第84話 妖精女王と女神の過去


 シィーがお腹を抱えて笑っている姿を、悔しそうに見つめるミリアーヌさん。


 チカは内心でガッツポーズをとると、ニマニマした顔でミリアーヌさんを見つめながら、「ぷぷっ、それで? 自称アイドル? のミリアーヌさんはどうしてここに?」


「うるさいわねっ! だいたい元はと言えば、チカちゃんが乙女の過去を探るような、卑しいことをしてたせいでしょっ!!」


「乙女って……」


「なに? なにか言いたげじゃない?」


 ──ミリアーヌさんは乙女って年齢じゃないよね?


「失礼ねっ!! これでも女神の中では若いほうなのよっ! ……あら? それってチカちゃんの創ったゲーム機じゃない」


 ミリアーヌは興味深げにティターニアに近づいていくと、ゲーム機を手に取った。


「ええ。シィーちゃんが複製してほしいと言うのでこれから複製しようかと」


「へぇー。ってティターニアのその喋り方はどうしたわけ? 昔はそんな喋り方じゃなかったわよね? あの甘えん坊でチビッちゃかったティターニアが、背までこんなに大っきくなっちゃって!」


「いつの話をしてるんですかっ!!」


「かえでぇー! かえでぇー! っていつも彼女にくっついて離れなか──」


「あああああっ──!」


 ティターニア様は顔を真っ赤にしながら、慌ててミリアーヌさんの口を塞いだ。


 さっきまでのクールな雰囲気がミリアーヌさんのせいで台無しだ。


「もうっ!! お願いですからやめてくださいませんか?」


「あはははっ! 久しぶりにちょっとからかっただけじゃない! 数百年ぶりの再会なんだから、もっと喜んでくれてもいいのよ? そうだっ! せっかくだし、昔話に花でも咲かせましょうよ!」


「はぁ……」


 ティターニアはため息をつくと、チカ達の方へ顔を向けた。


「みなさん。申し訳ないのですが、こんな状況なので。今日はここまでにしておきませんか?」


「あっ、うん」


「シィーちゃん、彼女達を城の客室に案内してあげて。……チカさん、それに白い猫ちゃん。疑うようなことを言ってごめんなさいね」


「だ、だいじょうぶですニャ!」


「私も気にしてないから大丈夫だよ」


「ありがとう。ぜひゆっくりと妖精の里を楽しんでいってね」


「じゃあチカもメリィもこっちにくるのっ!お部屋に案内するの!」


「あっ、待って! わたしミリアーヌさんに色々聞きたいことが── 」


「チカちゃんダメよぉー? いま貴女が考えてることには答えられないわ♪」


「…… ねえ。その勝手に私の考えてることを読むのやめてもらえないかな!? プライバシーの侵害って言葉知ってる?」


「ぷぷっ! この世界にそんなものありませ〜ん! 残念でしたーっ! 作る気もありませ〜ん!」


「うぎぎっ……」


「もうっ! そんなにつくりたいならチカちゃんが作ればいいじゃない?」


「どうせできないんでしょ!! そうそう簡単には騙されないよ」


「できるわよ?」


「えっ?」


「数百年後にはね!」


「私死んでんじゃんっ!!」


「ぷぷっ! あれれ? もしかしていま期待しちゃった? ねえねえ。期待しちゃった?」


 ミリアーヌは楽しそうに身体を左右に揺らしながら、ニマニマした顔でチカを覗き込むようにジーッと見つめた。


「うぜぇぇぇーっ!! ホントにムカつくっ!」


「あはははっ!! 本当にチカちゃんで遊ぶのは飽きないわあー。これからも楽しみにしてるわね!」


「ぐぎぎぎ……。メリィちゃん、シィー! もう早くいこっ!!」


 チカはそう言うと、不機嫌そうに扉を開けて、ひとりで外に出て行った。


「あっ! ちょっと待つのニャ! 置いてかないで欲しいのニャ!! ティターニア様! 私もこれで失礼しますのニャ」


「もうっ! チカは部屋の場所も知らないのに、一体どこにいくつもりなの!? ティターニア様、私もいってくるの!」


「え、えぇ。シィーちゃん。チカちゃんのことお願いね」


「もちろんなのっ!!」



 ◆◇◆◇



 3人が去った後、呆然と様子を眺めていたティターニアは「ふぅー」と小さく息を吐いた。


 心を落ち着かせてから真剣な表情でミリアーヌのほうへ顔を向けると、すでにミリアーヌの表情から笑顔は消えていた。


 チカ達に見せていた、無邪気で底抜けに明るい雰囲気は消え、女神に相応しい気高さと厳かな雰囲気を漂わせ、ただ真っ直ぐに扉の先を見つめていた。


「……もうはよろしいんですか?」


「ふふふっ。失礼ね。全てが演技というわけじゃないのよ?」


「それは知っています。昔のミリアーヌ様を見ているようで、少し懐かしさを感じていましたから。……でもどうしてあの子にあんな嘘を?」


「嘘ってなんのこと?」


「ミリアーヌ様が楽しむために彼女をこの世界に送ったなんて嘘ですよね?」


「ふふふっ。楽しませてもらってるわよ? チカちゃんは見ていて本当に飽きないもの」


「とぼけないでください! カエデが死んだあの日。最後に私と別れたあの日に! カエデのお墓の前でミリアーヌ様は言ってたじゃないですかっ!!」



 ──『こんな穢らわしい世界もう見たくもない。いっそ滅んでしまえばいいのに……』



「……ミリアーヌ様。貴女はチカちゃんを。いえ。この世界を一体どうするつもりなんですか?」

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