第120話 新ギルドマスター
「大変失礼しましたーっ!!」
そう言って深々と頭を下げる受付の女性。彼女の後方には見覚えのある受付の女性も控えている。
あの人は確かー......。そうだ。東の草原にいるグレイスリザードの討伐依頼を受けたときに、報告カウンターで私の担当をしてくれた人だ。
「チカ様。お久しぶりです。この度はハンナが大変失礼致しました」
「久しぶり! グレイスリザードのとき以来だね」
「はい。覚えていてくれたんですね」
受付の女性はニコッと微笑むと、片手を胸にあてた。
「私のことはリリとお呼びください。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね! それでニャンコ通信の件なんだけどさ」
「はい。ハンナから話は聞いております。ニャンコ通信の発行をやめてほしいということですよね?」
「そうっ!! まだ内容まで詳しく知ってるわけじゃないけど、私の私生活まで書いてあるんだよね?」
「そうですね......」
「そんなの困るよっ!! なんでこんなものを作ってるの!?」
「申し訳ありません。その件に関しては私ではなく、ギルドマスターから直接ご説明致します。......ここでは周りの目もありますので、どうぞこちらへ」
「周りの目?」
リリさんは周囲の様子を伺うように瞳を左右に動かしてから、私に視線を戻しニコッと微笑むと、カウンターの奥にある扉の方角へ手のひらを向けた。
──そういえば。さっきまであんなに騒がしかったのに、やけに静かになったような......?
私は恐る恐る後ろを振り返った。
先程までの賑わいがまるで嘘だったかのようにシーンと静まり返る室内。そして私をジーッと見つめるたくさんの冒険者達。
──この視線には覚えがある。......そうだ。アージェさんだ。アージェさんが私に向ける視線とそっくりなんだ。
私が周囲の異様な雰囲気に唖然としていると、リリさんが私の耳元でそっとささやいた。
「チカ様。大騒ぎになる前に早くこちらへ」
「う、うん」
◆◇◆◇
広間をでて見慣れた廊下を進んでいくと、ギルドマスターの部屋が見えてきた。
扉の前につくと、リリさんが扉を軽く数回ノックした。
「はーい!」
「ギルドマスター。リリです。チカ様をお連れしました」
「入ってきてもらって」
扉を開けて中に入ると、部屋の中は大変なことになっていた。
机の上に乱雑に積み上げられた書類の山。乗り切らなかったのか部屋の至る所に書類が散乱している。
椅子に座るメアリーさんの目には相変わらず大きなクマがいる。顔色もあまり良くない。
「チカさんお久しぶりです......。王都から帰ってきてたんですね......」
「ひ、久しぶり。元気して......るわけないよね」
メアリーさんはジト目で私を見つめた。
「どうしてなにも言わずに王都に行っちゃったんですか......? ぐすっ。助けてくれるって言ってたじゃないですかぁ......」
「いや。それは確かに言ったけどさ......。あっ! そんなことよりニャンコ──」
「そんなこと!? いまそんなことって言いましたかっ!? チカさんのせいで本当に大変だったんですからねっ!!」
「なんで私のせいなの!?」
「なんでって......。チカさんを怖がって中堅の冒険者がみーんなニッケルの街からいなくなっちゃったからですよっ!! ......うぅ。ただでさえ、前ギルドマスターのせいで冒険者が減っていたのに......」
あぁー。私に絡んできたあの冒険者達のことか。確かにあれから一度も見てないかも。けどそんなこと私に言われても困る。メリィちゃんと私に絡んできたのは向こうの方だしねっ! 責めるなら余計なことを吹き込んだあのDQNおじに言ってほしい。
──あれ? でも......。
「ねえねえ。でも冒険者増えてなかった?」
「えぇ。おかげ様で」
「ん? おかげ様で......? あぁっ!! もしかしてっ!?」
「えぇっ、そうですともっ!! 勝手にチカさんをギルドの宣伝に使わせていただきましたともっ!! だって仕方ないじゃないですかっ!? 依頼が回らなくなっちゃって、どうしようもなかったんですからっ!! 私に悔いはありません!! 覚悟はもうできていますっ!!」
ハイなテンションでそんなことを言いだすメアリーさん。あまり寝てないのか目が血走ってて少し怖い。
まぁ、私の責任もあるっちゃあるけど。んー。いや、でもなぁ。自分の行動を大勢の人に見られるなんて、もう罰ゲームを通り越しててイジメだよ。やっぱりなんとかやめさせないと......。
私が考えを巡らせていると、メアリーさんがギラリとした目つきで私を見つめながら、机の引き出しに向かって手を伸ばした。
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