第121話 メアリーさんの提案

「チカさん。ニャンコ通信をやめさせようとか考えてますね? でもそうはいきませんよ!!」


 メアリーさんは机の引き出しから大きめの皮袋を取りだしながらそう言うと、机の僅かに空いたスペースに次々と並べていった。


 並べた皮袋は全部で5つ。


 メアリーさんは得意げな顔で机に並べた皮袋に手のひらを向けた。


「さぁ! これでどうですか!!」

「いや、どうですかって言われても......」


 というか。さっきからメアリーさんのテンションがおかしいんだよなぁ。眠気を通り越してハイになってるってやつなのかな? 


 でもそれにしたって変わりすぎじゃない? 落ち着いた感じのメアリーさんを知ってるから、今のメアリーさんはなんだか壊れかけてるみたいで凄く怖いんだけど......。


「まずは中身を確認してみてください! 話はそれからです!」

「う、うん」


 チカはメアリーの勢いに若干引き気味ではあったが、言われたとおり机の上に置かれた皮袋を手に取った。


 ずっしりとした重みのある皮袋。


 私は皮袋を縛っている紐をほどいて中を覗いてみた。


 皮袋の中には銀貨と銅貨が隙間もないほどパンパンに詰まっていた。


「ふふふっ! 驚いているようですね!」

「このお金は?」

「そんなの決まってるじゃないですか! いままでのチカさんの取り分ですよ」

「えっ!? これ全部!?」

「もちろんです! それにニャンコ通信を続けさせてくれるなら、これからも販売した売り上げの一部をチカさんにお支払いしましょう!」

「こんなにたくさん......。一体いくらぐらいあるんだろう......」

「んー。そうですね......。金貨50枚以上にはなると思いますよ?」

「金貨50枚以上!? そんなに売れてるの!?」

「そうなんです! ニッケルだけじゃなく王都でも販売してますからね! おかげでチカさんが冒険者登録したうちのギルドにも人が殺到! 冒険者減少の問題も解決したうえに、街も賑わって領主様も大喜びですよ! ただ......」


 メアリーさんは周囲を見渡すと、ガクッと肩を落とした。


「......まあ、増えすぎてご覧の通り。今度は書類仕事に追われる毎日なんですけどね......」

「自業自得じゃん!! 心配して損したよ!!」

「あははは......。まあ、その話は置いといて。どうですか? ニャンコ通信の件少し考えてはくれませんか?」

「んー......。でも私生活まで公開されるのはやっぱり恥ずかしいから嫌だよ。あっ。あとギルドの入り口にある絵も恥ずかしいから外してほしいんだけど」

「......ではこうしませんか? 私生活はチカさんが許可をしたものしか極力公開しません。それでもう一度考えて見てください。あとは絵についてですが.....。あれはチカさんにとってもあのままのがいいと思いますよ?」

「えっ? どうして?」

「よく考えてみて下さい。チカさんを知らない人は、あの絵を見てどう思いますか?」

「──あっ!」


 そういうことか。あの写真みたいな絵を見たら誰だってあの絵に描かれているのが私だと思うもんね。まあ、私を知ってる人からすれば失笑ものだろうけど......。


 メアリーさんは言葉を続ける。


「......それに屋敷で働いてくれてる人達にお給金を払っていくためにも、お金は必要なんじゃないですか?」

「うっ......!」

「うちのニャンコ職員が調べたところによると今年お子さんが生まれる方もいるらしいですよー? 知ってましたか?」

「えっ!! それ本当!?」

「間違いありません。......働いてる方々の幸せな生活はチカさんの双肩にかかっているってところですかね」

「うぅ......!」


 たしかにメアリーさんの言う通りだ。いままでと違って私ひとりの問題じゃない。私の稼ぎにみんなの生活がかかってるんだ。うー、それも最近さらに人が増えてるしなぁ。


 なんだかまた胃が痛くなってきた......。



 私の様子を見てメアリーさんは勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら立ち上がると、バンッ!!と両手をテーブルについて、前のめりになりながら私を見つめた。


「さぁっ!! どうされますかチカさん?」

「んーっ! うぅーっ!」


 お金。お金かぁ......。でもニャンコ通信は恥ずかしすぎるし......。うぅー、けどみんなの生活が......。


 チカが唸り声を上げながら腕を組んで思考を巡らせていると、扉の外から甲高い声が聞こえてきた。


「ちょっと待ってください!! 勝手にそんな──。困ります!!」

「うるさいのニャ!! 私は新しいギルドマスターに用があるのニャ!」


 ──あれ? この声は......。メリィちゃん? 


 私が扉の方へ振り返るのと同時に、勢い良く扉を開けて、メリィちゃんとジョンさんが部屋の中に入ってきた。


「ちょっと失礼するのニャ!! ......ってあれ? チカもきてたのニャ?」

「おはようございます。チカ様。こんなところでお会いするとは奇遇ですね」

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