第83話 ティターニア


「きゃーっ!! また落とし穴に落ちちゃったわ!」

「ティターニア様! まだ大丈夫なのっ!」


 女王の間で、楽しそうにゲームで遊ぶシィーとティターニアを眺めながら、チカとメリィは大きな溜息をついた。



 ──時は少し前に遡る


 私達はティターニア様に挨拶をするために、妖精城の女王の間を訪れた。


 女王の間に入ると、凛とした綺麗な女性が豪華な椅子に座っていた。


 170cmぐらいの背丈で、背中には綺麗な羽を生やし、キリッとした眉に、透き通るような白い肌、胸元付近まで伸びた金髪のウェーブヘアー。妖精女王のティターニア様だ。



 シィーは女王の間に入ると、すぐに椅子に座る女性の元へ飛んでいった。


「ティターニア様! ただいまなのーっ!」

 」

「シィーちゃんっ! もうっ! いままでどこに行ってたの? 村のお祭りに行くって言ったまま、帰って来ないから心配したのよ?」


「あははっ! ごめんなのっ! お祭りでおもしろい人間を見つけたから、一緒について行くことにしたのっ!」


「おもしろい人間? シィーちゃん。ダメじゃない。人間がどんなにおぞましい生き物か私が散々お話してあげたでしょ?」


 ティターニアはそう言うと、まるでゴミを見るような冷たい目でチカとメリィを睨みつけた。


「ひっ!」


 メリィはシィーの話しを思い出して、ビクッと肩を震わせると、チカの腕をギュッと抱きしめた。


「でもティターニア様も、むかし勇者と一緒に色んなところへ行ってたの!」

「彼女は特別だったのよ......。この世界の人間じゃなかったし、一緒にいて凄く楽しかったわ」

「じゃあ私も一緒なのっ! チカも別の世界から来たのっ!」

「あらそうなの? チカちゃんっていう子はどっちの子なのかしら?」


「はじめまして、ティターニア様。チカと申します」

「へー、ずいぶん可愛らしい子ね。シィーちゃんの話は本当なの? まさかこの子を騙して良からぬことを企んでるじゃないでしょうね?」

「そ、そんなことしてませんっ!」

「あっ! そういえばティターニア様にお願いがあるのっ!!」

「んー? 何かしら?」

「チカっ! アレを出してほしいのっ!」

「あー、アレね。そういえば言ってたもんね」


 チカはバックからゲーム機を取り出して、シィーに手渡した。


「これを複製してほしいのっ!」

「これは?」

「ふふふっ! ティターニア様もやってみるといいのっ! 絶対に気にいるのっ!」



 ◆◇◆◇


「ふふふっ。2人ともごめんなさいね。おもしろくて、つい時間を忘れちゃったわ」


 ティターニア様はそう言うと、シィーの頭を優しく撫でた。


「シィーちゃんはいい子と出会えたみたいね。本当に羨ましいわあー。これがカエデが言ってたゲームというものなのね」

「カエデ?」

「私の大切な友人の名前よ。貴女と同じように異世界から召喚されたね」


 私は召喚されたわけじゃないけどね? やっぱり召喚が一般的なのかな。


「ふふふっ。カエデがいた頃は本当に楽しかったわ。一緒に色んなところへ冒険にいって、ドラゴンや魔王なんかも倒してたりしてね」


 ティターニアは虚空を見つめると唇を強く噛み締めた。


「......それなのに。あのクソ人間どもがカエデを......。私の楽しい時間を......」


 恨みを含むような低い声でそう呟くと、ふぅー。と一呼吸おいてからチカの方へ視線を戻した。


「......チカちゃんも十分に気をつけたほうがいいわ。権力を持った人間には特にね」

「心配してくれてありがとうございます」

「ふふふ。できれば私にもシィーちゃんと同じように話してちょうだい」

「えっ、いいの?」

「ええ、もちろんよ。──そういえばチカちゃんはどこの国に召喚されたのかしら? シンフォニアに召喚されたのは、男の勇者だったはずだけど......」

「あー、わたしは召喚されたわけじゃないんだよね。連れて来られたと言えばいいのか、放り出されたと言えばいいのか......」

「チカは女神様に連れて来られたらしいのっ!」

「女神様に? 女神様は何のためにそんなことを?」


 そう言うと、ティターニア様は不思議そうに首をかしげる。


「チカを見て楽しむために連れてきたらしいのっ! まったくとんでもない女神なのっ!」

「えーっ? ちなみに女神様の名前って聞いても大丈夫かしら?」

「そういえば私も聞いたことないの! なんて名前の女神様なの?」

「ミリアーヌって女神様だよ」


「「えっ?」」


 シィーとティターニアは、驚いたような声を上げると、顔を見合わせた。


 ──ん? なんだろこの反応。



 ティターニアは少し考えてから、真剣な表情でチカを見つめて口を開いた。


「──本当にミリアーヌ様が、貴女にそう言ったの?」

「えっ、なんでそんなこと聞くの?」


『──


「えっ、ありえないってどういうこと?」

「それは──」


 ティターニアが何かを言いかけた瞬間、突然、まばゆい光が部屋中を包み込んだ。チカは見覚えのある光にハッとして、


「えっ!? この光ってまさか!?」


 あまりの眩しさに誰もが反射的に目を閉じた。次の瞬間。チカの聞き覚えのある声が部屋中に響き渡った。


『やっほーっ!! みんなのアイドル!! ミリアーヌちゃんだよぉぉーっ!!』



 目を開けると、ミリアーヌさんが満面の笑みを浮かべながらバッチリとアイドルポーズを決めていた。みんなミリアーヌさんを見つめて呆然としている。


「あ、あれ? みんなボーッとしちゃってどうしたのよっ!! なにか反応してよっ!」


 チカは呆れた顔で頭を掻きながら、


「ねえ、ミリアーヌさん。この世界にアイドルなんているの?」


「あっ......」


「ぷぷっ! あはははっ!! 女神様もチカと一緒で少し抜けてるのっ!」


「なっ!?」

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