第77話 合法? いえ違法です
王都の食事会から数日が経った。
チカは拠点の自室にある椅子に腰掛けて、テーブルに置かれたカップを口元に運ぶと、小さく溜息をついた。
「私は一体どうしちゃったんだろう......」
『もう一つの人格』に『記憶の欠落』。
両方とも元の世界で暮らしてた頃はなかったものだ。いやそれとも私がなかったと思い込んでるだけなの......?
──王城の城壁前で記憶の欠落に気づいた私は、マサキさんが知っている『ちぃー』の噂について、あのあと詳しく聞くことができた。
噂では、『ちぃー』は漆黒の槍使いで、数々の迷宮を単独で制覇している有名なソロプレイヤー。レイドボスを狩るイベントでは、高笑いをしながらBOSSを罵り、トドメを刺す彼女の姿を多くのプレイヤーが目撃しているという。
マサキさんが語る『ちぃー』の噂は、私が知る『彼女』そのものだった。
1つだけ私の記憶と違かったのはキャラクターの容姿だ。マサキさんから聞いたキャラクターの容姿は、私が使っていた『ちぃー』と全く同じだった。
もちろんゲームの噂なんて当てにならないことが多い。『彼女』は私と一緒に遊ぶようになるまではソロプレイヤーだったし、『彼女』が去ってからは、私が漆黒の槍を使ってた期間がある。
ただもしゲームで遊んでた頃から、私の中にもう一つの人格が存在していたのなら、辻褄があってしまうのも事実だ。
チカは自身の身に起こっている異変について、思いを巡らせては悪いことばかり考えてしまい、疑心暗鬼に陥っていた。
「はあ.....。家族と話すことができれば、何か分かるかもしれないのになあ」
「チカはまだ考え込んでるの?」
「ん?」
声がした方を振り向くと、シィーが呆れ顔で私を見つめていた。
「もういい加減考え込むのはやめたほうがいいと思うの! どうせ無駄なの!」
「えー......。いやそんなことはないでしょ」
「あるの! 普段からチカは考えてるようで、いつもどこか抜けてるの! それにいざその状況になると、考えなしにすぐ行動に移しちゃうから考えるだけ無駄なの!」
「考えなしに行動しちゃうのは、シィーも一緒だよね?」
「ふふん! だから私は考えたりしねえのっ!」
そう言うと、シィーはドヤ顔で胸を張った。
──なんでシィーはドヤ顔なんだろう。自慢できるようなことじゃないからね?
◆◇◆◇
昼食の時間になったので自室をでて居間にいくと、すでにテーブルにマリアさんが作った美味しそうな料理が並べられていた。
マリアさんが私に気がつく。
「チカ様。ちょうどいま呼びにいこうと思ってたところでした」
「そうだったんだ! じゃあナイスタイミングだったね!」
「ええ。そのようですね」
マリアさんに呼ばれて、みんなも居間に集まってきた。
食事を美味しく食べていると、ふとマリーちゃんが居間に降りてこないことに気がつく。
「あれ? メリィちゃん。マリーちゃんはどうしたの?」
「ん? 聞いてないのかニャ?」
「うん。何も聞いてないや。何かあったの?」
メリィちゃんは嬉しそうにニマニマと笑いながら、
「ふふふ! ニャンと! マリーは今日デートに行ってるのニャ!」
「えええええ──ッ!?」
マリーちゃんがデートっ!?
いつの間にそんな相手がっ!?
「朝早くからそれはもう嬉しそうに準備して出かけて行ったニャ! 姉としては嬉しい限りだニャ!」
「あ、相手はどんな人なの?」
「ふふふ! チカも会ったことがある人だニャ!」
「えっ?」
私も会ったことある人?
マリーちゃんにそんな関係の人いたっけ?
王都でもニッケルの街でも、マリーちゃんにそんな素振りは一切なかったしなあー。
チカが考えるていると、メリィが唇に指を当てて、悪戯っぽく笑いながら、
「誰にも話さないで内緒にするって約束できるかニャ?」
「うん! もちろんだよっ! それで相手は誰なの?」
「なんと! あの勇者マサキなのニャッ!!」
「えっ......」
──アイツやりやがったあああ──ッ!!
チカはゆっくりと椅子から立ち上がると、食器を片付けてから外に繋がる扉の方へ歩いていった。チカの顔に表情はない。
チカのただならぬ様子にメリィが慌てて声をかける。
「えっ!? チカ!! ちょっと待つのニャ! 一体どこに行くつもりなのニャ!」
「ふふふ。犯罪者を探しにいってくるよ」
「犯罪者?急にどうしたのニャ?」
「まさか幼女に手をだすなんて......。この世界にお巡りさんはいないけど、私が絶対に奴を捕まえて見せるよ」
「わけが分からないにゃ! だいたい奴って誰のことを言ってるのニャ?」
「ロリコンマサキのことだよ」
「えっ?ロリコン?」
「大丈夫。安心して?」
チカはそう言うと、満面の笑みをメリィに向けてから、ドアノブに手をかけた。
「ち、ちょっと待つニャっ! チカのその笑顔、すごく怖いのニャッ! 絶対に行かせるわけに行かないのニャっ!!」
メリィはチカに抱きつくと、チカが外に出ていかないように必死に踏ん張り続けた。
愛する妹の幸せのために。
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