第126話 マサキとS級冒険者達①

 時はチカが大迷宮にいく決心をした前日にまで遡る。


 マサキはSランク冒険者でエルフ族のセレンと妖精のウィル、そして同じくS級冒険者で神官のイザベラと共に、聖剣デュランダルを求めて漆黒の大迷宮にきていた。



「こんなところに隠し扉があるなんてね」


「だな! さすが勇者様! そこらにいる人間と違って頼りになるぜぇー!」


「ふふっ、さすがマサキですぅ」


「あはは。どうも……」


 マサキは照れくさそうに頭を掻くと、隠し扉の奥にある小部屋の方へ振り返り、誰にも聞こえないぐらい小さな声でポツリと呟いた。


「あー、行きたくねぇ……」



 ゲームでも一部の上位プレイヤーだけが利用していた最下層に続く隠し転送トラップ。


 正直、ここには苦い思い出しかない。


 ゲームで初めて最下層に挑戦したときなんか特に最悪だった。なんせ80階層のボスに瞬殺されて装備をロストしたあげく、一緒に遊んでたフレンドとも散々揉めて疎遠になってしまったからだ。


 その後も何度か挑戦したけど、結局踏破できなかったんだよなぁ……。


「どうしたのマサキ。もしかして緊張してるの?」


 俺が昔を思い出していると、妖精のウィル君を肩に乗せたセレンさんが、ポンッと俺の肩に手を添えた。


「あっ! いえ、大丈夫です! 少し昔を思い出していただけなので!」


「あぁー。そういえばマサキがいた世界に、この迷宮とそっくりな迷宮があったと話していたわね……」


「そっくりというかほとんど同じなんですよね。トラップが設置されてる場所や道筋まで全て。……まぁ、違いがあるとしたら道中にでてくる魔物ぐらいですかね?」


「偶然……というわけでは無さそうね。現に隠し部屋もこうしてあったわけだし。一体どういうことなのかしら……」


 セレンが腕を組みながら思考を巡らせていると、イザベラの能天気な声が背後から聞こえてきた。


「そんなに気にしなくてもいいんじゃないですかぁー? おかげで71階層まで楽に行けるんだからラッキーですぅ!」


「……それもそうね」

「考えすぎるのはセレンの悪い癖だぜぇー!」

「ウィルは考えてないだけでしょ? この間だってウィルのせいでひどい目にあったばかりじゃない」

「あ、あれは反省してるんだぜぇー!」

「はぁ……」


 セレンは呆れた顔で首を数回横に振ると、マサキの方へ視線を向けた。


 どうやら俺の指示を待ってくれてるようだ。


 俺はイザベラさんがこちらを見ているのを確認してから、今後の方針について話し始めた。


「じゃあとりあえず80階層を目指して行きましょうか! 魔物の強さを慎重に見定めながら進んで、もし難しそうなら無理せず撤退するようにしましょう!」


「えぇ。私もそれがいいと思うわ」


「ワクワクするぜぇーっ!!」


「出発ですぅーっ!!」




 転移トラップを起動させて71階層に行くと、薄暗い洞窟を至る所から発せられている神秘的な青い光が照らしていた。


「うおおおおおおっ!! すげぇ綺麗だぜぇーっ!!」


 周囲を見渡しながら興奮した様子でウィルが歓喜の声があげた。


 ウィルの声が洞窟内に木霊する。


「ウィルのバカっ! そんな大きな声をだしたら──」


『ブモオオオオオオ──ッ!!』


「わわっ!? ウシさんが向こうからたくさんきましたよぉーッ!!」


「セレンさん。どうやらもう手遅れみたいです」

「あはは……。やっちまったぜぇ!」


 ウィルは悪びれる様子もなくそう言うと、セレンの肩に飛び乗り、補助魔法を次々とマサキ達にかけていく。


「ウィルっ!! 後で覚えときなさいよ!」


 マサキ達はウィルをジト目で見つめた後、砂埃を巻きあげながら迫ってくるミノタウロスの大群に向かってそれぞれ武器を構えた。



 ◆◇◆◇



 なんとかミノタウロスの大群を倒したマサキ達は、慎重に周囲を警戒しながら大迷宮の奥へと進んでいた。


 道中何度も魔物と遭遇したが、特に苦労することもなく、治癒魔法を使うイザベラ以外は魔力を温存したまま80階層まで進むことができた。


 そんな中、マサキは肩を抑えながら軽く首を傾げた。


 なんだろう。今日はやけに身体が重い気がする。セレンさんの言う通り緊張しているのだろうか……。


「マサキどうかしたんですかぁ〜?」


「いや。なんだか普段より身体が重いような気がしてさ。もしかしたら無意識に緊張してるのかな?」


「最下層ですからねぇ。緊張するのも無理ないですよぉ〜。私もさっきから緊張しっぱなしですぅ」


「まったく。ふたりともしっかりしてよ。ほら、扉が見えてきたわよ」


 セレンさんが指差した方向を見てみると、真っ黒で大きな扉が、薄暗い洞窟の中で青い光に照らされて不気味な雰囲気を醸し出していた。

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