第95話 マリーとシィーと妖精の里

 暗がりの妖精の里。苔から発する淡い光に照らされながら、周囲をたくさんの妖精に囲まれたシィーとマリーの姿があった。


「すごーい! 絵が動いてる!」

「シィルフィリアの契約者が作って、妖精の里に持ってきてくれたんだってぇー!」

「ねえねえ! 私達の分はないの?」

「シィルフィリアいいなぁー......」


 仲間からの尊敬と羨望の眼差しに、シィーのニマニマは止まらない。一方、マリーは初めてみる妖精の里に大興奮。嬉しそうにキョロキョロと周囲を見渡していた。


「ふふふっ! だいじょーぶなの! ティターニア様に何個か渡してあるから安心してほしいの!」


「さすがシィルフィリアです!!」

「わーい♪ 私達たちも遊べるのー!」


「えへへ。それほどでもないの♪」


 マリーはニヤけ顔のシィーに顔を近づけると、小声でささやいた。


「シィーちゃん。みんなに注意すること教えないとすぐ壊れる」

「ハッ! そうだったの! マリー教えてくれてありがとなの!」

「ん!」

「みんなこのゲームは雷をエネルギーにしてるの! うまく調整しないと、すぐ壊れちゃうから注意が必要なの!」


「えーっ! どうやるのー?」

「わたし雷の調節なんて1人じゃできないの」


 妖精達は周囲の仲間達と顔を見合わせ、口々に不安の声をあげた。周囲がざわめく中、シィーは得意げに胸を張る。


「任せておくの! 明日の朝、妖精城の客室でゲームパーティーを開くの! そこでお菓子でも食べながら、私がみんなに色々教えてあげるの!」


「さすがシィルフィリアなの! わたし朝一番にいくの!」

「僕だって! シィルフィリアありがと!」


「えへへ!」


 歓喜の声と羨望の眼差しを一身に受けて、シィーのニマニマは止まらない。マリーはそんなシィーを見つめながら、ポツリと呟いた。


「チカに聞いた?」

「あっ!」


 ──すっかりチカのこと忘れてたの! でも他にお菓子を食べながら、みんなでゆっくりできるところなんてないの......。


「だ、大丈夫なの! チカは一度寝たらなかなか起きないの!」

「さすがに起きると思う」

「うっ......。でも他に場所がないの。きっと大丈夫なの! 起きないの!」

「んー。そうかなぁ......」

「いつも一緒に寝てるから分かるの! 間違いないの!」

「ん。分かった」


 ──マリー、ごめんなの。絶対チカは起きるの。これは明日チカへ『』を用意するしかねえの......。


「マリー、ちょっと買い物に付き合ってほしいの!」

「ん。いいよ? 何処行くの?」

「妖精の里にある雑貨屋なの! こっちなの!」

「おっー! 妖精の雑貨屋!」


 マリーは妖精の雑貨屋に、期待で胸を膨らませながら、シィーの後を追いかけていった。



 ◆◇◆◇


 ふたりは雑貨屋で買い物を終えて店をでた。


「ふぅ......。を買えてよかったの」

「ん。チカもきっと喜ぶ」

「ははは......。そうじゃないと困るの」

「ん? シィーちゃん、どうしたの?」


 顔を引きつらせて笑うシイーの様子を見て、不思議そうにマリーは首をかしげた。


「な、なんでもないの! そんなことよりもうすぐ着くの!」

「着く? シィーちゃん、今度は何処に向かってるの?」

「マリーが好きそうなところなの!」

「私が好きそうなところ?」

「ほら、ちょうど見えてきたの!」


 シィーが指差した方向には、妖精が何十人も入れそうな少し大きめの家と、その横に人が座れそう椅子とテーブルが1個づつ置かれていた。


「ん? なにあれ?」


 目を凝らしながら近づいていくと、木で作られた小さな看板があることにマリーは気がついた。


「妖精のレストラン? レストランってなに?」

「食事をするお店のことなの!」

「おーっ! 私も食べられる?」

「もちろんなの! そこの椅子に座るといいの!」

「ん。分かった」


 マリーが椅子に座ると、シィーはニマニマした顔でマリーを見つめた。


「ん?」


 視線に気がついてマリーが問いかける。


「シィーちゃん。どうしたの?」

「座り心地はどうかなーって思っただけなの!」

「座り心地? んー。普通の椅子だけど?」

「ふふふっ! その椅子はただの椅子じゃないの! なんと座ったのはマリーが2人目なの!」

「2人目?」

「そうなの! 1人目はマリーが大好きなあの勇者様なの!」

「えっ!?」


 マリーは驚きのあまり椅子から飛び上がるように、腰を上げた。


「ぷっ! あははっ!! やっぱりマリーを連れてきて正解だったの! チカは気にせず座ってそうだから、つまらねえの!」


「んぅ......。シィーちゃん。うそついた?」


 お腹を抱えて笑っているシィーを不機嫌そうに見つめながら、マリーは頬を膨らませた。


「えっ、嘘じゃないの! 反応が面白かったから笑っただけなの」

「えっ。どうしよう。私座っちゃった......」

「ん? 嬉しくないの?」

「嬉しい。けどそんな大事な席に座ったらダメじゃない?」

「あー、大事なものはティターニア様が保管してるから、気にしないで大丈夫なの!」

「よかった......」


 マリーはホッと胸を撫で下ろした。


「だから勇者様と同じ席で、食事を楽しむといいの!」

「ん! シィーちゃん、ありがと。すごく嬉しい......」


 マリーはむかし絵本で読んだ、勇者様が妖精の里に訪れるストーリーを思い浮かべながら、嬉しそうに椅子を撫でた。

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