第102話 屋敷を見に行こう!②

 もう仕方ないかなあ。すでに予約注文もたくさん入っているし、チラシも大量に配布済み。いまさら騒いだところで、もうどうしようもないよね......。



 考えを巡らせた結果、手遅れだということに気づいた私は、ゆっくりと立ち上がった。


 心配そうにマリーちゃんが私を見つめる。


「大丈夫? チカ、嫌だった?」

「んー、そうだね。できれば相談してほしかったかな」

「ん......。ごめんなさい」

「大丈夫! もう気にしないでいいよ。けど次はちゃんと私にも相談してね?」

「ん! 分かった!」


 コクリと頷くマリーちゃんの頭を優しく撫でながら、ふとメリィちゃんに視線を送った。


 そういえば。よく考えたら屋台の包紙の時は、メリィちゃんは私のことを考えて行動してくれてたんだよね......。もしかしたら今回も何か考えがあったのかな?


 メリィちゃんは私と目が合うと、気まずそうに瞳を伏せた。


 あっ、うん。これはなにも考えてなかったパターンだ。


「ごめんニャ。マリーが嬉しそうにしてるのが私も嬉しくて、チカのことまで考えてなかったのニャ......」


 確かにメリィちゃんはマリーちゃんのことになると、周りが見えなくなることがある。あっ、それはマリーちゃんもか。まあ両親が殺されて、お互いたった1人の家族だし当たり前か。私も妹のマイに何かあったら、冷静でいられる自信なんてないしね。


「もういいよ。メリィちゃんも次はちゃんと相談してね?」

「分かったのニャ!」



 猫耳パーカー販売の話も無事落ちついたところで、私は執事風の女性をずっと待たせてしまっていたことに気がついた。


 悪いことしたなあ。実際の私をみて幻滅してたりしてないよね? 大丈夫かなぁ。


 恐る恐る執事風の女性を見てみると、何事もなかったかのように、凛とした態度でたたずんでいるだけだった。表情から感情がまったく読み取れない。どこかジョンさんに似た雰囲気を感じるけど、優秀な執事さんてみんなこんな感じなのかな?


「待たせちゃってごめんね? えーと......」

「いえ、気にしないでください。私のことは、エルザとお呼びください」

「分かった! エルザさんよろしくね!」

「こちらこそ。末長くよろしくお願い致します。──それでは屋敷を案内致します。皆様、私についてきて下さい」



 ◆◇◆◇


 エルザさんに屋敷の中を一通り案内してもらってから、最後に食堂で夕飯を食べることになった。


 それにしても、この屋敷は本当に凄い! 部屋は使いきれないぐらいあるし、食堂やお風呂はマリーちゃんとメリィちゃんの屋敷より広々として、豪華な装飾が至る所に施されていた。


 なにより私が一番驚いたのは、夜会専用の大広間があったことだ。複数の豪華なシャンデリアにアンティーク風のテーブルや椅子。高級感溢れるクラシックカーテン。元の世界なら一体どれほどの価値があるのか、一般市民の私では想像もつかない。


 本当にこんな屋敷をもらってしまっていいのだろうか......。なにか裏がありそうですごく怖い。


 とりあえずハート様にお礼の品を用意したいところだけど、褒賞に対してお礼の品を用意しちゃっても大丈夫なのかな? んー、礼儀とかよく分からないし、メリィちゃんとマリーちゃんに相談してからにしようかな。


「お待たせしました」


 エルザさんがそう言うと、テーブルの上に次々と美味しそうな料理が並んでいく。こんなにたくさん食べられるかな?


「わーっ! 美味しそうな料理なの! それに私達用の食器まで用意してるなんて、エルザはなかなか分かってるの!」

「ふふっ。妖精様にお褒めいただける日がこようとは、思いもしませんでした」


 エルザさんが笑ったの初めてみた。アージェさんもそうだったけど、みんな妖精のことが好きなのかな? ──ん? アージェさん......?


 あっ!! そういえばアージェさんのことすっかり忘れてたっ!! あちゃー。ミスったなぁ。メモぐらい残してくればよかった。


 通信手段がないとこういう時にホント不便だ。携帯があれば今からでも呼べるのに。まあ、携帯だけなら創れそうだけど電波がなぁ......。



 食事をお腹いっぱい食べて、メイドさんが入れてくれた飲み物を飲みながら一息ついていると、メリィちゃんが私に話しかけてきた。


「そういえばチカはいつからこっちに住むのニャ?」

「あっ、私も相談したかったんだよね。いつからにする?」

「いや、どうして私に聞くのニャ」

「えっ? 私が決めちゃっていいの? メリィちゃん、いま忙しそうだけどいつでも大丈夫?」

「ニャ? もしかしてそれは一緒に住もうって意味なのかニャ?」

「えっ、私はそのつもりだったんだけど、まずかった?」

「そんなことないニャ!」

「ん。私も賛成」

「よかったー! あっ、そういえばエルザさん達はどこに泊まってるの?」

「私達は使用人室で寝泊りしております」

「使用人室? それって1人部屋?」

「まさか。使用人室を2部屋ほど、お借りしております」

「えっ! この人数で2部屋なの!? じゃあ私達の引っ越しが終わったら空いてる部屋使っちゃって? もちろん1人1部屋ね!」

「よ、よろしいのですか?」


 エルザは目を大きく見開いた。


「当たり前じゃん! こんなにたくさん部屋があるんだもん! 使わないともったいないよ!」

「あ、ありがとうございます」


 ──なんだろうこの反応?


 チカは周囲に控えているメイドさん達に視線を送った。


 みんな明らかに動揺している。どこか口元も緩んでいるような気がする。思いのほかメイドさんの待遇って良くないのかもしれない。落ちついたら待遇の改善が必要かな? 休日やお給金のことも確認しないといけないね! 


 でも私のお財布大丈夫かな......? 偉そうなこと言ってお金がありませんでした! なんて恥ずかしい状況だけは避けないといけない。


「チカ、ちょっといいかニャ?」

「ん?」

「引越しの件なんだけど、明日なんてどうかニャ?」

「おーっ! じゃあそうしよっか!」

「決まりだニャ!」



 新しい家具も買わないとなあー♪ ふふっ! これでやっと猫型の家具から卒業できるぞおおおっ!!

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