第119話 こんな話聞いてないよ!?
行き交う人混みをすり抜けながら走ること数分。私の視線の先に冒険者ギルドが見えてきた。
ギルドの外に辿り着くと、ガヤガヤと冒険者達の騒がしい話声が聞こえてくる
私がいない間に随分と賑やかになっているみたい。けど、今はそんなことより......。
私は視線を上に向けた。
「なんじゃこりゃああああ──っ!?」
見慣れたギルドの看板。問題はその横だ。まるで白黒写真のようにリアルな絵。
そこには上空に羽ばたく2体のガルーダと対峙するように武器を構えた女性の横顔が描かれている。
凛とした佇まいに、キリッとした顔つき。
ガルーダを見上げるその横顔は、まるで映画のワンシーンみたいにカッコいい。
これどうみても私だよね......。それも実物よりずいぶん美化して描いてくれてるせいで、余計に恥ずかしい。っていうか何このモデルみたいな体型......。
「ぷっぷぷ......! あははははっ!!」
「シィー!! 笑いすぎだよっ!!」
「だってっ!! ふひひっ......! こんなの見せられて笑わない方がどうかしてるのっ!!」
「うぅ......!」
た、確かに。私も立場が逆ならきっと大爆笑してるだろうなぁ......。
「と、とにかくこれはダメだ! すぐにでもこの絵を外させないとっ!!」
私は空中でお腹を抱えて笑い転げているシィーをよそに、ギルドの入り口の扉を勢いよく開いた。
◆◇◆◇
ギルドの中はたくさんの冒険者達で溢れかえっていた。以前来た時の倍以上いるかもしれない。ギルドの職員さんも見覚えのない人が増えてる気がする。
さてと。メアリーさんはどこかな?
私が周囲を見渡していると、不意に背後から肩をポンポンと叩かれた。
振り返ると黒色の猫耳パーカーを着た青い髪の女の子が瞳をキラキラと輝かせながら私を見つめていた。
一瞬、髪の色が同じだからマリーちゃんかと思ったけど、よく見たら全然知らない人だ。
「あ、あ、あのっ!! あなたも黒猫さんに憧れて冒険者になったんですか!? じ、実は私もなんですっ!!」
「えっ......?」
「いやーっ!! それにしてもそっくりですね! ハッ! まさか本人!?」
「いや。えーと......」
「あはは!! なんちゃって。冗談ですよぉ〜! 情報によると黒猫さんはまだ王都にいるらしいですからねぇ〜! あっ、そういえば知ってますか? 昨日は王都で一番高い限定のケーキを、なんとっ! 20個もまとめて買っていかれたらしいですよぉ? いやぁー、さすが黒猫さんですよねぇ〜。私もポンッとそれぐらい買える冒険者に早くなりたいものですよぉ〜」
「............」
──な、なぜそれを知っている!?
えっ? えっ?? どうゆう事!? なんで王都での私の行動をこの子が知ってるの!? そもそも誰にもそのこと話してないんだけど!?
「そ、それ誰から聞いたの!?」
「えっ? いやだなぁ〜! 今朝のニャンコ通信で見たに決まってるじゃないですかぁ〜!」
「ニャンコ通信!?」
私の肩に座っているシィーが「ぶふっ!」っと小さく声を漏らした。
「あれ? 知らないんですかぁ〜? あっ! さてはこの街に来たばかりですね? ほら、あそこで売ってますよ?」
女の子が指差した方向を見てみると、ネコが横向きで歩いてるような黒いシルエットがついたカウンターがあることに気がついた。
「毎朝発行されるので黒猫さんのファンなら是非買って読むことをオススメしますよぉ〜!」
「へぇー......。教えてくれてありがと......」
「いえいえっ! じゃあそろそろ私は依頼の集合時間なので行きますねぇ? 今度ゆっくり黒猫さんについて語り合いましょう!」
そう言うと、猫耳パーカーを着た女の子は元気に手を振りながらギルドの外へ走って行った。
──さてと。メアリーのやつはどこいったのかな......?
◆◇◆◇
周辺を見渡してみたけどメアリーさんを見つけることはできなかったので、さっき女の子が教えてくれたニャンコ通信が売ってるというカウンターへ向かうことにした。
私がカウンターの前まで行くと、受付の女性が私をみてニコッと微笑みながら声をかけてきた。
「ようこそニャンコカウンターへ。ニャンコ通信をご所望ですか?」
「メアリーさんはどこ......?」
「え? ギルドマスターですか? この時間だとおそらく自室にいらっしゃるかと思いますが......」
なるほどね。通りでいくら探しても見つからないわけだ。
「大事な話があるからメアリーさんを呼んできてもらえないかな?」
「はい? あの、大変失礼ですが。一介の冒険者ではギルドマスターを呼びだすことなんてできませんよ?」
「いいからすぐメアリーさんを呼んできて? ニャンコ通信と外の絵の件で話があるから......」
「もうっ! 分からない人ですね! ニャンコ通信のことなら私の担当なのでここで話して下さい!」
「じゃあすぐにこのニャンコ通信をやめてよ。私こんな話聞いてないし、許した覚えもないから」
「そんなことできるわけないじゃないですかっ!! だいたいどうしてあなたに許可を取る必要があるんですか?」
「だって私のことが書かれてるじゃん」
「あなたのこと? あー。そういうことですか......」
受付の女性は呆れた顔で大きな溜息をついた。
「最近多いんですよねー。あなたのように冷やかしにくる方が。......黒猫さんの真似事なら他所でやってもらえますか? 確かに貴女は似ているほうですけど。顔つきもスタイルも全然違うじゃないですか! 私を馬鹿にするのもいい加減にして下さい!」
「いやあれは美化されてるだけだからね!?」
あーっ、もうっ!! これじゃ全然話が進まないよ! ......そうだ。もういっそのこと受付の人は無視して直接部屋に向かっちゃおうかな? ギルドマスターの部屋なら何度か行ったことあるから分かるし。
「はぁ......。そこまで言うのでしたらギルドカードを拝見してもよろしいですか? ただし、ギルドカードを見せたらもうイタズラじゃ済まなくなりますよ? それなりの処罰は覚悟してくださいね?」
そうだよ! ギルドカードがあったじゃん!! 頭に血が上っててすっかり忘れてた。
「ちょっと待ってね。......はい。これでいい?」
私はバックの中から取りだしたギルドカードをカウンターの上に置いた。その様子を怪訝そうな顔つきで見つめる受付の女性。
「ほんとーにいいんですね? もう後戻りは出来ませんよ?」
「もう! いいから早くしてよ!」
「はぁ。......かしこまりました。確認するので少々お待ち下さい」
そう言うと、受付の女性はカウンターの奥へと歩いていった。
──数分後。
「ええええええええええっ──!?」
受付の女性の大きな叫び声がギルド中に響き渡った。
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