第123話 自分探しの旅?①
あれから数時間経って、無事話し合いも終わり、私はメリィちゃん達とギルドを後にした。
話し合いの結果、結局ニャンコ通信は発行を続けることになった。メイドさんや執事さんの生活のことを考えると安定した収入は正直魅力的だったしね。
まあ、散々悩んだ末の苦渋の決断だったけど......。
あっ、もちろん私のプレイベートや恥ずかしいエピソードはNGにしてもらった。監視役をギルドに派遣することも了承してもらえたし、とりあえずこれで一安心かな? あとは監視役を誰に任せるか決めるぐらいだしね!
「そういえばチカはこれからどうするのニャ? もう王都に帰るのかニャ?」
ジョンさんと並んで前を歩いていたメリィちゃんが思い出したように私の方へ振り返った。
「あっ、ううん。元々は靴の新調についてメリィちゃんに相談したくてニッケルに来たんだよね。王都では好みに合うものが見つからなくてさ」
「なるほどニャ。じゃあ会えてちょうどよかったのニャ! あっ、でもどんな靴がほしいのニャ?」
「えーとね......。できれば軽くて丈夫で派手すぎないものがいいかなー」
「ふむ......。付与はどんな効果のものがいいのニャ?」
「付与?」
ゲームでよくある属性や能力上昇効果の付与みたいな感じかな? ゲームではNPCにアイテムとお金を払えばやってもらえたけど、こっちの世界だとどうなんだろ?
「付与術師が装備につけることができる能力上昇効果のことでございます。ただ素材によって付与できる数も変わってきますし、効果や上昇率は付与術師によって異なるので、なるべく良い素材で作った靴に目的に合った付与魔法を使える腕の良い付与術師に依頼するのが一般的ですな」
「へえー。なんだかすごく高そうだね......」
「そうですね。靴の素材もそうですが、付与術師への依頼料の相場も特に決まっていないので値段は高くなります」
「んー......」
「その中でも冒険者に人気がある剛腕や俊敏の付与は特に高いですね」
「その剛腕や俊敏の付与って、力持ちになったり、素早くなったりするってことでいいのかな?」
「えぇ。その通りです」
んー、改変で剛腕や俊敏を付け足せたら一番いいんだけどなぁ。けど、もしできなかった時に、素材と付与の依頼料を考えるとバックに入ってるお金で足りるかなぁー......。あれ? そういえば私今いくら持ってるんだろ?
私はお金を確認しようとバックを開けた。
あー、そっか。革袋に入ってるから取り出さないと金額までは分からないのか。
──あれ? これって......。
「ねえジョンさん。ガルーダの素材って靴に使えるかな?」
「えぇ。もちろんです。靴や防寒着の素材としては最適かと」
「おーっ!」
「よろしければ職人のほうは私が手配しておきましょうか? 靴でしたら注文が重なっていなければ、明日の朝にはできるかもしれません」
「本当に!? じゃあお願いしてもいいかな?」
「えぇ。もちろんですとも」
そう言うと、ジョンさんは私に向かって優しく微笑んだ。
◆◇◆◇
ふたりともマリーメリィ商会に戻るというので、私も暇だしついて行くことにした。
「あっ! 修繕作業終わったんだ。あれ? 少し大きくなった?」
「ふふふっ! よく気づいたのニャ! せっかくだから少しだけ広くしたのニャ!」
マリーちゃん達の後に続いて中に入ってみると、お店の中はたくさんのお客さんで賑わっていた。
内装も綺麗になって、店内の装飾や商品棚の配置まで変わっている。
メリィちゃんとジョンさんは奥の部屋で仕事があるみたいなので、ジョンさんにガルーダの素材を渡して、ふたりを見送った後、私はお店の中を適当に見て回ることにした。
ゆっくり店内を見ていて気づいたけど、品揃えが以前より全体的に良くなっていた。
王都の雑貨屋で見かけた商品が並んでるところを見ると、王都にいる間に人脈を広げたのかもしれない。さすがメリィちゃんだ。
「おおっ!? そこの猫耳パーカーをきた人っ! ちょっといいですかぁ〜?」
「ん?」
私が商品を見て回っていると、突然聞き覚えのある声が後ろから聞こえたので振り返ってみた。
ギルドであった猫耳パーカーを着た青い髪の女の子だ。
女の子は私と目が合うと嬉しそうにニコニコしながら、私に向かって手を振った。
「やっぱりお姉さんだったんですね! いやぁー、こんなところでまた会うなんて奇遇ですねっ!」
「ホントだね。あっ、ギルドでは色々教えてくれてありがとね?」
「えへへっ! そんなの気にしないでいいですよぉ〜!」
「そういえば依頼に行くって言ってたけど、もう依頼のほうは終わったの?」
「もちろんですよ! あっ! そういえば聞きましたかっ!? 本物の黒猫さんがギルドにきたらしいんですよぉ〜!!」
「へ、へぇー。そうなんだ......」
「くぅ〜っ! ホント最悪ですよぉ! せっかくサインをもらえるチャンスだったのにっ!!」
「サイン......。あはは......。貰えなくて残念だったね......」
「うぅー......。きっとまだ近くにいるはずだ! っと思ってさっきからずーっと探してるんですけどねぇ。いくら探してもなかなか見つからないんですよぉ〜......」
「あはは......」
──ごめんなさい。目の前にいます。
「そうだっ!! お姉さんも一緒に黒猫さんを探しましょう!!」
「えええええっ!?」
「なに驚いてるんですかっ!? ファンとしてはこんなチャンスを逃すわけにはいかないでしょ!?」
「いやぁ......。私は別に──」
「お姉さんっ!! 今は恥ずかしがってる場合じゃないんですよ? ほらほらっ! そうと決まれば早く行きますよぉ〜っ!!」
猫耳パーカーを着た青い髪の女の子は上機嫌でそう言うと、入り口の方向を指差しながら、私の手をギュッと握りしめた。
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