第80話 拝啓。娘より愛を込めて

 お父さん。お母さん。お元気ですか? 私はいま異世界の牢屋の中にいます。ただ友達を探してただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのか……。私にも原因が分かりません。でもきっと大丈夫です。心配しないでください。


 薄暗い牢獄の中。

 チカは鉄格子の隙間から差し込む月の光を眺めながら、遠く離れた家族へ想いを馳せていた。


「うわーん! とうとう犯罪者になっちゃったのニャー。もう私の人生おしまいニャー……」

「き、きっと大丈夫だよ。メリィちゃん元気だして?」


「誰のせいだと思ってるのニャ!! ううっ……。マリィィイ──ッ!!」


 嘆き悲しむメリィちゃんの声が獄中に響く中、シィーは頬を膨らませてムスっとした態度で……。


「私はすぐにでもこんなとこから逃げたいの。別に悪いことしてないし、捕まるなんておかしいの!」


「確かにそうだよねー。勝手に集まってきただけだもんね。……あれ? でもシィーなら精霊魔法でなんとかできないの?」


「私もそう思ってチカについてきたのに、なぜかこの牢獄に入ってから精霊魔法が使えねえの!」


「そんなの当たり前ニャ。あれを見てみるのニャ」


 そう言うと、メリィちゃんは牢獄の金属製のドアを指差した。ドアには手のひらサイズの箱型の魔道具がついている。


「あの箱がどうしたの?」


「口で説明するより見たほうが早いかもしれないニャ。……はい。これを腕につけてあの箱に触れてみるのニャ」


 メリィは腕につけていたシルバーのブレスレットを外しチカに向かって差し出した。


「なにこれ?」


「いいからそれをつけて箱に触れてから、頭の中で鑑定って言ってみるニャ!」


 チカは不思議そうに首をかしげながら、言われたとおりブレスレットをつけて頭の中で『鑑定』と唱えてみた。



 堅牢な魔封印

 効果:半径10m圏内にいる者の魔法と魔力を封印する。アダマンタイト製で非常に強硬。



「おー!」


「見えたかニャ?」


「うん。これのせいで精霊魔法が使えないってことか!」


「そういうことニャ……」


「ちっ!! なんて忌々しい魔道具なの! クソ人間どもめっ! きっとこれのせいで昔の勇者も殺されたの!」


「あれ? シィーにも見えるの?」


「あー。チカと私は契約で繋がってるから、チカの鑑定画面とかは私も見えるの」


「へぇ〜。じゃあステータス画面やプロパティの画面とかも?」


「もちろん見えるの!」


 マジか。初めて知った。それ結構便利じゃない? たくさんの敵に囲まれた時なんか、プロパティの結果をみてる余裕なんてないもんね。


「あれ? でもなんでこのブレスレットをつけると鑑定が使えるの?」


「それはブレスレットに鑑定の術式が彫られていて、魔力はブレスレットについてる赤い宝石の魔力を使ってるからニャ。まー、魔力を補充しないといけないっていうデメリットはあるけど……。それでも商人にはうってつけの魔道具だニャ!」


「なるほど。相手にバレずに鑑定できるもんね」


「そういうことニャ!」


 へぇー、これいいなぁ。牢獄をでたら念のため何個か買っておこうかな? いま私が持ってる魔道具っていったら……。


 チカは自分の右手につけている指輪を、左手の指先で触れながら、頭の中で『鑑定』と唱えた。



 イマジネーションリング

 効果: イメージを身体に伝達する能力が少し向上する。レベルにより効果も上昇していく。


 メリィちゃんに貰ったこのイマジネーションリングぐらいだもんね。


「それにしてもこの牢獄の中、ジメジメしてて暑苦しいのニャ!! 喉が乾いてしょうがないニャ」


「あっ、私飲み物もってるよ! よかったら飲む?」


「ニャハハ。その気持ちは嬉しいけど──」


「ちょっと待ってね!」


 チカはバックの中からジュースを2本取り出すと、1本をメリィの手に渡してから、もう1本のフタを開けた。


「んぐんぐ......。ぷはっー! おいしぃーっ!! ……あれ? メリィちゃん飲まないの?」


「なっ……。な、な、」


 呆然と、メリィは目と口を開けて間の抜けた声を漏らした。


「な、なんで!? いまどうやってバックから取りだしたのニャ!?」


「えっ? 普通に取り出しただけだけど……」


「ここは魔力が封印されてるはずなのニャ!! 収納魔道具から取り出せるわけないのニャっ!!」


「ん〜? だって魔力つかってないじゃん」


 チカは不思議そうに首をかしげると、再び手に持ったジュースを口元に運んだ。


「何を言ってるのニャッ!! 収納魔道具には魔力が絶対に必要な──」


「メリィ。驚くのはまだ早いの……」


 シィーの力強く言い切るような口調に、メリィはおもわず口を噤んだ。


「……それはどういうことニャ?」


「まあー、ちょっと待つの。……ねぇ、チカ。その指輪はいったいどうしたの?」


「えっ? これ? こ、これはメリィちゃんに貰ったんだよ!? ねっ? メリィちゃん!!」


「そうだニャー。 そのイマジネーションリングは確かに私がチカにあげたものだニャ」


「ふーん……。メリィ。チカからブレスレットを返してもらって鑑定してみるといいの」


「ニャ? チカちょっといいかニャ?」


「う、うん」


 なになに!? 急にシィーはどうしたの!? そんないきなり真面目な雰囲気をだされても、わたし凄く困るんだけどっ!?


「ニャっ!?」


「……本当にはメリィがあげた指輪なの?」


「だからそうだってばっ!! もう! いったい急にシィーはどうしたって──」


『私があげた指輪じゃないニャ……』


「えっ!? ちょっとメリィちゃん!?」


 メリィの言葉を聞いて、シィーは瞳を閉じながらゆっくりと息を吐きだした。


「そんなことだろうと思ったの……」


「でもこれはどういうことなのニャ?」


「たぶんチカがやったの!」


「まー、確かにそれしか考えられないニャ。……けど本人は自覚がないみたいニャ」


「それはいつものことだから気にするだけ無駄なの!」


「ニャハハっ! それもそうだニャ!」


 シィーとメリィちゃんは、お互いを見つめがら吹き出すように笑いはじめた。


『いやいやっ!! 2人で納得してないで、私にもちゃんと説明してよ!!』

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