第107話 はじめての友達

 デュランダルはカエデさんが持ってたのか。じゃあ創れるわけないじゃんね。シィーとハート様の話をちゃんと聞いてから試せば良かったなぁー。私の悪い癖だ。


「そのカエデさんっていうのは誰ですか? 俺たちと同じ境遇の人ですか?」

「カエデさんはマサキさんと同じ勇者だよ。数百年以上前のだけどね」

「そうなんですか。じゃあもういないんですね。同じ勇者なら色々話を聞いてみたかったなぁ......」


 残念そうにしているマサキさんを見つめながら、シィーはボソっと呟いた。


「そんなの王族には気をつけろって言うに決まってるの......」

「えっ?」

「シィー。気持ちは分かるけど、ハート様が同じとは限らないでしょ?」

「うぅー......。でもチカと私を投獄した張本人なの! そんなにすぐ信用できるわけねえの」


 まあそれは確かに。ティターニア様も殺されてもおかしく無かったって言ってたもんね。ハート様にその気がなくても、家臣全員が同じ気持ちとは限らないもんなぁ......。


「妖精様の仰ることはもっともです。チカ達に信用してもらうのは容易なことではないでしょう。それでも私は......」


 ハート様は真剣な眼差しで私を見つめた。


「本当にチカに危害を加えるつもりはありません。この命を掛けても構いません」

「陛下!? 王族が平民に命をかけるなど前代未聞ですぞ!!」

「黙りなさい! 私は本気です」


 嘘をついてるようには見えないね。完全に信用することはできないけど、信じてみてもいいかもしれない。あんな立派な屋敷もくれたしね!


「わかった。私はハート様を信じるよ」

「チカ、ありがとう」

「もぅっ!! チカは甘すぎるの!」

「あはは。そうかもしれないね。シィー、なにかあったら助けてね?」

「はぁー? もうっ! 本当にチカはしょうがない契約者なの!」

「そんなこと言ってー! シィーもなんだかんだ楽しんでるでしょ?」

「ふふっ! それは否定しないの!」


 シィーと私は顔を見合わると、吹き出すように笑い合った。


「あ、あの。さっきのは一体どうゆう意味なのか聞いてもいいですかね......?」


 マサキさんの声が聞こえた気がするけど、きっと気のせいだ。知らないほうが良いこともあるよね?



 ◆◇◆◇


「じゃあ私たちはそろそろ帰るね」

「えぇ。素敵な贈り物をありがとう。大切にしますね」

「うん! なにか困ったことがあったら言ってね?」

「ふふっ、充電のことが不安だったので助かります。我が国の宮廷魔法士でどうにかなれば良いのですが......」

「じゃあその宮廷魔法士の人達にも伝えといてよ。もし私がいなくても、屋敷のメイドさんやエルザさんに伝えといてくれれば後で城に行くからさ」

「ふふっ、もうメイドを雇ったんですね。言ってくれればこちらで用意したのに」

「えっ?」

「どうしたのですか?」

「いや。ハート様が手配してくれたって聞いてたんだけど......」

「私がですか? いえ私はまだ手配してませんよ?」


 どういうこと? エルザさん達が私に嘘をついた? でもハート様に聞いたらすぐバレるような嘘をついて何の意味があるの?


 私の頭の中に次々と疑問が湧いてきた。


 ハート様は宰相のお爺さんの方へ顔を向ける。


「何か知ってますか?」

「えぇ。メイドや執事は私が手配させました」

「どういうつもりですか? 私はそんな報告受けていませんよ?」

「失礼ながらチカ様は平民。メイドや執事にお困りになるだろうと思い、差し出がましいとは思いましたが、私がアルバート公爵に手配させました」

「チカを平民扱いするのはやめなさい。彼女は私の友人ですよ?」

「失礼しました。しかし私は事実を申し上げただけでございます」


 ピリピリした空気が周囲を包み込んだ。


 ハート様は宰相のお爺さんを鋭い目つきで睨みつけた。


「黙りなさい!!」


 ハート様の威厳に満ちた声が謁見の間に響き渡った。


 ハート様の声を聞きつけて、扉の外に待機してた兵士さん達が慌てた様子で謁見の間に入ってきた。


「陛下!! 何事ですか!?」

「──宰相を拘束しなさい」

「なっ!?」


 驚愕の表情を浮かべる宰相のお爺さん。兵士さん達も状況を掴めず、困惑した様子で呆然と立ち尽くしている。


「何をしているのです。私の声が聞こえなかったのですか?」


「「「はっ!!」」」


 えっ!? これ宰相のお爺さんどうなっちゃうの?


「見苦しいところをみせてしまいましたね」

「気にしないで大丈夫だよ。そんなことより宰相のお爺さんをそんなに責めないであげて? すごく優秀なメイドさんと執事さんだし、私も助かってるからさ」

「そういう問題じゃないのです......」

「えっ?」

「悪いことは言いません。すぐにメイドと執事を変えるべきです」

「ど、どうして?」

「チカのことをよく思っていない貴族もいると言うことです。貴族の間者の可能性だってあります」


 間者ってスパイのことだよね? んー、でも今更バレて困るようなこともないと言えばないんだよなぁー。もう十分目立っちゃってるしね......。


「んー、でも今いるメイドさんや執事さんはどうなるの? すぐ仕事って見つかるものなのかな?」

「メイドや執事として他で働くのは難しいでしょうね。可哀想ですが仕方のないことです」


 不当解雇じゃん。いやそれよりもっとヒドイかも......。


 私は少し考えて。


「とりあえず様子をみることにするね。間者と決まったわけじゃないし」

「そうですか......。分かりました。ですがこれだけは約束してください。何かあったら、すぐに私のところへ来てください」

「それはかまわないけど。いいの?」

「えぇ、もちろんです。元を正せばこちらの不手際ですからね」

「じゃあその時はお言葉に甘えることにするね! ハート様ありがと!」

「ふふふっ」

「えっ? 急にどうしたの?」

「ふふっ、ごめんなさいね。チカが私と普通に接してくれてるのが嬉しくてつい......」


 女王陛下だもんね。親しい友達とかはいないのかな? 気になるけど、さすがに聞いちゃまずいよね......。


「人間の女王は友達がいないの? ティターニア様とは大違いなの!」


 うん。なんでいつもシィーは平気でそう言うこと言っちゃうのかな!? 


「ふふっ、そうですね......。初めてかもしれません。──チカ。これからも私と仲良くしてくださいね?」


 ハート様は寂しげな表情でそう言うと、私に向かってニコッと微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る