第90話 わたしがいる必要あった?
冒険者ギルド会議室。
いま王都でもっとも緊張感が高まっているのは、間違いなくこの場所だ。
長いテーブルの左右中央にそれぞれ座るのは、冷笑を浮かべた2人の女王。
そして入り口の前にたたずむ私......。
「ふふっ、ほらチカちゃん。そんなとこに立ってないで、こちらに一緒に座ったら?」
「ティターニア殿、気遣いは無用ですわ。ささっ。チカ、こちらに座りなさい」
「............」
──『板挟み』
まさに、今の私にピッタリの言葉だ......。
「わ、私ちょっと腰痛持ちだから、壁に寄りかかってるよ」
「「それはいけませんね」」
「えっ?」
「シィーちゃん。すぐに精霊魔法で治療してあげて?」
「アーサー。すぐにチカに最上級の回復ポーションを」
「うぇっ!? や、やっぱり座ろうかな。
「はいはい。無理しないで、このシィー様に任せておくの! ん?」
シィーが私の腰に手を当てた瞬間、不思議そうに首をかしげた。
──そりゃそういう反応になるよね。腰痛なんてないんだもん!
チカが気まずそうにシィーを見つめていると、ちょうど顔を上げたシィーと目が合った。
シィーは、ははーんっと全てを察したような顔をして、小声でチカに話しかけた。
「チカ、ウソはよくないの」
「シーっ!」
「はぁー......」
「そんな呆れた顔しないでよ! 仕方ないじゃん! どっちに座っても揉めそうなんだから!!」
「それは一理あるの。チカにしては珍しく的を得てるの」
「ねえ......。そんな扱いしてると、そのうち私ホントに泣くよ?」
「あーもう! ごめんなの! 今のは私が言い過ぎたの」
ティターニアは2人の様子を遠目でみて、チカの心境を察した。
チカに向かって優しく微笑みながら、少し離れた席を指差して、
「なるほど。ちかちゃん、あっちに席に座ったら? どちらかを選んで座るのは辛いでしょ?」
「あっ、ティターニア様、ありがとう!!」
「ふふっ、いいのよ。
そう言うと、ティターニアはハートに視線を送り、口元をニヤリと歪ませた。
「──ッ!!」
ハートは眉を一瞬、ピクリと吊り上げると、すぐに平静を装い微笑んだ。
「ふふふっ。ティターニア殿の言う通りですね」
チカの気づかぬところで、繰り広げられる舌戦。周囲の空気はより一層、ピリピリと張り詰めていく。
アーサーは緊張から、額に汗を滲ませながら、軽く咳払いをした。
「おほんっ。ではチカも席についたことですし、此度の件について話し合いを始めていこうと思います。双方よろしいでしょうか?」
「えぇ。進めてちょうだい」
「私もかまいません。アーサー、話を進めなさい」
「ありがとございます。さて、まずはご挨拶から。私は冒険者ギルドの統括をしているアーサーです。ティターニア様、どうぞよろしくお願いします」
「あら。人間にしては、礼儀をわきまえてるじゃない。そういう子は嫌いじゃないわ」
「妖精の女王陛下にお褒めいただけるとは、光栄です」
アーサーは、軽くお辞儀をして話を続ける。
「それでは此度の宣戦布告について、ティターニア女王陛下。理由をお聞かせいただけますかな?」
「あら。宣告した通りよ」
「我々が過去の過ちを繰り返そうとしたからっということですか? ですが、それは一体......」
ハートは小さくため息をついた。
「チカの投獄のことですね......」
「あら? それだけじゃないでしょ? 堅牢な魔封印で魔力を封じてたみたいじゃない?」
「えぇ。そうですね......。私がそうするように兵士に指示をだしました。ですが、信じてください。決して危害をくわえるつもりはなかったのです」
「ふふっ。相変わらず人間は愚かなのね。貴女にそのつもりがなくても、他の人間はどうかしら?」
「返す言葉もありません」
「ちょっと待ってください!! それではまるで、チカ1人のために、王都を焼き尽くそうとしたように、私には聞こえるのですが......」
「ええ。その通りよ?」
困惑したアーサーの問いに、さもそれが当たり前のようにティターニアは言い放った。
「ティターニア女王陛下は、チカ1人のために、全ての人間を敵にまわすおつもりですか!?」
「私にとっては、それだけで十分すぎる理由だわ」
「そんな......。なぜそこまで......。ティターニア女王陛下が、チカにそこまでこだわる理由は一体なんなんですか?」
困惑し、狼狽るアーサーの疑問の言葉に、静観していたハートはゆっくりと口を開く。
「──チカが数百年前にいた勇者と同じ力。女神の加護を持っているから。違いますか?」
「ふふっ。さあ? それはどうかしら?」
「ハート女王陛下!! それは一体どういうことですか!?」
「確証はないわ。ただ、王城でみたあの不思議な現象とマサキと話してた内容を考えると、そうとしか思えない。──いえ。それは間違いね......。あの子は過去の勇者以上の力を持っているはずよ。間違いなくね。魔法を使わずに堅牢な魔封印の効果を変えて、無効化したものね」
「なっ......」
「私はそんなことどうでもいいのよ」
ティターニアは興味なさそうに2人にそう言うと、椅子から立ち上がり、氷のように冷たい目つきでハートを睨みつけた。
「いい? これは警告よ? 次チカちゃんに何かしたら。──城も、街も、そこに生きる人間も、すべて私がこの手で焼き払ってあげる......。次はないものと思いなさい」
──冷たく言い放たれた、その言葉には明確な殺意と敵意がこもっていた。
少し離れた席で、一部始終を静観していたチカは、口に出せる空気ではなかったが、思わずにはいらないことが1つだけあった。
──もう私帰っていいかな......。
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