第106話 勇者と聖剣

 暇だなぁ......。


 かれこれ1時間ぐらい経つけど、シィー先生のゲーム機説明会はまだ続いている。


 早く終わらないかなぁー。やることないから暇でしょうがないよ。


 それにしてもシィーはだんだんゲーム機の説明が上手くなってる気がする。操作も交えながら教えてくれるから凄く分かりやすい。


 回数を重ねてきてるからかな? そういえば精霊魔法のコントロールが未熟な妖精達にも頑張って教えてたもんね。



「──だから充電のときは十分に注意がなの!」


「なるほど。魔道具より壊れやすいのね」


「ふぅ......。やっと終わったの」


「ふふっ、妖精様ありがとうございます」


 ハート様はニコッと微笑みながらシィーにお礼を伝えると、真剣な表情で手元のゲーム機に視線を戻した。


「それにしても......。これは凄いですね......」


「え、えぇ、全くです」


 感心したようなハート様の言葉に、同意するように何度も頷く宰相のおじいさん。


 ふふふっ! どうやらお礼の品にゲーム機を選んだのは正解だったみたいだね!


「妖精様、こ、この小さな箱はいったいどんな仕組みで動いてるのでしょうか?」


「そんなの私に分かるわけねぇの! 創り出したのはチカなんだから、聞くならチカにきくべきなの!」


 そこで私に振るの!? 私だって仕組みなんて分からないよ? 電子的な何かが入ってるとしか言えないよ?


「それもそうですな。チカ様、こちらは一体どのような仕組みなのでしょうか?」


「さぁー?」


「え......?」


「電子的な何かが入ってて、それがソフトの情報を読み込んで動いてるしか言えないかなー」


「そ、そうですか......」


 私の回答を聞いて、目をパチパチさせる宰相のお爺さん。


 ほら微妙な空気になっちゃったじゃん! 


 宰相のお爺さんもまだ何か聞きたそうな表情で私を見つめるのはやめて下さい。私はこれ以上何も分からないよ!?


「あ、あのチカ様。電子的な何かと言うのは、具体的にはいったいどのような物なのでしょうか?」


 ほらきたよ! そんなの普通の高校、大学に通ってた私に分かるわけないじゃん! 


 唯一経験があるとしたら半田ゴテを授業で使ったことがあるぐらいだ。それで何をしてたのかまでは覚えてないけどね!!


「え、えーと。電子的な何かと言うのは......」


 私が対応に困っていると後ろから扉を開く音がした。マサキさんだ。いいところに来てくれた!


「チカさん来ていたんですね! お久しぶりです」


「マサキさん久しぶり! この前は迷惑かけちゃってごめんね?」


「別にいいですよ。あっ! でも迷子放送はもうやめてくださいね!!」


 おぅ。そういえばそんなこともあったね。すっかり忘れてたよ。


「マサキ。よく来ましたね。それで? 聖剣は見つかりましたか?」


「いやー......。あれはダメですね。錆びついててとても聖剣と言われるような武器とは思えません」


「そうでしたか......。と言うことは、やはり聖剣は大迷宮の最下層に......」


「その可能性が高いかもしれませんね......」


 聖剣? あー、そういえばゲームでも奈落の大迷宮の踏破報酬にデュランダルって剣があったね。初めて踏破したプレイヤーしかもらえないタイプのやつ。


 それもアレ取引不可で売ることもできないから、結局一度も使わずにゲームをやめちゃったなぁ。私も彼女も槍を使ってたしね。


「そうだ! チカさん!! 聖剣とか創れませんか?」


「え? デュランダルのこと?」


「そう! デュランダルです! 確か奈落の大迷宮を初踏破したのって『ちぃー』でしたよね?」


「私だけで踏破したわけじゃないけどね。でもなんでデュランダルが必要なの?」


「そんなの魔王を倒すために決まってるじゃないですか!」


「あー、それもそっか。マサキさん勇者だもんね! よっ! 伝説の勇者様!」


「よければ変わりましょうか? チカさんのほうがよっぽど勇者らしい力持ってますよね? ほら、女神様からの加護とか......」


 ジト目でそんなことを言い出す勇者のマサキさん。加護を貰えなかったこと気にしてるのかな? 


「それは遠慮しときます。私職業ニートだし」


 そもそも職業ですらないしね。


「どんなニートっすかそれ!! ハイスペックすぎないっすか!?」


 おぅ。素のマサキさんってこんな感じなんだ。今まで気をつかってたのかな?


 まぁでもデュランダルは触ったことあるし作れそうな気もするなぁ。いや、でもどうなんだろ? まったくと言っていいほど、デュランダルに思い入れなんてないから無理なのかな?


 私は試しにデュランダルを思い浮かべながら、瞳を閉じた。


 デュランダルの形状、能力、握ったときの感触。過去のデュランダルに関する自分の記憶を呼び起こしていく。


 意外にも明確にイメージできることに疑問と戸惑いを感じながら両手を前に差し出した。



 周囲が見守る中、私はゆっくり瞳を開けた。


「成功なのでしょうか?」


 ハート様の発した言葉に、シィーが首を横に振る。


「失敗なの」


「なぜ分かるのですか?」


「チカが何かを創りだす時は、いつもピカって光るの! それがなかったてことは......」


「創れなかった。そういうことですか?」


 シイーは首を縦に振る。


 正解。さすがシィーだ。私を近くで見てきただけあるね! 気まずくて創れなかったって言いずらかったから、代わりに言ってくれて助かったよ。


 だって目を開けたらみんな私を見てるんだよ? そりゃ言い辛くもなるよ。


「でもどうしてチカさんは創れなかったんですか? なんでも創りだせるんですよね?」


 マサキさんは私を未来の猫型ロボットか何かと勘違いしてるみたいだ。そんな便利な力だったら苦労しないよ。まったく。


「マサキさん。私の加護は漫画やアニメであるようなご都合主義じゃないんだよ」


「どういうことですか?」


「言葉通りの意味だよ」


「言葉通り? たしか創造改変って加護でしたよね? 創造ってなんでもつくれるって意味じゃ──。いや、そうか。確かに違いますね」


「そう違うんだよ。私も加護を使いこなそうと色々試してる時に気がついたんだけどね」


 まあ、ミリアーヌさんから聞いたんだけどね! 辞書を使って加護の練習をしてるのは本当のことだけどさ。


 私はバックから元の世界の辞書を取り出して、マサキさんに見せた。


「なるほど。新しいものを初めてつくり出すことか......。これかなり難しくないですか?」


「そうなんだよね......。それも明確にイメージできないと創れないしね」


「そうだったんですか......。ってことはデュランダルは実在するから創れなかったってことですか?」


「もしくはイメージが明確じゃなかったのかも」


「お二人ともデュランダルは実在しますよ」


「その通りなの! チカが創れないのも当然なの!」


 シィーとハート様がそう言うなら実在するんだろうなぁ。でもなんで奈落の大迷宮にあるかもって思うんだろ?


「ねえ、なんでハート様は奈落の大迷宮にデュランダルがあるって思うの? 聖剣なんだし他の国とかで保管してるのかもしれないよ?」


「それはありえません。可能性が一番高いのは漆黒の大迷宮です」


「だからどうしてそう思うの?」


「漆黒の大迷宮ができるまえ。あの地に神聖国セイグリードがあったからです」


 神聖国セイグリード? たしかミリアーヌさんに滅ぼされた国だよね?


「チカ。デュランダルの最後の持ち主はカエデ様なの」

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