第101話 屋敷を見に行こう!①

 夕方頃に目が覚めたチカは、早めの夕食を食べてからハート様から貰った屋敷を見に行くことにした。


 マリーちゃん、メリィちゃん、ジョンさんの3人も私だけだと心配だからと言って、一緒について来てくれた。


 シィーと2人で行くのは少し不安だったのですごくありがたい。



 みんなと楽しくお喋りしながら、夕飯時で賑わう王都の人混みを進んでいくと、大きな屋敷が立ち並ぶ上流地区が見えてきた。


 王城付近にあるこの地域に一歩足を踏み入れると、先ほどまでの人混みや騒々しさは嘘のように消え去り、静寂とした上品な雰囲気が周囲に漂っている。


 私はこの雰囲気が少し苦手だ。だって私一般市民だもん。元の世界なんて、賃貸の安アパートに住んでたしね。


 それにしても......。どの屋敷にも門兵さんがいるなぁ。私も雇わないとダメなのかな? 

 っていっても、盗られる荷物がなにもないか。いや、でも家具とかは買わないとなぁ。そうだ。お金に余裕もあるし、あとでメリィちゃんに相談してみようかな?



 周囲を眺めながらチカが考えを巡らせていると、地図を持って前を歩いていたジョンさんが、突然立ち止まった。


「どうやらこの屋敷のようですね......」

「ホ、ホントにここなの?」

「えぇ。チカ様、間違いございません。しかし。これは......」

「デ、デカすぎるのニャ......」


 チカ達は口をポカーンと大きく開けて、唖然とした様子で屋敷を見上げた。


 貴族の屋敷のような大きく立派な門と広大な庭園。その奥に見える三階建ての巨大な屋敷は、道中に見てきたどの屋敷よりも大きく立派なものだった。


 ま、まさかここまで立派な屋敷だとは、夢にも思わなかった。小さな噴水までついてるじゃん! 


「と、とりあえず中に入ってみよっか?」

「そ、そうだニャ」

「ん。ジョン爺。門を開けて?」


「かしこまりました。マリーお嬢様」



 門を通り広々とした庭園を抜けて屋敷の前に着くと、チカは期待に胸を弾ませながら、受け取った鍵を扉の鍵穴に差し込みゆっくりと回した。



 ◆◇◆◇


「すごい......」


 一言そう呟くと、チカはおもわず息を呑んだ。


 屋敷の扉を開けると、びっくりするぐらい真っ白な内装とホコリ一つない綺麗な木材の床が広がっていた。


 入り口から2階に向けて敷かれた長い真っ赤な絨毯が、上品な雰囲気を醸し出している。


 まるで映画やドラマにでてくる貴族の屋敷みたい。──それにしてもこの人達は......?


 困惑するチカの目の前には、メイドや執事の格好をした20代ぐらいの男女が横一列に並んでいた。


 もちろん私は屋敷を夕方見にいく、なんて誰にも話してない。起きれるか分からなかったし、明日にしようか迷ってたぐらいだ。この人達は一体いつから私を待っていたんだろう......。


「えーと......」


 私が何て言葉をかければいいのか困っていると、列の中央にいたキリッとした目つきの女性と目があった。


 どこか近寄りづらい凛とした雰囲気。女性の中でひとりだけ何故か執事風の服を着ている。


「お待ちしておりました。チカ様」


『お待ちしておりました。チカ様!』


 そう言って凛とした女性が、深々とお辞儀をすると、一呼吸おいて、他の人達も後に続いて繰り返すように言葉を発してから、深々と頭を下げた。


「えっ!? えっ?」


「驚かせてしまい申し訳ありません。ここにいる者達は、陛下よりチカ様のお世話をするようにと遣わされた者達です」


「ハート様が?」


「はい。英雄として王都で名高いチカ様に仕えることができて、大変光栄でございます」


「名高い......? それはどういうことかな?」


「ご謙遜を......。大迷宮の最下層から無事に帰還する実力と、妖精の女王陛下であるティターニア様の怒りを鎮め、王都を救ったチカ様のご活躍は王都中で話題になっております」


「王都中で......?」


「はい」


「──ねえメリィちゃん。いまの話知ってた?」


「当たり前ニャ!! 商業ギルドにいく道中でも、商業ギルドの中でも、チカの話題で持ちきりだったニャ!!」



 あぁ......。ニッケルの街で、たくさんの視線と街の人達への対応にあれだけ悩んでおきながら、どうして私は同じことを繰り返してしまうんだろう......。私のバカ! あの時、なんで拡声器なんて創ったの!?



 チカが自身の軽率な行動の結果を知って、顔を引きつらせていると、マリーがゆっくりとチカに近づいていった。


「チカ、元気だして? 私はチカにすごく感謝してる」

「マリーちゃん......」


「私もニャ。チカがいなければ、私は大迷宮で死んでたニャ」

「メリィちゃん......」


 そうだよ。たしかに結果は最悪だったけど、マリーちゃんもメリィちゃんも、こうして無事だったんだからそれでいいじゃないか。噂なんてきっと時間が解決してくれるだろうしね。


 マリーは言葉を続ける。


「お姉ちゃんを助けてくれてホントにありがと。それに、私の夢もチカのおかげで叶うかもしれない」


「ん? 夢って?」

「ん。これ見て?」


 そう言うとマリーは猫耳パーカーのポケットから、一枚の紙を取り出してチカに渡した。


「なにこれ?」


 ──たくさんの名前。それにこれは住所? 何かの名簿みたいにも見えるけど。一体これは......?


「ん。商品の予約リスト。昨日フィーちゃんと一緒にお店も借りてきた。準備バッチリ」


「予約リストって。マリーちゃんもなにか王都で始めるの?」


「ん。これも見て? 頑張ってお姉ちゃんと作った」


「私の力作なのニャ!!」


「ん?」


 マリーちゃんから手渡されたもう一枚の紙を見ると、見覚えのある可愛いらしい絵が描かれていた。


 街の上空に浮かぶ黒色の猫耳パーカーを着た可愛らしい女の子。ニッケルのマリーメリィ商会の屋台で見た紙袋の絵と同じ女の子だ。


「こ、これは......?」

「ん! お店のチラシ」


 すごく嫌な予感がする。マリーちゃんの夢ってまさか......。


「猫耳パーカーを王都で売りだすのニャ!」

「ん! ずっと私の夢だった......。頑張ってたくさん作る!」

「私も手伝うニャ!」


「なんで私を絵のモデルに使うの!? はっ! まさかもう配ったりなんて──」


「もう! 昨日はホント大変だったのです! マリーちゃんと一緒に頑張ってたくさん配ったのです!」

「ん! フィーちゃんありがと」

「えへへ! なんだか照れるのです!」


「............」


 得意げに胸を張るフィーのちゃんの頭を優しく撫でるマリーちゃん。



 チカは苦笑いを浮かべたかと思うと、突然、頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。


 ──どうしていつもこうなるの!? 

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