第81話 マリーの苦悩

「あははっ! まあチカも、もう一度指輪を鑑定してみたらいいの! 自分で気づくことも大事なの!」

「ニャハハっ! その通りだニャっ!」


 ──なんか私の扱いひどくない!? 親しき中にも礼儀ありだよ?


 チカは不満を感じつつ、メリィからブレスレットを受け取ると、再び指輪に『鑑定』を使った。



 イマジネーションリング

 効果: イメージを身体に伝達する能力が少し向上する。レベルにより効果も上昇していく。



 やっぱりメリィちゃんからもらったイマジネーションリングじゃん。 別におかしなところなんて──。あれ?


「これ効果が増えてるっ!? えっ? でもどうして......?」


「どうしても何もチカがなにかやったに決まってるの! ほらっ! よ~く思い出してみるのっ!」


「んー......。──あっ、そういえばメリィちゃんからこの指輪を貰ってときに、こんな効果がついてればいいのにとは思ったかも」


「それで?」

「えっ。それで?って、それだけだけど......」

「んー? 本当に他にはないの? もっとちゃんと思い出すの!」

「ほ、本当にそれだけだよ! あとはずっと指につけてたぐらいしか思い当たることなんてないよ!」

「ふむ。じゃあ猫耳パーカーも鑑定してみるのっ!」

「ちょっと待ってね」


 チカは自分の胸に手を当ててから、頭の中で『鑑定』と唱えた。



 猫耳パーカー(黒)

 効果:可愛らしい猫を模したパーカー。小型収納ポケットつき。



 シィーは猫耳パーカーの鑑定画面を見ながら、首をかしげた。


「んー? 特におかしな点はなさそうなの。チカがずっと身につけてたことは関係なさそうなの。」

「じゃあもう試してみちゃおうよ? 指輪の時と同じようにやってみるからさ!」

「あっ! ちょっと待つ──」


 ちかはそう言うと、シィーの言葉を無視して、堅牢な魔封印に触れて『鑑定』を使った。



 堅牢な魔封印

 効果:半径10m圏内にいる者の魔力を封印する。アダマンタイト製で非常に強硬。



「んー。どうしようかな......」


 あー、もういいや! 考えるのも面倒くさいから適当に『封印する』を『封印しない』に変えちゃえっ!!



 メリィはチカの背中を眺めながら、このあとに起こり得る事を予見して、緊張から息を呑んだ。


「ど、どうなったのニャ?」

「えーと......。なにも変わらないよ?」

「確かに何も変わってないの。ますます意味がわからねえの! チカっ! 一体どうなってるの?」

「そ、そんなこと私に言われても......」

「やっぱり魔力が必要なんじゃないのかニャ?」

「んー。そうなのかなあ?」

「いいからもっと試してみるのっ!!」

「わ、わかった。やってみるね」


 ──なんでシィーは怒ってるの!?


 チカはシィーの迫力に圧倒されつつ、言われた通り色々と試してみたが、堅牢な魔封印に変化は見られなかった。その様子を見ていたメリィとシィーの表情に、だんだんと諦めの色が見えはじめる。


「はあー。やっぱり無理みたいニャ。それに冷静になってよく考えたら、逃げるべきじゃないのニャ」

「もうっ! ここから逃げられるとおもったのにガッカリなの!」

「なんかごめんね」

「チカのせいだけどチカのせいじゃないニャっ!」

「いやメリィちゃん。それは責めてるの? それとも慰めてるの?」

「責めてるし慰めてるニャっ!」


「あっ......。両方なんだね」

「当たり前ニャっ! ──はあ。今頃マリーはどうしてるのかニャー......。お姉ちゃんが逮捕されて泣いてるかもしれないニャー」

「うぐっ......」


 メリィちゃんめっ。痛いところをついてくるなあー。いまマリーちゃんがどうしてるのか想像すると、心が痛むからホントやめてほしい。


 ──私だってあんなことになるなんて思ってなかったんだよっ!! 



 ◆◇◆◇


 数時間後。

 夜も更けて、辺りも寝静まった頃。


 チカは牢獄の壁に寄りかかるようにして座りながら、指輪の変化と加護について考えていた。シィーとメリィは疲れたのか、床に横になり寝息をたてている。



 一体なにが駄目なんだろう? 創るときと同じように、なにか条件があるとか? んー。改変......。改変かあー。


 静寂の中、堅牢な魔封印を見つめながら考えを巡らせていると、一つの可能性に気がつき、思わず立ち上がった。


「まさか......」


 チカは堅牢な魔封印に触れて、再び鑑定を使った。


 ──推測が確信に変わる。



 堅牢な魔封印

 効果:半径10m圏内にいる者の魔力を封印する。アダマンタイト製で非常に強硬。効果時間は触れてから5秒間。



 やっぱりそうだ。内容は変えられるけど、対象の本質を変えることはできないんだ。封印しないんじゃ堅牢な魔封印じゃなくなっちゃうもんね。



「シィー。ごめん起きて。」

「ん。ふぁー......。なにもう朝なの?」

「違うよ! ちょっとこれ見てよ!」

「もうなんなの? それは変えられないってことで話は──。んっ!?」


 シィーは眠たそうにしていた目を大きく見開くと、瞳をキラキラと輝かせながら私に手をかざして補助魔法をかけた。


「やったのっ!! 精霊魔法が使えるの!」

「でしょっ? 頑張ったんだからわたし!」

「さすがなの! よーし! じゃあさっさとこんな場所から逃げ出すのっ!」

「でも外には見張りの兵士がいるよ?」

「ふふふっ! このシィー様にまかせておくのっ! チカはメリィをかかえてきてほしいの」

「ん? メリィちゃんをかかえるのはいいけど、一体どうするつもりなの?」

「こうするのっ!!」


 シィーがそう言って、両手を前にかざすと、薄暗い牢獄の中にほのかな光が集まりだし、光の扉を形成していく。


「な、なにこれ?」

「ふふふっ! 人間どもは妖精の小道って呼んでるの!」

「妖精の小道?」

「そうなの! ここを通れば妖精の里に行けるのっ!!」

「おーっ!!」

「ほら! 感心してないで早く入ってほしいのっ! これを維持するのはちょっときついの」

「わ、分かった!」


「あはははっ!! 人間どもめっ! ざまーみろなのっ!!」


 チカは気持ちよさそうに寝息をたてているメリィを優しく抱きかかえると、シィーと一緒に光の中に消えていった。



 ◆◇◆◇


 翌朝。

 3人を開放してもらうために、夜通し各所を回って疲れた顔をしたマリーとマサキが牢獄のある詰所を訪れた。


「なんの騒ぎ?」

「なんですかね? やけに兵士達の様子が慌ただしいような......」


 詰所の中は、チカ達の脱獄のせいで騒然としているのだが、そのことを2人が知ったのは牢獄についてからだった。


「「............」」


 マリーはカラッポになった牢獄を目の当たりにして、騒ぎの原因がチカ達であることに気づき、ショックのあまり膝から崩れおちた。


「マリーさんっ!? しっかりしてくださいっ!」

「うぅ......」

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