第105話 ハート様とお礼の品

 城門でしばらく待っていると、門兵さんが息を切らせながら走って戻ってきた。


 あんな重そうな鎧を着て走ったらそうなるよね。門兵のお仕事も大変だ。


「はあはあ......。お待たせしました」

「きにしないで? それより大丈夫?」

「はい。お見苦しい......はぁはぁ......ところを......お見せしました」


 うん。全然大丈夫じゃなさそうだ。しょうがないなぁ。


 私はバックの中からジュースを取り出して門兵さんに差し出した。


 疲れたときはやっぱり炭酸だよね! 


「こ、これは?」

「飲み物だよ。遠慮しないで飲んでいいよ? 疲れたでしょ?」

「あ、ありがとうございます! しかし......。これは一体どうやって飲めば......?」

「あぁ、そっか! ごめんごめん! ちょっと貸して?」

「あっ、はい」


 私がジュースの蓋を開けると、プシュッ!と炭酸の抜ける音がした。


 ちなみに、バックの中に入れた物の時間が停止していることはすでに確認済みだ。マリーちゃんと一緒に実験したから間違いない。


 まぁ、マリーちゃんがバックから手を離そうとしなくて大変だったけどね......。収納魔導具を改良して、なんとか再現したかったみたい。


「はい。これでもう飲めるよ?」

「おぉー! ありがとうございます! それでは失礼して......」


 門兵さんはそう言うと、よっぽど喉が渇いてたのかゴクゴクっと勢いよく飲み始めた。


「あっ!! そんな一気に飲んだら──」

「うっ、ゲホゲホっ!!」


 苦しそうに咳き込む兵士さん。

 それを見て、もう1人の門兵さんが私に槍を構えた。


「おい! 大丈夫か!?」

「あぁ......。なんだこの飲み物は? 口の中でパチパチはじけて、喉に焼けるような痛みが......」

「喉が焼けるだと!?」


「えっ......?」


 もしかして炭酸ってこの世界にないの!? そういえば売ってるの見たことないかも。私またやらかした!?


「貴様!! 一体なにを飲ませた!!」

「ち、ちょっと待ってよ! そういう飲み物なんだよ!」

「なに馬鹿なことを言ってるんだ! 喉が焼ける飲み物なんてあるわけないだろう!」

「焼けない焼けない!!」



 猫耳パーカーのフードの中に隠れていたシィーは、必死に弁解するチカの声を聞きながら、呆れた顔で溜息をついた。



 ◆◇◆◇


 ふぅ。なんとか兵士さんの誤解が解けてよかったあ......。まさかこの世界に炭酸がないとはなあ。また捕まちゃうかと思ってヒヤヒヤしたよ!


 王城の廊下を歩きながら、チカがホッと胸を撫で下ろしていると、門兵さんが教えてくれた謁見の間が見えてきた。


 扉に前に立っている兵士さんは私に気がつくと、扉を開けて中に通してくれた。


 ハート様とは、みんなといる時に会うことがほとんどだったから、なんだか緊張するなぁー。失礼がないように気をつけないとね!



 謁見の間に入ると、玉座に座ったハート様が手で口元を押さながら、クスクスと笑っていた。


 どうやらすでに話が伝わってるらしい。


 よく見ると、近くに控えている兵士達も笑っているのを隠そうとしているのか、私から顔を逸らしている。


 兵士達にも伝わっているみたい。最悪だ。もう帰りたい......。



「よく来てくれましたね。チカ。ふふっ、兵士達がごめんなさいね」

「いえ......」

「それで? 今日はどうしたのですか?」

「あっ。えーと、今日は褒賞のお礼をしにきました。あんな立派な屋敷をありがとうございます」

「ふふっ、気にしないでください。喜んでもらえたようでなによりです」

「あと今日はお礼の品を持ってきました」

「あら? なにかしら?」


 私は猫耳パーカーのポケットから綺麗に包装された箱を取り出した。


 近くにいた兵士さんが私から箱を受け取ると、ハート様のところまで運ぶ。


「これは? 中を見ても?」

「うん。あっ、はい」

「ふふっ、以前も言いましたが、無理せず普段通り話してもいいのですよ?」

「本当にいいの?」

「ええ。もちろんです」


 ハート様は私にニコッと微笑むと、包装を丁寧に解いていく。


「これは? 初めて目にしますね......。魔道具でしょうか? どうやって使うのですか?」


 ゲーム機を手に取り、不思議そうに首を傾げるハート様。


「使い方の説明は私より適任者がいるんだけど......。ちょっとここだと人目が多いかな」

「なるほど......。聞こえましたね? 宰相以外は下がっていなさい」


「「「はっ!!」」」


 ずいぶんとあっさり人払いしてくれたなあ。それだけ私を信頼してくれてるってことかな?


「チカ、これでいいですか?」

「うん! ありがと! じゃあシィー、後はお願いね?」

「了解なの! ゲームのことなら私にまかせておくの!」


「なっ!! 妖精!?」

「ふふっ。やはりそうでしたか......」


 シィーが精霊魔法を解いて姿を現すと、その様子を見ていた宰相のお爺さんが目を丸くして、驚きの声を上げた


 あっ、ちゃんと説明すべきだったかな? 突然妖精が目の前に現れたらそりゃ誰だって驚くよね。お爺さんが倒れたりしなくてよかったあ。


「食事会の時に聞こえてきた可愛らしい声はあなたですね?」

「その通りなの!」

「ふふっ、妖精との契約に、女神様から授かった加護ですか......。チカはまるでお伽話にでてくる勇者様みたいですね」

「やめてよ! 私は勇者なんかじゃないし、命令されたって魔王なんか倒しに行かないからね?」

「ふふっ、分かっています。そんなことはしませんよ。それに......。そんなことしたらティターニア殿が黙っていないでしょうからね」

「あー」


 それもそうか。私が牢獄に捕らえられただけであの反応だ。魔王退治を命令された、なんてティターニア様が知ったらどんな反応をするか想像もつかない。


 王都は確実に消えるだろうけど、それだけじゃ済まないかも? ティターニア様が抑止力になってくれてるみたいで、ホント助かるなぁー。


 ありがとう!! ティターニア様!

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