第100話 寝不足と褒賞
泣き叫ぶアージェをやっとの思いで落ち着かせたチカは、部屋でひとり疲れきった顔でソファーに横になっていた。
「あぁーっ! もう疲れたぁぁぁぁ!!」
結局、アージェさんも今度妖精の里に連れていくって約束しちゃったよ! はぁ......。多分、大丈夫だと思うけど今度ティターニア様に会ったら聞いてみないとなぁー。
「ただいまなのー!」
私だけになるのをまるで見計らったかのように、シィーが窓から部屋に帰ってきた。フィーちゃんも一緒だ。あれ絶対逃げて気まずいから一緒に連れてきたよね?
チカはシィーを恨めしそうな目で見つめた。
「お邪魔しますなの......です?」
フィーはチカの様子をみて、目をパチパチさせたかと思うと、ハッとしてジト目でシィーを見つめる。
「なるほど......。おかしいと思ってたのです! シィルフィリアちゃんが、私を探しにくるなんて」
そう言うと、フィーはシィーの胸をポカポカと叩きはじめた。
「な、何を言ってるのかよく分からないの! 私はカワイイ妹に会いたかっただけなの!」
「嘘なのです! 取り乱したアージェさんが面倒で、こっちに逃げてきただけなのです!」
「なんでバレてるの!?」
「シィルフィリアちゃんはいつもそうなのです! 私を利用するなんてひどいのです!! これはお話し合いが必要だと思うのです!」
「なっ! チカのマネするんじゃねえの! お話し合いなんて必要な──」
「うん......。私もフィーちゃんの言う通りお話し合いが必要だと思う」
「えっ!?」
シイーは驚愕の表情を浮かべながら、背後にいるチカの方へ振り返った。
「おかしいの!! アージェの件は私のせいじゃないの! 忘れてたチカが全部悪いの!」
「やだなー。そんなの分かってるよ? お話し合いが必要なのはシィーとフィーちゃんのことに決まってるじゃん。大丈夫。私はシィー違って逃げないから。ここでゆっくり見といてあげるね?」
「はあ!? そんなの嫌なの!! 私はお話し合いなんてしたくないからもういくの!」
「へー......。シィー。これなーんだ?」
チカは猫耳パーカーのポケットから羽飾りのついた鈴のようなものを取りだすと、シィーに見えるように目の前にかざした。
「えっ......? それは妖精王の鈴......? どうしてチカがそんな物を持ってるの!?」
「この前ティターニア様にもらったんだよねー。なにか困ったことがあったら遠慮なく使ってね♪ っだってさ。これ。使ったらティターニア様が来てくれるんでしょ? シィーはティターニア様から逃げることができるのかなー?」
「うぎぎ......。卑怯なの。そんなの逃げ切れるわけねえの」
「チィーちゃん。さすがなのです! これでやっとシィルフィリアちゃんとしっかりお話ができるのです!」
──にしし。今度はシィーの番だよ?
チカは両手を広げて満面の笑みを浮かべた。
「さっ? お話し合いを始めよっか?」
「始めるのです!!」
──このあとチカは後悔することになる。シィーがずっと逃げてきたせいで、フィーの溜め込んできた想いが、数十年にも及ぶことをチカはまだ知らない。
3人のお話し合いは翌朝まで続いた......。
◆◇◆◇
日が登り、お話し合いが終わってフィーちゃんがマリーちゃんの元へ戻ったあと。
私とシィーがベットに入ろうとした瞬間。扉を叩き、ジョンさんが部屋に入ってきた。
「チカ様。いまよろしいでしょうか?」
「うん......。どうしたの?」
「ギルド統括がチカ様にすぐギルドに来てほしいとのことです」
「えー......。明日じゃだめなの?」
「ええ。なんでも先日の騒ぎの件で、大事な話があるそうです」
「はぁ......。分かった。シィー。いくよ?」
「ええええっ!? チカ一人で行ってくればいいの。私はベットでチカの帰りを待ってるの......」
チカはジト目でシィーを見つめると、無言でシィーの身体を掴んだ。
「わわっ! いきなりなにするの!? チカ! その手を離してほしいの!」
「ほらっ! いいからいくよ! ひとりだけ寝ようたって、そうはいかないんだからね!」
「やなのー! 眠いのー!」
嫌がるシィーを無視して、チカは部屋をでてギルドに向かうことにした。
王都の街を歩きながら、眠そうに欠伸をするチカとシィー。寝不足の2人の目にはクマができている。
「うぅー。眠い......。まさかフィーちゃんの話が朝まで続くなんて......」
「ふぁ~......。だから私はずーっと逃げてきたのに。まったく。チカのせいで寝不足なの」
「私だけのせいじゃないじゃん! シィーが何十年もフィーちゃんから逃げてたせいでしょ?」
「うぐっ。だってめんどくさかったんだから仕方ないの」
「はあ......」
◆◇◆◇
ギルドに着くと、受付の女性がチカに駆け寄ってきた。
「チカ様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
受付の女性に案内されて、統括のアーサーさんがいる部屋の中に入ると、テーブルに座って作業していたアーサーさんの手が止まる。
「チカ、よくきてくれたな。まあそこに座ってくれ」
「ありがと。それで? 今日はどうしたの?」
「先日の騒ぎの件で、陛下からチカに褒賞がでている」
「褒賞?」
「そうだ。経緯はどうあれチカが王都を救ったのは確かだ。陛下としては、このまま何もしないわけにはいくまい」
「そっかー。別に気にしなくてもいいのになぁ」
「ハハハッ! そう言わずに貰っておけ。ほれ」
そう言うと、アーサーはテーブルの上にパンパンに膨れた皮袋と鍵を置いた。
チカは首をかしげながら鍵を手に取った。
「鍵......? ねえアーサーさん。これは?」
「屋敷の鍵だ。王都の一等地だぞ?」
「一等地!? そんなの貰っていいの!?」
「もちろんだ。不当な扱いへの謝罪と王都を救ってくれたことに対する褒賞だそうだ」
「おーっ!!」
──すごい!! この歳で家を持てるなんて! 異世界にきてホントよかった!
「あと陛下からの伝言だ。またいつでも城に遊びに来てほしい。とのことだ」
「あはは......」
──できれば行きたくないけど、お礼はしないとまずいよね。はぁ......。憂鬱だなあー。
チカ達はアーサーさんにお礼を言ってから、ギルドをでて真っ直ぐ拠点に戻った。
さすがに眠気も限界だ。起きたら屋敷を見にいこうかな? 一等地の屋敷かあー。どんなところなんだろう? すごく楽しみだ。
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