第125話 挑戦を決意しました
「ま、まさか元に戻してないの......?」
「............うん。すっかり忘れてた......」
私の反応を見て、シィーの顔色がみるみるうちに青ざめていく。
──シィーのこの反応。......普通じゃない。まさか天職がかわったら習得してる魔法って使えなくなるの......?
シィーは目を瞑り、ゆっくり深呼吸してから真剣な表情で私に視線を戻した。
「職業が変わっても習得した魔法が使えるのか、すぐに確認したほうがいいの」
「う、うん。 わかった!」
「ぷはぁーッ! おっ? 妖精様との話しは終わったのか嬢ちゃん」
顔を赤らめ満足そうな表情で、お酒の入ったコップをテーブルに置きながら、平然とそんなことを言いだすマークさん
「うぇっ!? なんで!?」
──シィーのやつ精霊魔法を解いてるの!? こんな人がたくさんいる場所で!?
私が慌ててシィーに視線を戻すと、シィーは瞳をパチパチさせながらマークさんを見つめていた。
──あれ? シィーまで驚いてる。どうやら精霊魔法を解いてるわけじゃなさそうだ。......じゃあどうして妖精のことが分かったんだろう?
私の様子を見ていたマークさんは、「はぁ......」と呆れたように溜息をついた。
「あのなぁ。そんだけ独り言をブツブツ言ってりゃ、嬢ちゃんを知ってるやつなら誰だって気づくと思うぜ?」
「なんで!? 今までバレれたことなんて──」
あー、いや。あるな。そういえばハート様にはバレてたんだっけ。
「いや、今までどうだったかまでは知らねえけどよ。今はコレがあるからなあ......」
マークさんはそう言うと、新品のカレンダーのようにクルクルと丸められた筒状の紙をポケットから取り出した。
「でたな!! ニャンコ通信めっ!!」
「うおっ!? な、なんだ。もう知ってたのかよ」
もう話の流れ的に絶対でてくると思ったよ!! というか。私の情報載せすぎじゃない!? 一体どこまで調べられてるんだろ。凄く嫌な予感がするんだけど......。
うん。これは今までのニャンコ通信を全てチェックする必要がありそうだね。
......って。今はそんなことしてる場合じゃない!! 天職と魔法の関係についてすぐに検証しないとっ!!
──キャットフードでマークさんと別れた私は、大急ぎでマリーちゃんとメリィちゃんの屋敷まで戻ってきた。
だって基本的な魔法しか覚えてないニートの私じゃ検証なんてできないからね! 魔法が使えるマリーちゃんで、こっそり試すのが正直一番手取り早い。
こっそりという点がポイントだ。
ちなみにシィーに聞いたら遊者なんて天職はこの世界にはないみたい。なので最悪の場合、何もできない遊び人が大迷宮に挑戦しに行ったことになる。
......うん。きっと大丈夫だ。
だって転職しても前の職業のスキルや魔法が使えるのはゲームでは定番の設定だもん。
だからきっと大丈夫。大丈夫......。
◆◇◆◇
『ん? ......風魔法がつかえない? けど身体が軽い? チカ、今なにしたの?』
「............」
うん。どうやら現実はゲームのようにはいかないらしい。というか。さらに最悪な状況かも......。
ちなみにマリーちゃんの天職は『魔道士』から適当に『魔剣使い』に変えている。
けどマリーちゃん。いま『身体が軽い』って言ったんだよね。適当に変えたのに。ということは......。
私はマリーちゃんに聞こえないように小声でシィーに話しかけた。
「シィー。魔剣使いって天職は。その~......」
「あるの」
「あっ。はい......」
どうやら身体的な能力まで職業によって変化するらしい......。
ああああああ──ッ!! もうっ!! 私の馬鹿ああああああっ!! ただの遊び人を大迷宮に送りだしちゃってるじゃんっ!!
「チカ? なにかあったの?」
「ひゃいっ!? い、いやなんでもないよ!? 大丈夫!!」
あっ、忘れないうちにマリーちゃんの天職を『魔道士』に戻しておこっと。
「本当に?」
「う、うん! あっ!! そ、そんなことよりマリーちゃんは自分の部屋に篭って何してたの? 猫耳パーカーを作ってるわけじゃなさそうだよね?」
「ん......。実はこれ作ってた」
マリーちゃんは顔を赤らめて、照れくさそうにモジモジしながら猫耳パーカーのポケットに手を入れた。
「それは......。マフラー?」
「ん......」
赤と白の毛糸で丁寧に編み込まれた毛糸のマフラー。端の方に小さくハートマークと猫のワンポイントを編み込んでいるのがマリーちゃんらしくて可愛らしい。
「明日マサキさんが帰ってきたら渡そうと思って頑張ってた。いまラストスパート」
「そ、そうだったんだ......」
「ん。マサキさん喜んでくれるかな?」
「き、きっと喜ぶよ!! 喜ばないわけないよっ!!」
「ん......。楽しみ......」
そう言うと、マリーちゃんは目を伏せめがちにして、恥ずかしそうに微笑んだ。
私がおもわず顔を引きつらせていると、シィーの方から刺すような視線を感じた。
──分かってるよ。......行くよ! もちろん行きますともっ!! だからそんな蔑むような目で私を見ないでよ!!
私の2度目の大迷宮への挑戦が今始まった。
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