第103話 屋敷へお引越しだよ!①
「これはどこに運べばいいんだ?」
「それはこの部屋に運んでほしいのニャ!」
「ういっす!」
屋敷のエントランスで、メリィちゃんが数人の冒険者と執事さんにテキパキと指示を飛ばす。
さすがメリィちゃん。マリーメリィ商会を経営しているだけあって手際がいい。ギルドに引越し作業を依頼するなんて、私じゃ思いつきもしなかったよ。
まあ、運ぶ荷物がないから考える必要もなかったんだけどね! 必要な荷物は全部バックに入れちゃってるし。──ん? バック......? あれ? 良く考えたら私のバックに入れちゃえばよかったんじゃ......?
ま、まあいっか! 気づかなかったんだもん。仕方ないよね?
そんなことより家具だよ、家具!! どんな家具にしようかな? 部屋の雰囲気的にはクラシック家具がピッタリなんだけど。あー、でもメイドさんや執事さんの給金を決めてからのがいいかなぁ。
どのくらい払えばいいんだろ? 今は少し余裕があるけど、安定した収入がないと給金なんて払っていけないよね......。うぅー、なんだか胃が痛くなってきた。給与をもらった経験はあるけど、払った経験なんてないもんなぁー。
私がお腹をさすりながら給金について考えていると、門のほうからマリーちゃんが冒険者を数人引き連れて私の方へ歩いてくるのが見えた。冒険者達はそれぞれ布に包まれた大きな荷物を持っている。
あれは......、家具? というかマリーちゃんも冒険者雇ってたんだ。もしかして私が知らなかっただけで、意外に一般的なのかな?
マリーちゃんは私と目が合うと、可愛く手を振りながらこちらに近づいてくる。私もニッコリ笑顔で手を振った。
「チカ、もうお部屋きまった?」
「うん! 二階の角部屋がちょうどいい広さだったからそこにするつもり。あまり広いと落ち着かないからさ」
「角部屋ってどこ?」
「えーとね......。んー、口で説明するのも難しいなぁ。そうだ、部屋まで案内するから私についてきて?」
「ん! りょーかい」
◆◇◆◇
マリーちゃんの後ろを歩く冒険者達の方から「すげぇ......」と呟く声が聞こえてくる。
私と同じこと言ってるよ。まあ、気持ちはすごく分かる。冒険者が住むような家じゃないもんねここ。朝、屋敷に入る時もたまたま通りがかった馬車の窓から、口をポカーンと開けた貴族ぽいおじさんと目があったばかりだし......。
そんなことを考えながら歩いているうちに、私の部屋が見えてきた。
扉を開けて部屋の中に入る。
「この部屋だよ!」
「ん。いい部屋」
「あはは、ありがと! まあ、まだ何もないけどね」
「大丈夫。安心して? チカのも持ってきた」
「──えっ?」
わたしのってなに? 荷物は全部バックの中に入ってるし、忘れ物なんてなかったはずだけど......。
私が困惑していると、マリーちゃんが後ろにいる冒険者達のほうへ振り返った。
「ここに運んで?」
「りょうかいだ嬢ちゃん。外に置いてある家具も全部ここに運んでいいのか?」
「ん。全部ここで大丈夫」
「あ、あのマリーちゃん?」
マリーちゃんと話してた冒険者のおじさんが荷物を床に置いて布を丁寧に外していくと、見覚えのある可愛らしい家具が私の視界に飛び込んできた。
猫の顔の形をしたテーブルだ......。
マリーちゃんの指示に従って、テキパキと部屋にネコを配置していく冒険者達。心なしか彼らの口元が緩んでいるように見える。まさか笑うのを堪えてる? あっ、目が合った。
私と目が合うと、無言でそっと顔を逸らして肩を小刻みに揺らす冒険者のおじさん。
あれ絶対笑いを堪えてるよね? 私だって好きでネコやってるわけじゃないんだからね? そうだ、このおじさんには今度猫の盾をプレゼントしてあげよう。顔も覚えたし、逃さないよ?
それにしても困ったなぁ。このままじゃまた部屋の中がネコだらけになっちゃう......。
──よし、決めた。今日こそマリーちゃんにちゃんと伝えよう! 私はネコが大好きってわけじゃないんだよって!
「チカ? どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ。ところでこの家具のことなんだけど......」
「家具がどうしたの?」
「えっとね......」
──うぅ、やっぱり言いづらい! けど伝えないと部屋がまたネコだらけになっちゃう! 頑張るんだわたし!!
コテンと可愛く首をかしげるマリーちゃんを見つめながら、私は意を決して言葉を続けた。
「実はわたし、ネコのことが──」
「マリーちゃーん! いま戻ったのです!」
突然、フィーちゃんが目の前に姿を現すと、マリーちゃんの胸に飛び込んでいった。
「えっ!? いまどうやってきたの!?」
「ん? チィーちゃんが何で驚いているのです? 私はただ精霊魔法で契約者のところに飛んできただけなのです」
あっ、そっか! そういえばシィーが前そんなこと言ってたかも。いつも一緒にいるからすっかり忘れてたよ。
「ん。フィーちゃん、おかえりなさい」
「あっ! マリーちゃんと徹夜して作ったネコの家具なのです!」
「て、徹夜......?」
「そうなのです。私も頑張って一緒に手伝ったのです!」
言われてみれば、確かに少し大きくなってるかもしれない......。
「ん。チカのためにフィーちゃんと頑張って作った」
「私は今までの家具でいいんじゃないかって言ったのにマリーちゃんが、お姉ちゃんを助けてくれたお礼だからって言って、ニコニコしながら作ってたのです! マリーちゃんがあんなに笑ってるとこ初めてみたのです!」
「そ、そうだったんだ......」
「やめてフィーちゃん。恥ずかしい......」
そう言って、顔を赤らめながら下を向くマリーちゃん。
「あっ。チカごめんね。話が途中になちゃってた。ネコのことが、なに?」
「──ネ、ネコのことが、その。だ、大好きだから嬉しいよ。ありがとマリーちゃん......」
「ん! 喜んでくれて私も嬉しい......」
こんなの卑怯だよ!! いまの話を聞いた後で、ネコがそこまで好きじゃないんだ、なんて言えるわけないじゃん! もういいよ! 今まで通り、可愛らしいネコの部屋に住んで生きていくからっ!!
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