第79話 マリーちゃんと狼? ②


「ふぅー。この辺りまで来ればさすがにもう平気かな?」

「だったら恥ずかしいから早く降ろしてほしいのニャ!」

「わっ! ごめんごめん」


 お姫様抱っこされてたメリィは、顔を赤らめて恥ずかしそうにしながら、乱れた服をパンパンっと叩いて整えた。


「それで? さっきのやつで一体何をするのニャ?」

「あー、これ?」


 チカはバックから拡声器を取りだして、口元に近づけていく。


『あーあーあー!』


「ニャッ!? チカの声がすごく大きくなったのニャ!!」

「おー! これはすごいの!」


「これでマリーちゃん達に、呼びかけながら街を歩けば見つかるかなーって」

「それは名案なのニャっ!!」

「でしょっ!」


 チカとメリィの様子を見ていたシィーが、呆れた顔で2人をじーっと見つめながら、


「──ねえ。マリーの邪魔をすることになるけど、それはいいの?」

「ニャっ!? そうだったのニャ!」

「メリィ! しっかりしなきゃだめなの! チカなんかに流されちゃだめなの!」


「そこまで言わなくてもいいじゃん! シィーのばーか!」

「あんな大勢の前で加護の力を使ったバカに言われたくねえの! それでよく私に『あまり目立ちたくないんだよ』とか言えたもんなのっ!」

「なにそれ! いまの私のマネしたつもりなの? 言っとくけど全然似て──」

「すごいニャ!! チカにそっくりだったのニャっ!!」


「......」


 メリィの突然の援護射撃に、チカはシィーに言い返すことができなくなり、思わず口をつぐんだ。



 その様子を見ていたシィーは、勝ち誇ったように胸を張って、ニンマリした笑顔を浮かべながら、


「チカー? 急に黙っちゃってどうしたの? まだ私に何か言いたことでもあるの?」


「くぅーっ! 私だって分かってるよ! シィーの言ってることが正しいことぐらい! ちょっと悔しかったの!」


「そう言うのはよくないの! 自分が悪いときは? ほらチカどうすればいいの?」


「うー......。ごめんなさい。」


「ふふふ! しょうがないなあー! 許してあげるの! これでもチカを心配して言ってるんだから感謝してほしいの!」


「それは分かってるけどさー」


「まあ少し私も言い方が悪かったのは謝るの。──それでどうするつもりなの?」


「んー。メリィちゃんどうする?」



 メリィは少し悩んで、


「断固阻止ニャっ! デートは賛成だけど、夫婦になるまえに、男女の関係になるなんて絶対ダメなのニャっ!!」

「あーそういえば、チカがそんなこといってたの。私もそれは反対なの」

「じゃあやっぱりコレ使う?」

「使うのニャ! それでどうすればいいのかニャ?」

「ふふふ。まかせて? 私にいい考えがあるから。シィーも手伝ってね?」

「いいけど、何をするつもりなの?」

「それはね──」


 チカは邪悪な笑みを浮かべながら、楽しそうにマリーちゃん捜索作戦の内容を説明していった。


 ふははっ! 遊者がどんな顔をして私達のところへくるのか今から楽しみだ!!

 

 マリーちゃんを誑かした罪は重いよっ!



 ◆◇◆◇


 時は少し遡り。


 王都のアクセサリー商店でマサキとマリーは、ガラスケースに入れられた綺麗なイヤリングを2人で眺めていた。


「これなんていいんじゃないですか?」

「ちょっと派手すぎない?」

「んー。言われてみれば確かに......。あっ、じゃあこっちのウネウネしたのなんかどうですか?」


 マサキはシルバーのリング状のピアスを手に取った。曲線がウネウネと歪な形をしたシンプルなデザインだ。


「これならどんな服にも合わせやすいんじゃないですか?」

「ん? どれ?」


 マリーはピアスを手に取って、自分の耳に当てながら、


「どう? 似合う?」

「すごく似合ってますよ!」

「ん! ありがと。じゃあこれにする!」


 マリーとマサキは会計を済ますと、仲良さげに手を繋ぎながらお店を後にした。


「さて、じゃあ次は何処にいきましょうか」

「勇者様は何処かいきたいとこある?」

「あははっ! マサキでいいですよ。勇者様って言われのは、なんか恥ずかしいので」

「ん。分かった。じゃあマサキって呼ぶね」

「助かります。でも行きたいところですか......。──よければ少し静かなところに行きませんか? ここじゃ人も多いので」

「ん。分かった。何処にいくの?」

「あそこなんてどうです?」


 マサキはそう言うと、王都の城壁を指差した。マリーはそれを見て不思議そうに首をかしげる。


「外にいくの?」

「いえ、城壁の上ですよ。あの上って歩けるようになってるって知ってました?」

「おー。知らなかった! でも勝手に歩いたら怒られない?」

「ふふふ。俺についてきてください」



 マサキの案内で城壁に向かって歩いていくと、城壁の見晴らし台へ続く扉が見えてきた。

 扉の前には兵士2人が立っている。


「これは勇者様じゃないですか! 一体どうされたのですか?」

「ちょっと彼女に見晴らし台からの景色を見せてあげたくてね。入っても平気かな?」

「もちろんです! ささっ! どうぞ中へ」

「ありがと」



 扉の中へ入って、室内の階段を登っていくと城壁の外へでた。


「すごーい」

「あはは! 凄く綺麗ですよね」


 2人の視線の先には、美しい新緑の大地と山脈が地平線まで続き、澄み切った青空が視界いっぱいに広がっていた。


「うん。すごく綺麗......」


 マリーはうっとりした表情で遮蔽物の一切ない見晴らしの良い風景を眺めながら、おもわず息を呑んだ。


「マサキ。連れて来てくれてありがと」

「いえいえ。マリーさんに喜んでもらえたようでなによりです」

「お姉ちゃんとチカにも見せたかったなあ。ねえ、今度連れてきちゃダメ?」

「もちろんいいですよ! また今度一緒に見に行きましょう」

「ん......。楽しみ」



 ◆◇◆◇


 2人が見晴らし台から戻ってくると、王都の中がなにやら騒がしいことに気がついた。


 街の人々はマサキとすれ違うたびに、ニコニコした微笑みを浮かべながら、チラチラと視線を向けてくる。


「なんでみんなあんなに笑顔なの?」

「なんでしょうね? みんな俺をみて笑ってるような気が──」


 マリーとマサキが不思議そうに周囲を観察しながら歩いていると、遠くの方から響くような女性の声が聞こえてきた。まだ距離があるせいか何を言ってるのかまでは聞き取れない。


「これは......。まさか拡声器?」


 マサキは独特な声の響き方から、誰かが拡声器をつかって話している声だとすぐに気がついた。


 ──創りだせる人物なんて、あの人しかいないよなあー。でもいったい何を?


「これチカの声?」

「みたいですね。この方角だと......。王都の中央にある噴水広場にいるのかもしれません。ちょっと行ってみましょうか」

「ん!」



 噴水広場へ行ってみると、物珍しさからか、噴水広場はたくさんの人々で溢れかえっていた。


「すごい人ですね。全然前が見えないや。チカさんは一体何をやってるんだ?」

「マサキ、あの建物の上に登ってみよ?」

「それがいいかもしれませんね」



 マリーとマサキが二階建ての建物の上に登って、噴水広場を眺めてみると、物凄い数の人々が広場に集まる中、なぜか噴水のそばだけポッカリと穴が空いたみたいにスペースができていることに気がついた。


 そのスペースを見てみると、頭に深々と帽子を被って、サングラスと大きめのコートを着た、見るからに怪しい2人組がなにやら言い争いをしていた。


「チカ──ッ!! これどうするつもりなのニャっ!! なんかとんでもないことになっちゃったのニャっ!!」


「分かってるよ!! でももう続けるしかないじゃん!! ごほんっ!」



『迷子のお知らせをします。マサキさま。マサキさま。お連れさまがお待ちです。至急、噴水広場までお越し下さい。迷子のお知らせを──』


「ニャーッ!? チカ大変ニャっ!! 王城の方から、たくさんの兵士達がこっちに向かってきてるのニャッ!!」


『えええええええ──ッ!!』



 拡声器を使ったチカの大きな叫び声が周囲に響き渡るなか、うつろな目で2人の様子を見つめていたマリーは、マサキの方へ振り向くと、申し訳なさそうに深々と頭を下げた。

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