつくとは思えない。


「確かにそうかも......。ちょっとティターニア様に話しを聞きにいってみようか!」

「それがいいと思うの!」

「えっ?? 空飛ぶ靴? ティターニア様? あのっ!! どういうことですかご主人様!? わたし話についていけてないです!!」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。私について来てくれれば分かるから!」

「えっ!? 私も一緒に行くんですか!?」

「そうだよ?」

「はぅ......。分かりましたぁ......」


 というか大迷宮にも一緒についてきてもらうつもりなんだけど......。もしかしてアージェさんから何も聞いてないのかな? 


 いやそれは考えすぎか。アージェさんには大迷宮に行くから元黄昏のメンバーの中で一番の魔法の使い手を連れてきてほしいってお願いしたはずだしね! 


 私はジョンさんにお礼を言ってからマリーメリィ商会をでて、ティターニア様に会いに行くことにした。

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