第78話 マリーちゃんと狼? ①


「じゃあ15歳はこの世界では立派な成人になるってこと?」


 メリィはチカの腰にギュッとしがみつき、肩を上下させて、苦しそうに呼吸を乱しながら、


「ぜえぜえ......。そ、そういうことニャ」

「でも、10歳近く歳も離れてるんだよ?」

「はあはあ......。チカの世界では異常なことなのかニャ?」

「異常ではないけどさあ......」


 15歳と25歳だしなあー。

 生徒と教師ぐらいの年齢差だ。ドラマで見たことはあるけど、まさか私の身近でそんなことが起こるなんて思いもしなかった。


「はあ......、はあ......。そ、それにマサキを誘ったのはマリーみたいなのニャ! 姉として妹の邪魔をさせるわけにはいかないのニャ!!」


「あぁー!! もう分かったよ。邪魔しないからもう離して大丈夫だよ?」


「はあ......、はあ......。や、やったのニャ。私はマリーを守りきったのニャ......」

「メリィお嬢様っ!?」


 メリィはチカから手を離して満足げに微笑むと、そのまま床に膝をついた。それを見て、マリアが慌てた様子でメリィに駆け寄っていく。


 そんな大袈裟な......。これじゃあ私が、2人の邪魔をする悪者みたいじゃんっ! いや実際そうなってた可能性はあるけどさ? マリーちゃんも私に相談してくれてもよかったのになあー。


 ◆◇◆◇


「チカー。どうしても行くのかニャ? 私はどうも気が進まないんだけどニャー......」


 メリィは呆れた顔で、前を歩くチカの背中を見つめて呟いた。それを聞いたチカがバッと振り返ると、メリィの両肩を掴んで瞳をジーと見つめながら、


「マリーちゃんが狼に襲われちゃってもいいっていうのっ!? ちゃんと見張っておかなきゃ危険だよ!」

「はあー。王都に狼なんていないのニャ」

「メリィちゃんは分かってない! 男は狼なんだよ? 油断して隙を見せたら、もうガバッ!っといかれちゃうんだから」

「ニャっ!? そ、それは困るのニャっ!」


 シィーは上空から2人のやり取りを見つめながら、大きく溜息をついた。


「2人してバカなの? マリーがそんなあっさり襲われるわけねえの」

「分からないじゃん! 勇者の凄い力とかで、こー、ババっとやられちゃうかもしれないよ?」

「ニャっ!? マリーはなにをされてしまうのニャっ!?」


「はあー。メリィは単純すぎるの。それにしても、そのおかしな格好はなんなの?」

「ふふふっ! 変装だよ? いつもの猫耳パーカーじゃ2人にすぐバレちゃうでしょ?」

「いやそれは分かるの。私が聞きたいのは、どうして全身コートなのかってことなの!」

「尾行といえば、帽子に全身コートでサングラス!! これが基本なんだよ!」


 チカはそう言うと、その場で身体をクルリと回転させて、茶色いコートをヒラヒラはためかせると、帽子を深く被りなおしてからドヤ顔でシィーを見つめた。


「── やっぱりチカが考えて行動するだけ無駄なんだってことだけは分かったの」

「えええっ!? どうしてそうなるの!?」


 シィーはチカを冷めた目で見つめながら、呆れたように首を横に振った。


 ◆◇◆◇


 私達はマリーちゃんと遊者マサキを探すため、王都をひたすら歩き続けた。


「どこにもいないのニャ!」

「本当だねー。一体どこにいったんだろ?」


 まさかこんなに探しても見つからないなんて。王城にいるとかなのかなー。


「んーっ! シィー、なにかいい道具だしてよおぉぉー!」

「道具なんかだせねえのっ!! チカは私をなんだと思ってるの!?」

「有名な青い猫型ロボット的な妖精?」


「わけがわからねえのっ!! ──ん? いや待つの。むかしティターニア様から聞いたことがあるかもしれないの。えーと。確か名前は──」

「わわっ!!」

「ふぐっ! んんっ!? んんんーっ!!」


 私は慌てて指でシィーのお口を塞いだ。



 ──あれから王都の中を片っ端かたっぱしから探してみたけど、マリーちゃん達を見つけることはできなかった。というか王都ひろすぎっ!!


「はあー。いないニャー」

「── これはもう手遅れかもしれないね......」

「ニャニャっ!? どうしてチカはそういう事を言うのニャっ!?」

「きっと今頃マリーちゃんは......」

「にゃあああああああっ!! もうチカっ!! どうにかしてよっ!!」

「えー。そんなこと言われても......。──ってあれ? いまメリィちゃん普通に話さなかった?」

「あっ......。き、気のせいニャ! 急に一体なにを言い出すのニャっ!」


 いや絶対話したよね?

 ニャって語尾はワザとつけてるの?


「そんなことより、今はマリーを探すのにニャ! マリーが食べられたらどうするつもりなのニャっ!?」

「むー! 確かにそれはそうなんだけど。こんだけ広いとなぁー......。放送で呼び出せたらいいのにって、──ああっ!!」


 ──そうだよ! 呼び出せばいいんじゃん!



「ねえシィー! 精霊魔法で私の発した声を振動させることはできないかな?」

「んー? できないことはないと思うの。けどそんなことしてどうするつもりなの?」

「ふふふ! ちょっとまってね?」


 私は軽く両手を前に上げて、手のひらの上に拡声器を創りだした。もちろん単3電池対応だよ? 私は日々成長してるからね!


「おー! それはなんなのニャ!?」

「ふふふっ! これは──」


 チカが自慢げに拡声器の説明をしようとした瞬間、周辺にいた住民は突然発生した光に驚き、どよめきだした。


「いまの光は?」

「おいっ! いまのなんだ!?」

「あっちのほうが光らなかったか?」


 周りの住民のどよめきを聞いて、チカの顔色は見る見るうちに青褪めていき、薄ら笑いを浮かべながら頬をピクピクと引きつらせた。


──ま、またやってしまった......。


 ふと視線を感じて、恐る恐る振り向くと、シィーがジト目で私を見つめていた。シィーと目が合った瞬間、自室でシィーに言われたことを思い出して、気まずさからおもわず視線を逸らす。



「ね? 私が言った通りなの。やっぱりチカは考えるだけ無駄なの」



 ──うわああああ──ッ!! 私のばかああああっ!!



「メリィちゃん!! すぐにここから離れるよっ!! シィー! 補助魔法をお願いっ!!」


「はあー。しょうがない契約者なの」

「ニャっ!?」


 チカは拡声器をバックにしまってから、かがんでメリィを横抱きにして持ち上げると、全速力でその場を後にした。



 ──住民達はただ呆然と、走り去っていく謎のコートをきた人物の背中を見つめていた。

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