第122話 ギルドでの話し合い


 メリィちゃん達の用件もニャンコ通信についてだったので、ふたりも交えて改めて話し合うことになった。


 私は今までの経緯とメアリーさんからの提案内容をメリィちゃん達に説明した。


 私の話を聞き終わると、メリィちゃんは一瞬皮袋を見つめた後、真剣な表情でジョンさんの方へ顔を向けた。


「急いできて正解だったみたいなのニャ」

「えぇ。どうやらそのようですね」


 ふたりの話を聞いて、メアリーさんは貼り付けたような笑顔を浮かべながら首を傾げた。


「今のはどういう意味なのかご説明いただいてもよろしいですか?」


 見つめ合うメリィちゃんとメアリーさん。ふたりの間の空気がピリピリと張り詰めていく。


「そうだニャー。その前に一つ聞きたいんだけど、どうしてチカの取り分が金貨50枚ぽっちなのニャ?」

「まだニャンコ通信の販売を初めて日が浅いですからね。けど、これからもっと金額は増えていくと思いますよ?」


 メアリーさんが得意げな顔でそう言うと、メリィちゃんはジト目でメアリーさんを見つめた。


「ふ~ん。勝手にチカを利用するだけ利用しておいて、チカの取り分はニャンコ通信の売り上げのたった10%だけと。......そういうことでいいのかニャ?」

「えっ......? な、何を根拠にそんなことを」


 瞳を大きく見開いて慌てるメアリーさんをよそに、メリィちゃんはジョンさんへ視線を送った。


 視線を受けてジョンさんは軽く頷くと、懐から書類の束を取りだしてメリィちゃんに差し出した。


「これがなにか分かるかニャ?」

「それは......?」

「ふーん。まあ、見れば分かるのニャ」


 メリィちゃんはジョンさんから書類の束を受け取ると、書類を広げてテーブルの上に次々と並べていく。


 私もなにが書いてあるのか凄く気になったので、広げられた書類を覗いてみた。


 ──これニャンコ通信の販売記録だ。それも王都のギルドとニッケルのギルドとそれぞれ日付ごとに数枚に分けて書かれてる。あれ? 一枚だけ文字だけのやつがある。えーと......。街への貢献とガルーダ討伐の功績......褒賞を考えて......。あっ、これ領主様が書いた私へのお礼状だ。


「どうしてこんなものがここにっ!?」


 私がお礼状に書かれた内容を読んでいると、突然メアリーさんが勢いよく立ち上がった。


「......あまりうちを舐めない方がいいニャ。ギルドにチカの動向を調べるニャンコ職員がいるように、チカには暁の子猫達がいるのニャっ!!」

「あ、暁の子猫達......。そんな人達を雇っているなんて初耳です」


 ──うん。私も初耳。なに暁の子猫達って。メリィちゃんいつの間にそんな人達を雇ったんだろう......。


「他にも冒険者増加に伴いギルドの利益がここ最近で跳ね上がってることも、領主様からの褒賞の話をギルドの株をあげるために勝手に断ったことも、全部調査済みなのニャっ!!」


 メリィちゃんは、青ざめた顔でうつむいているメアリーさんを険しい顔で見つめながら話を続けた。


「なにより私が許せないのはチカを勝手に利用してギルドの評価をあげようとしていることニャ!!」

「うっ......! それは......」

「挙げ句の果てには、チカを利用するだけ利用しておいて、この程度の端金で済まそうなんて......。一体どういうつもりニャっ!!」


 メリィちゃんの怒声が部屋の中に響き渡り、しばしの間気まずい沈黙が流れた。



「──それとも新しいギルドマスターは街を救ってもらった恩を仇で返すつもりなのかニャ? 前ギルドマスターと同じように......」

「いえっ! 私そんなつもりじゃ......」


 メアリーさんの絞り出すように発した否定の言葉を受けて、メリィちゃんは大きな溜息をついた後、メアリーさんに視線を戻した。


「......突然の就任で大変なのも分かるけど、もう少し考えて行動したほうがいいのニャ」

「............ ごめんなさい。いきなりギルドマスターを任されて......。本当に大変で。だけどギルドのみんなのためにも成果をあげなきゃって......。でも本当にチカさんを利用してやろうなんて思ってなくて......。わたし、わたし......。うぅっ。本当にごめんなさぃ......」


 震えた声でそう言うと、ポロポロと涙を流しながら頭を下げるメアリーさん。取り乱しているせいか、うまく言葉がでてこないみたい。


「チカ。こう言ってるけど、どうするニャ?」

「んー......」


 はじめは腹が立ったけど、周りが見えなくなるほどメアリーさんは追い詰められていたのかもしれない。......って、よく考えたら当たり前か。私から見てもニッケルのギルドは問題が山積みだったもんなぁー。


 まあ、もう仕方ないか! メアリーさんをこれ以上責める気にもなれないしね。これからどうするかを考えよう!


「メアリーさん。もういいから頭を上げて?」

「うええええええんっ!! チカさんごめんなさいぃーッ!!」

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