第104話 屋敷へお引越しだよ!②

 引越し作業も切りがいいところまで終わったので、みんなで食堂で昼食を取ることにした。


 もちろん手伝ってくれた冒険者さんも一緒だ。頑張ってくれてるのにお昼はそれぞれ食べてきてねって言うのも、どうかと思うしね!



「うめぇー! 食事まで最高じゃねえか!」

「本当にうまいな。猫の服を着た依頼人がきた時はどうなるかと思ったが......。今回の依頼を受けてよかったな」

「ちょっと2人とも! 愉悦の黒ね......。じゃない。チカさんの前で失礼でしょ!!」


 そう言って、男性冒険者達に注意する気の強そうな女性冒険者さん。


 貴女が一番失礼だからね? 大体なんなの? その序盤ですぐやられちゃいそうな悪役ぽい通り名は......。


 私がジト目で見ていると、女性冒険者さんも私の視線に気づいたのか、「ひっ!」と小さな悲鳴を漏らした。


「ご、ごめんなさい!! アージェさん!」


 あれ? 私の視線に気づいたわけじゃなかったみたい。


 気になってアージェさんの方を見てみると、眉間にシワを寄せて鋭い目つきで女性冒険者を睨みつけていた。


「チカさんがその通り名を好んでないことは教えておいたはずよね? それともなに? 私を怒らせたくてワザとやってるの?」

「わ、私そんなつもりじゃ......。本当にごめんなさい!」

「私に謝ってどうする! 謝る相手が違うだろ!」

「ひっ!! チカさん!! 失礼なことを言って本当にごめんなさい!!」

「あ、ああ。う、うん」


 ──アージェさんこわっ!! 


 私と一緒にいる時と別人みたいじゃん! 私に泣きついてきたアージェさんは一体どこにいったの!?



 ◆◇◆◇


 食事でお腹も膨れて一息ついていると、エルザさんが飲み物を持ってきてくれた。


「チカ様。どうぞお飲み物です」

「あっ、ありがと!」


 エルザさんはニコッと笑顔を浮かべると、手慣れた仕草で、他の人達の前にも次々とカップを並べていく。


 メリィちゃんの背後から様子を見ていたジョンさんが、「ほう......」と小さく呟いた。


 ジョンさんを感心させるなんて、さすがエルザさん! 入れてくれた紅茶も美味しいし、まるでお金持ちのお嬢様にでもみたい! 


 そういえば舞が小さい頃、大きな屋敷やお城に住みたーいって言ってたなぁ。舞がいたらきっと喜ぶだろうなぁ。ママとパパは......。うん。騒いで少しうるさそうだ。



 家族のことを思い出してセンチメンタルな気分に浸っていると、メリィちゃんが声をかけてきた。


「チカはこの後どうするつもりなのニャ?」

「あぁ、私はハート様のところへ行ってこようかなー。屋敷をもらったお礼もしたいしね」

「そうだニャー。 あっ、そういえば昨日言ってたお礼の品はもう決まったのかニャ?」

「うん! それはもう大丈夫!」


 私が進呈できるものって言ったらしかない。何か別に創りだそうか迷ったけど、ハート様の好みが分からないし下手なものよりよっぽどいい。


「すげぇ......。愉悦のやつ、女王陛下とも知り合いなのかよ......」

「ち、ちょっと!! その呼び方はまずいって!」

「あっ! やべっ!!」



 あーあー。また言っちゃったぁー。まあ、こんなの慣れっこだから、悪意がなければ私は怒ったりしないんだけね?──けど。アージェさんは許してくれるかな!?


 少しワクワクしながら、横目でチラリとアージェさんの座っている方向に視線を送る。


 あれ!? アージェさんがいない。一体どこにいったん──


『貴様ッ!! ちょっとこっちに来い!!』


「ひっ!!」


 不意のアージェさんの怒声に、食堂にいたみんなの肩がビクッと震える。


 ──おふっ。これは予想外。ちょっとシャレにならないかも......。


 凄い剣幕で男性冒険者さんの襟首を捕まえるアージェさん。


「チカさん。すいません。私とコイツは少し席を外しますね......」

「う、うん」


「うげっ。た、たしゅけ......て......」


 まるで懇願する子猫のような瞳で私を見つめながら、アージェさんに引きずられていく男性冒険者さん。


 ──冒険者さん。がんばって......。


 私はそっと子猫から顔を逸らした。



 ◆◇◆◇


 昼食を終えた私は、屋敷をでてシィーと一緒に王城に向かうことにした。


 城壁の門と庭園をぬけて王城の扉までくる、2人の門兵さんが私を見るなり王城の扉を開けてくれた。


 そういえば、いつでも遊びにきてってハート様に言われから来ちゃったけど、面会のアポとか取らなくて大丈夫なのかな?


「ねえ、門兵さん」

「はい。どうかされましたか?」

「ハート様に会いにきたんだけど、どうすればいいのかな?」

「少々お待ち下さい。ただいま陛下に伝えて参ります」


 門兵さんはそう言うと、王城の奥へと走っていった。

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