第108話 三つ子ちゃん

 ハート様との友好も深められたし、用意したお礼の品も喜んでくれてたし、今回の謁見は大成功に終わった。失敗があったとしたらマサキさんを不安にさせちゃったぐらい? 


 まー、勇者関連のいざこざは人生の先輩にすべてお任せすることにしよう。


 マサキ先輩! 頑張って!



 私とシィーはハート様とマサキさんに別れの挨拶をしてから謁見の間を後にした。


 マサキさんがゲーム機を羨ましそうに見てたから、後でうちにくるかもしれないなぁー。まあいっか! きたらマリーちゃんも喜ぶだろうし。


 引越し作業の経過も気になるので、私はシィーを肩にのせて屋敷に帰ることにした。肩の荷も下りて足取りも軽やかだ。


 多くの人が行き交う街路を歩いていると、突然シィーの吹きだすような声が聞こえてきた。


「ん? シィー、どうしたの?」


 私が呼びかけても、一向にシィーから反応が返ってくる気配がない。


 気になってシィーの方へ顔を向けると、シィーが両手で口元を押さえながら、クスクスと肩を揺らしている。


 疑問に感じながらシィーをよく見てみると、シィーの視線が左前方を見ていることに気がついた。


 急にどうしたんだろ? あっちになにかあるの?


 私もシィーが見てる方向に視線を向けてみる。


 ──あれは......。子供......? 


「ぷっ、あははは! もう我慢できないの!」

「ねえねえ。1人で笑ってないで、私にも何が見えるのか教えてよ」

「んー......。説明が難しいの! 自分の目で確かめたほうが早いと思うの!」

「説明が難しい......? ホントに? 邪魔されたくないだけじゃなくて?」

「もうっ! これからいいところなんだから、邪魔しないでほしいの!!」

「やっぱりそうじゃん!! ねえ、一体なにが見えるの?」

「............」

「シィー......?」


 えっ......? 私シィーに無視されてる!? 


 前から幼いところあるなぁーとは思ってたけど......。まさかの反抗期? ──これは慎重に見定めていく必要がありそうだ。


 それにしてもあんな離れてるのに、シィーはよく見えるなぁー。これ100m以上離れてるよね? んー......。よし、とりあえず見に行ってみようかな。シィーは教えてくれなそうだもんね。


 目を凝らしながらシィーが見てる方向へ歩いていくと、距離が近づくにつれて子供達の楽しそうな声が聞こえてきた。


 小学生ぐらいの女の子達だ。3人とも背丈が同じぐらいで顔もそっくりだ。三つ子ちゃんかな?


 それにあれは猫耳パーカーじゃないか。マリーちゃんもう売り出してるんだ。



 私が女の子達のそばまでいくと、突然、猫耳パーカーを着た女の子が地面を蹴ってジャンプした。


「ちょっと待ってええ!! って。ぎゃああああああ!!」


 情けない声で叫びながら、地面に寝転がる猫耳パーカーを着た女の子。


 その子のすぐ近くには、背中に木の枝と布で作られた二枚の羽みたいなものをつけた女の子が、赤いボールを両手で掲げている。


 ──これ。私とティターニア様じゃない......?


「あははは!! あの子、話し方や反応がチカそっくりなの!」 


 うん。確かに似てる。それも猫耳パーカーを着てるから見た目までそっくりだ。


 だけどお願い。私の恥ずかしい過去を、こんな人通りが多い場所で再現するのはやめてください......。


 せめて家でやろうよ! 周囲の人達もみんな見てるからね!? ごっこ遊びにしては再現度が高すぎるんだよ! 


「あー、面白かった! 私この時いなかったら、どんな状況だったのか気になって仕方なかったの!」

「そっか。シィーは最後にきたもんね」

「そうなの!! あとでティターニア様にチカの様子を聞いて、一緒に行かなかったことをずーっと後悔してたの!」

「後悔? あっ、私を空から落としちゃったこと? それならもう気にしないでいいよ? 急いで飛び込んだ私も悪かったしね」

「それはもう気にしてないの! 私が後悔してるのは、落ちていくチカを見逃したことをなの!」

「いやいやいや!! 後悔するところがおかしいよね!?」

「あっ......。ま、まぁ無事に助かったんだし良かったの! あっ、そんな事よりそろそろ私が登場するはずなの!」


 シィーのやつめぇ。話を逸らしたな? まったく。都合が悪いといつもこうなんだから!


 私はため息をつきながら、女の子達に視線を戻すと、白い猫耳パーカーを着た女の子が、寝転がっていた黒い猫耳パーカーを着た女の子の背中に抱きついていた。


 どうやら私が助けられた後のシーンみたいだ。色違いを一枚づつ買ったのかな?


『あれ? ティターニア様。チカはどこ行ったの?』


 シィーの登場だ。どうやって再現するのかなーって思ってたけど......。ぷっ! な、なるほど。木からひょっこりと顔をだす感じにしたんだね! ぷぷっ! これはグッジョブだよ!


 女の子達の様子を眺めていた周囲の人達から吹きだすような声と小さな笑い声が漏れだした。


 きっとみんな気を使って声を抑えてるんだね。ぷぷっ! ダメだ。私はもう堪えられそうにない。


「なっ......!」


「あはははは!」


 私は笑いながらチラッとシィーの方へ視線を向けた。シィーは口をあんぐりと開けて絶句している。


 まあ、気持ちは分からなくもないけどね! だってシィーを演じてる人、筋肉質な中年のおじさんなんだもん! ぶりっ子な口調と演技がすごく痛々しい。この子達のパパかな?


「ふ......、ふざけんじゃねえぇの!! チカも笑ってんじゃねえの!」

「ひっ!」

「ねえ! なんで私だけおじさんなの!?」

「なっ......! 妖精!?」

「妖精!? じゃねえの!! いくらなんでも酷すぎるの!!」

「そ、そんなこと言われたって......」

「ああん? なにかいい訳があるなら聞いてやるの!!」


 シィーは大激怒だ。こんなに怒ったシィーを見たのは初めてかも。


 さっきまで笑ってた周りの人達も、突然の出来事に目が点になっている。


「わーっ! 妖精様だぁー!」

「かわいいー!」


 キラキラした瞳で女の子達がシィーに駆け寄っていく。


「ほら、早く言ってみるといいの!!」

「こ、子供達がやりたがらないんだから、仕方ねえじゃねえか」

「なんでやりたがらねえの!? そんなのおかしいの!」

「し、知らねえよ! 子供達に聞いてみてくれよ!」


 シィーは女の子達の方へ顔を向けた。それを見て嬉しそうにキャッキャと騒ぐ女の子達。


「どうして私をやりたがらないの?」

「えー。だって妖精様の服ないんだもん! 猫さんの服はあるのに!」


 私を演じていた女の子がそう言うと、他の子達も「うんうん」と首を縦に振る。


 なるほど。マリーちゃんは猫耳パーカーしか売ってないもんね。


「分かったの! じゃあ私の服を作ってお前達にプレゼントしてやるの!!」

「おっー! 私達もヒラヒラした可愛い服着れるの?」

「もちろんなの!」

「わーい! 楽しみにしてるね!」


 あーあ、シィーのやつ勝手に約束しちゃったよ。作るのマリーちゃんだよね? よっぽど自分だけおじさんだったのがショックだったのかな?


「このシィー様に任せておくといいの! お前達のためにヒラヒラした可愛い服を用意してやるの!」


 嬉しそうに飛び跳ねる女の子達に囲まれながら、シィーは得意げに胸を張った。

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