第94話 知らなかったの私だけ!?
翌朝。部屋に響き渡る騒がしい声で私は目を覚ました。
「んんっ……」
眠気を感じつつ、目を擦りながらベットから起き上がり、周囲を見渡して私は唖然とした。
「えっ!?」
部屋いっぱいに可愛らしい妖精達。
笑ってたり、悔しがってたりと表情と様子は様々だが、共通しているのはその手にゲーム機を持っていることだ。
「これは……? あっ!」
(絶対あの2人だっ!!)
チカはピンっときて、周囲に視線を送りシィーとマリーの姿を探した。
「ふたりともいない……? 部屋をこんな状況にしておいて!?」
「……あのー。誰を探してるですか?」
「ん?」
振り向くと、可愛らしい妖精が目をパチパチさせて首をかしげながら、私を見つめていた。
肩ぐらいまで伸びた青色のウェーブヘアーと瑠璃色の綺麗な瞳、幼い顔立ちでシィーより背も少し小さい。
「あの......。あれ? 聞こえてないですか? 誰を探してるですか?」
「えーと、あなたは?」
「私は、フィルネシア=ティターニアです。初めましてです。チィーは誰を探してるですか?」
「チィーって私のこと?」
「そうです。ダメですか?」
「いや、ダメじゃないよ。ちょっと懐かしいなーって思っただけ。それでフィルネシアちゃん、シィーとマリーちゃん知らない?」
「シィー? 誰のことなのです?」
「えっ?」
「んー?」
あれ? シィーを知らない? じゃあフィルネシアちゃんはどうしてここに? あっ、お友達についてきたとか?
私が困惑していると、フィルネシアちゃんはハッとしたように肩を小さく震わせた。
「あっ。シィルフィリアちゃんのことです?」
「誰それ!? 違う違う!! シィーっていうのは──」
チカがシィーについて説明しようとした瞬間、ドンっという大きな音とともに、部屋の扉が勢い良く開かれた。
「みんなお待たせなの!! お菓子と果物をた〜くさん貰ってきたの!」
シィーとマリーちゃんだ。
マリーちゃんは前も見えないぐらい山盛りに積まれたお菓子と果物が乗った大皿を両手に持っている。なんで崩れ落ちないのが不思議でしょうがない。
「「わーい♪」」
「お菓子♪ ゲーム♪ お菓子♪ ゲーム♪」
妖精達は瞳をキラキラ輝かせて、ニコニコしながらマリーちゃんに向かって飛んでいく。
まるで子供みたいだ。すごく可愛い。
私が妖精達の様子を眺めていると、シィーと目が合った。
マリーちゃんも私に気がついたようだ。
「あれ? チカ起きたの?」
「チカ。おはよ」
「起きたのって……。こんだけ騒がしかったらそりゃ起きるよ!!」
「うっ......!」
「チカ。ごめんね?」
「はぁ……。それで? これはなんの騒ぎなの?」
「ふふふっ! ゲームパーティーなの!!」
「んっ! ゲームパーティー!」
そう言って、得意げな顔で2人は胸を張る。
「ゲームパーティー?」
「そうなの! 昨日みんなにゲームを見せたら、遊びたいってみんな言うから……。それでしょうがないから、遊び方を私が教えてあげることにしたの!」
「んっ! みんなでお菓子食べながら遊ぶ」
……なるほど。昨日やけに帰りが遅いと思ったら、ほかの妖精達にゲームを見せびらかして回ってたのね。
「シィルフィリアちゃん、おかえりなさい」
「あっ! フィルネシア! ただいまなの! ちゃんとチカに挨拶はできたの?」
「んー。まだ途中だったのです」
「……ん? シィルフィリアちゃん?」
「そうです。彼女が私が話してたシィルフィリアちゃんなのです」
「えええええ──っ!?」
私の驚きの声を聞いてシィーはキョトンとした顔で首をかしげる。
「なんでチカがそんなに驚いてるの?」
「ん。不思議。シィーちゃん、チカに話してなかった?」
「あー…….。そういえば聞かれなかったから言ってなかったかもしれないの……」
「マリーちゃんも知ってるの!? じゃあ、もしかしてメリィちゃんも……?」
「ん。知ってる。妖精様は名前が長いから、愛称で呼び合うのは有名。絵本にもそう書いてある」
「そういうことなの! 私の名前は、シィルフィリア=ティターニアなの。ちなみにシィーって愛称は妖精の里に5人以上いるからたくさん妖精がいるときは注意が必要なの!」
「あー、だからフィルネシアちゃんは……」
「そうなのです。まさか名前を知らないとは思わなかったのです」
「ははは……。そりゃそうだよね……」
「あっ、私のことはどうかフィーと呼んでほしいのです。これからよろしくなのです!」
「うん。よろしくね」
……ん? これから?
「ねえ、いまフィーちゃん。これからって言わなかった?」
「言ったのです。嫌ですか?」
「いや嫌じゃないよ!? ただ少し違和感があったというか……」
……なんだろこの違和感。噛み合ってないような気がする。気のせいかな?
私がフィーと話していると、マリーちゃんが私の方へ歩いてきた。
「チカ。これ見て?」
「ん?」
そう言うと、マリーちゃんは腕を上げて、手のひらを私に向けた。
マリーちゃんの小さくて可愛らしい手のひら。そこに見覚えのある羽のマークが刻まれていた。……契約の証だ。
「えっ!? これって……!」
「ん。……契約の証」
私はシィーに騙されて交わされた契約の儀式のことを思い出して、シィーの方へ顔を向けた。
私と目が合うと、シィーは酷く慌てた様子で両手を横に振った。
「ち、違うの!! 私は関係ないの!!」
「ん。私の意思。シィーちゃんは助言をくれただけ」
「シィーが助言を? じゃあ関係なくないじゃん……」
「そんな怖い顔しないでほしいの!! 私はフィルネシアを止めたの! でもどうしても一緒に行きたいって泣きつくからマリーに相談しただけなの!」
「ん。シィーちゃんは悪くない。それに妖精様と契約できるなんて光栄なこと。悪いことじゃないよ?」
「そうなの!! さすがマリー! 分かってるの!」
「はぁ……。まあ納得して契約したならいっか。でも妖精って人間嫌いが多いんじゃなかった?」
「多いと言うか。すべての妖精が人間を嫌ってるの!」
「え!? じゃあなんでマリーちゃんとフィーちゃんが、契約をすることになったの?」
「それは……」
マリーちゃんとシィーは、昨晩のことをゆっくりと語りだした。
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